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風の行方  作者: 藍月 綾音
本編
13/61

ごぉ~の1

今私は、なんだかよく分からないうちに同じ学部の人、確か小野田 結さんだったっけかな?に腕を組まれてぐいぐいと連行されていた。



小野田さんはいわゆる、マシンガントークという話し方をするので、私が口を挟む隙をまったく与えてくれない。


小野田さんに話しかけられると、私の返事は、うん、ううん、そうだね、 それくらい。


そして、今日はそのマシンガントークに押されて夕方から一緒にご飯を食べる約束をしてしまったのだ。彼女曰く、彼氏に約束をすっぽかされてしまったのだけれどどうしても行きたいお店があるとの事。一人でレストランに入るのは気後れするのだそうだ。


私は断った。断ったのに、私がよっぽどとろいのか、小野田さんは、私の腕をしっかり捕まえてぐんぐん目的地へと進んでいく。もう、強引過ぎて呆れるくらいだよ。さぁ、帰ろうとキャンパスを歩いていたら待ち伏せされていた挙句に、まるで逃がすまいとするように腕を絡ませ、引きずるように歩かされているんだから。流石に私も、諦めて一緒にご飯を食べて帰るつもりでいるけどさ。


だいたい方向音痴の私には、ここがどこなのかすら見当もつかなくなっていた。確実に小野田さんに連れて帰ってもらうか携帯のナビを使うかしないと駅にすら辿りつけないと思う。


大学歩いていける距離みたいなんだけど、私にはもうさっぱりだ。


私の大学は所謂お嬢様学校だ。キャンパスも高級住宅地の中にある。だから、今歩いているところも大きな家が並んでいるから、目印になるようなものが圧倒的に少ないのだ。


隣を歩く小野田さんは小柄で私と背がおなじくらいだ。


色は白くて透き通るみたいだし、全体に色素が薄いのか、チョコレート色の髪とカフェオレ色の瞳をしている。自前なんだと言っていた。


大きな二重の瞳はどこか小動物を思わせて、くりくり感がたまらなくかわいい。黙っていれば、薄幸の美少女なのに、あのマシンガン トークで人を驚かせている。


といっても、あまり話したことはなかった。講義でよく顔を合わせてそれなりの世間話程度はするけれど、一緒にご飯を食べたりするのは今回が初めてだ。


「嘉月さんは、彼氏いないっていってたよね。嘘ついてしまって申し訳ないんだけど。実は、今日は紹介したい人がいるんだ。私の彼の友だちでね、この前私の事迎えにきてくれた時に、嘉月さんを見かけたらしくって、ぜひ紹介してくれって押し切られちゃったんだ。いや?いいよね?大丈夫でしょ?彼氏いないし。会うだけで付き合ってっていっているわ けじゃないから」


「あっ、もちろん気に入ったら付き合いなよ。結構いい男だし、人柄は私が保証するから。ほら、嘉月さんって男の人苦手そうじゃない?だけど、今日紹介する人は本当にいい人だから。付き合うことになったら、私たちとダブルデートとかもしよう。楽しいよねきっと。遊園地とか動物園とか、意外なとこで、釣りとかもおもしろそうだよね?そうそう、私とまぁくんはね…………」


目的地へ向かう間も、小野田さんのトークが止ることはない。


当然私が意見をいう隙間も無いんだけど。


……紹介って話の流れから男の人だよね?聞き間違いじゃないよね?


二人でご飯食べようってさっき言ってたよね。彼氏とのデートがダメになって寂しいのってさっき言ってたよねっ。


彼氏とその友だちが一緒 にご飯食べるの?


私いらないじゃん。

彼氏いるじゃん。


しまった騙された!!


もう、後の祭りで、私は彼女から逃れられない。こんなことなら、彼氏ぐらいいるって見栄をはっておくんだった。


私の馬鹿っ。


「ここ、ここぉ~。この間、オープンしたばかりなんだけど、すでに予約しなくちゃ席がないくらい有名なんだよぉ~。今日は、嘉月さんと奏くんの出会い記念日だからぁ、まぁくんがはりきって予約してくれましたっ!!きゃ~!!いいでしょ?いいでしょ?おしゃれでしょ?それでね、それでね……」


しまった、どこから突っ込もうか。


いや、突っ込むことすら空しいな。多分彼氏とやらがまぁくんで、その友だちが奏くんとやらか。


てか、付き合うの決定かっ。出会い記念日ってなんだそれっ。

まぁくんなに余計なことしてくれちゃってんの!!


予約さえとらなければ、私が今日ここに引っ張られることもなかったのに。


あぁ、やっぱり突っ込んじゃったよ自分。


だって、小野田さんてば私の話をかけらも聞く気がないんだもんよ。


そこで、私はピタッと足と止めた。驚いた様に小野田さんが私の顔を覗き込む。


「嘉月さん。どうしたの?」


そう、確かにお店はおしゃれだった。


なんというか、高級感が漂っている。ライトアップされたその姿は、どこか外国の小さなゲストハウスのようで……。


要するに、絶対に高いっ。


「小野田さん。私、こんな良いお店に入れるほど、持ち合わせがないよ?せっかくだけど、他のお店か、また今度別の日にしてくれ……」

 

私は最後まで喋らせてはもらえなかった。


「だいじょぉぶだよぉ~。今日は、まぁくんと奏くんの奢りだから。あったりまえじゃん。紹介料だから気にしないでぇ。むしろ帰ったら私が、奢って貰えないから行こうよ。いいよね。ほら、早く」


「えっえっええええ~!!!」


無理やり歩かされて、とうとうお店の前までつれていかれてしまった。


これは、ひょっとしなくても小野田さんがここのお店に来たかっただけなんじゃ……。


「あっいたいた。あの人達だよまぁ~くぅん」

 

お店の少し手前にいた男の人二人が、私たちに気づいて笑顔になる。


だけど私は、今すぐここから逃げ出したいと切実に願っていたのだった。

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