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風の行方  作者: 藍月 綾音
本編
12/61

よぉ~んの5

「えっ?今なんて……んっ」


聞き返す前に、橘先生は私の唇を掠めるように塞いでいた。


一瞬の出来事に頭がついていかない。


今、私なにした?橘先生とキス?した?


反射的に唇を押さえる。


橘先生は何かを考えるように首を傾げると、自分の唇をペロリと舐めた。その仕草が、やけに艶っぽくて……。


なぜか背筋がゾクリとした。


「………きら。……もっと」


熱のこもった声と上目遣いで、そう言われると抵抗なんかできなくて…………。


自分の唇を押さえていた手をそっと外されて、橘先生が近づいてくる。


何かに魅いられたように橘先生にされるがままになっている。


そのまま指を絡ませて、橘先生の唇を受け入れてしまった。


触れるだけの口付けが、徐々に深くなっていって、何度も唇が落とされる感覚に私は酔った。


なんだか、体熱くて 、橘先生から漏れる吐息がさらに体を熱くして……。


頬に手を当てられて、上を向かされたと思ったら、唇の間から舌が進入して来た。


その刺激に頭が真っ白になる。


キスがこんなにも気持ちがいいものだなんて知らなかった。



「ふぁ。………んんっ」



我慢なんて出来なくて、自分でも初めて聞くような甘い声がもれると、絡められた手に力が入り、反対の手で腰を引き寄せられさらに密着する。


橘先生が私の足の間に体を滑り込まさせていて更に羞恥を煽られる。


橘先生に与えられる初めての刺激に私は為すすべがなかった。


何かの合図のようにチュっと音を立てて、唇を吸われ橘先生が顔を離した。


「ごちそうさまでした。本当はもっといい事したいけど、今日はここまで」


「センセ…………」


思わず吐息混じりにささやく。自分の声が甘さを更に含んでいて、驚いた。



「ん?もっとして欲しい?きらすごく、やらしい顔してる。巽が帰ってきちゃうよ?」


意地悪い声音と台詞に、顔が真っ赤になるのがわかった。


やっやらしい顔ってどんなの?


「ちがっ。違う!!!ちがくて、あ~もうっ!!やらしいのは橘先生でしょっ!!」


キスしたのは、橘先生なのに!


とたんに、ぎゅっと抱きしめられる。


私の心臓が大きく跳ねた。


橘先生に抱きしめられるのは、2回目だ。


「きら、駄目だよ。きらが思っているより、ずっとヤバイんだ。だから、そんな顔しちゃ駄目だし、俺を信用しちゃ駄目だよ」


信用しちゃ駄目って。

いや、意味解らないし。


表情はわからないけれど、なんだか真剣な声音に私はなにも答えを返せなかった。


「あっ。今のこと、巽には内緒だよ?あいつ、焼きもちやきだから」


って、橘先生に?

もしや、本当に二人付き合ってるの?


えぇ!!!まさかっ!!


じゃぁ、私おもいっきりお邪魔虫ジャン!!


驚いて息を呑んだ私に、耳元で大きなため息が聞こえた。


「きらって、どんだけ天然なの?ちがうからね、マジ鳥肌たつから。そういうの、考えるのやめてくれる?俺、ノーマルだからね?」


私は羞恥と驚きでさらに顔が赤くなる。


「なっ。なんで私が考えてること分かるの?」


「きらって、ものすごく分かりやすいよ。高校生の時とは大違い。学校じゃ無表情だったのに。」


それは、単に作ってたというか、かかわりを持ちたくなかったっていうか。


くすくすと橘先生が笑うから、首元に息がかかってくすぐったい。


「センセ、くすぐったいよ」


「いいね、なんかこのシュチエーション。センセなんて呼ばれるとものすごーくいけない事してる気分だ」


………いや、元生徒とチューはいけなくないのか?いいのか?


それに、なんか発言内容がオヤジだよ、先生。


「カズ、お前どんだけ変態なの?そのかっこう、どこぞの昼ドラで幼な妻おそってる悪い男な感じ?」


いつの間にか帰ってきたのか、巽が台所に立っていた。


それに構わず、橘先生はさらに私をきつく抱きしめた。


「どっかの誰かさんにチューされたから、癒してもらってんの。これがやらしく見えるんだったら、巽の頭が腐ってるんだよ。ハグしてるだけじゃん」


……いや、さっき、濃厚なのかまされてますけど?


私にとって初チューでしたが、なにか?


「助けてやったんだろうが。別にキスぐらいで騒ぐなよ。今更だろうが」


……今更?ってえっ?やっぱりそうなの?


「だから、ちがうって。鳥肌たつって、いってるだろ?きらは被害にあった事ないの?こいつ、お酒が一定量越すとキス魔になるじゃんか」


だから、なんで私の考えてることが分かるんだ?


てか、巽ってキス魔だったの?そりゃ知らなかった。巽を伺い見ると馬鹿にしたように顎を上げて鼻で笑った。


「ばーか、俺がきらにそんな醜態を見せるわけないだろうが。それより、いい加減離れろよ。いくらカズでも、もうそろそろ殴るぞ?」


橘先生は、巽の言葉であっさりと体を離してくれたので、私は床におりると、食事の支度を改めてはじめた。


そうそう、橘先生が最後に首筋にキスを落としたのはきっと巽は気づいていない。


私は、ほてった頬を叩きながら巽から、マヨネーズを受け取ったのだった。


…………しちゃったよ。


ちゅー、しちゃった。


だって、嫌なんて言える訳がない。


初ちゅー、なのに濃厚なのだったけれど、びっくりするほど気持ちが良かった。


ヤバい、橘先生の腕の中もドキドキしたし。


好きがもっと大きくなって大好きになる。


ミネストローネをかき回しながら、まだ火照っている頬を冷まそうと手をあてる。


あの、色っぽい橘先生の顔、しばらく忘れる事が出来ないかもしれない。



とっとりあえず、普通にしなければ。じゃないと本当に、巽に変に思われちゃう。


今は、唐揚げに集中だ。


揚げたての唐揚げと、ミネストローネはお気に召されたのか、大量に作ったにもかかわらず、巽と橘先生のお腹に収まった。


その頃には、なんとか普通の態度を取り戻した私は、今日の事を深く考えるのは止めることにした。だってさ、だってだよ?よく考えなくても只の口直しだからっ!


乙女の純情返しやがれっ!!!


橘先生の馬鹿っ!

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