プロローグ
この物語には多少の性的な言葉使いが存在します。
この物語では直接的な性描写はございません。
この物語は「サムライ」と言う言葉が出てきますが時代劇とは一切関係がございません。
嘗て世界は一度滅びた、謎の気体『瘴気』によって。
地表は瘴気に覆われ、生きとし生きるものは次々に倒れていった。
しかし、一部の生物はそのその環境に耐え、順応し、変貌を遂げバケモノとなっていったものが現れ始めた。
人々はそのような瘴気やバケモノの蔓延る過酷な環境から身を守るために『壁』を作り、その中での生活を始めた。
そして小規模ながら、各地にて様々な都市国家を形作り、辛うじて文明が滅びることを防いでいた。
何時しか時は流れ、『壁』に覆われた都市国家同士での交流が始まった。
交流はやがてネットワークを広げ、一つの国際機構が出来上がった。
『壁』の外側の世界を「魔界」と称し、その内側にある国家を楽園に喩えたその機構の名は『理想郷連合』。
そんな連合加盟国の一つたる極東の国「黄金都市ジパング」には、ある特殊な人材を育成する機関「ジパング武士専門学校」、通称「ジセ学」が存在した。
その特殊な人材と言うのが、『瘴気』の影響を受けたことで先天的、後天的に様々な『不可思議』を自在とする能力を有した者―――ジパングにおける通称を武者、世界的には『サムライ』と言った。
『サムライ』は、前時代的には「超能力者」と呼ばれるものであったが、現代においては寧ろ「魔法使い」に近い、より幻想的な能力を持っていた。
ある者は自然物を自在に操り、ある者は生物を意のままとすることが出来、またある者は身体的特徴を自在に変化させた。
そしてこの『サムライ』にはある特徴があった。
先ず、現在確認されている限りでこの能力を発症する者は約1万人に一人と言う点、そしてその99.9%が女性であるという点であった。
この能力にはある『因子』を有するか否かで発現するかどうかが決まるということが科学的に照明されているが、その『因子』を男性が有していることは理論上ありえない事であり、何故男性でも能力が発症するのかは今のところ不明である。
この『武者』たちは、瘴気に対して耐性を持っており、主に『壁』の外での開拓を行っている。
より強い『サムライ』になればなるほど、危険な「魔界」を自由に行き来することが出来、世の中ではそういった者を勇者と称え、かなり社会的地位が高いものとなっている。
因みに余談だが、そういった背景もあり、現在の世論では女尊男卑な世の中となっているのであった。
そんな「ジパング武士専門学校」に、世にも珍しい一人の武士候補が入学した。
その者の名は「宇留栖魯木」。
0.001%の中の一人、数少ない男性の『武士』であった。
彼は「ジパング」の中にある名家、宇留栖家の長男であり父は国内有数の財閥当主、母は「魔界」の遠征を4度もこなした『伝説の武士』であった。
そんなすさまじい経歴を持つ両親の子どもであるロキは、自分が入学する「ジセ学」に心躍らせていた。
「ここが、僕の学び舎………」
目の前に広がる豪壮な佇まいの校舎を見て、ロキは感嘆に暮れた。
今まで小さな私塾でのみ学業を身に付けてきたロキにとって初めての公的教育機関であり、学生らしい生活を行える機会を与えられた場であったからだ。
「これから、武士になるための専門的な勉強をして、色んな友達を作って、学食を食べて、偶には授業をサボったり………」
言いながら、ロキは拳を握り締めた。
「宇留栖魯木、今日から16歳の青春の第一歩が始まるぞ!!!」
意気揚々とスキップしながら、ロキは厳かな校門を通り抜けた。
だがしかし、ロキが思い描いていた理想の学園生活はこの専門学校において実現することはないのだということを、この時彼は知る由も無かった………。
「………と言うわけで、今日からこの学校に中途入学した新しい級友、魯木君だ。皆仲良くしてやれよ」
一限目が始まる少し前の時間、ホームルームの中でロキは担任の教諭に適当にそう紹介された。
(うわぁ、やっぱり『武士』の学校だけあって女の子しかいないや………)
少し呆気に取られながら、ロキはクラスを見渡した。
ロキのクラスは総勢20人、無論男子はロキのみであった。
「んじゃ、自己紹介をしてもらおうか」
担任の教諭、響麒麟はやる気のなさそうな砕けた口調でロキに促した。
(まずは第一印象を良くしなきゃ……)
ロキはそう思いながら言葉を紡いだ。
「初めまして、只今紹介に預かりました宇留栖魯木と言います。これから『武士』になるため、皆さんと力を合わせて、楽しい学校生活を送ってゆきたいので、どうぞよろしくお願いします」
ロキはそう言って深々とお辞儀をした。
(よしっ、噛まずに言えた!!!)
内心でガッツポーズをとりながらロキは頭を上げた。
(……………あれ?)
だが、その時ロキは違和感を感じた。
とりあえず挨拶をした流れとして、起こるはずのあることが起こらなかった。
(拍手が………ない?)
それどころかクスクスと笑っている女子や、露骨に嫌そうな顔で舌打ちをしている者がいた。
(僕って……………、歓迎されてない?)
内心で不安感に苛まれながら、ロキは棒立ちになった。
「えー、………じゃあなにか魯木君に質問がある人は挙手して」
その内心を知ってか知らずか、響教諭は先程の様なやる気の無い口調で質問を促した。
その瞬間、
「ハイッ!!!!!!」
クラスの全員から一斉に手が挙がった。
「えー、じゃあなぁ…………」
響教諭が誰を指そうか迷っていた。
(良かった、僕に興味はあるんだ………)
ロキはそのクラスの反応に、少し安堵した。
「んじゃ、藤田」
が、その分次の強烈な質問に対し、完全に不意打ちを喰らった。
「はい、ロキ君は女子とエッチしたことありますか?」
その質問を聞いた瞬間、ロキは固まった。
「……………………はい?」
硬直したロキがそれでもようやく搾り出した答えがそれであった。
「だから、おめぇ女にヤられたことあるかって聞いてんだよ!!!」
先程舌打ちをしていた柄の悪そうな女子が付け足すように怒鳴った。
(いきなり何でそんなこと!!? しかも『ヤられた』って…………)
ロキが動揺していると、
「おい榊原、その言い方は無いだろう………」
響教諭が苦言を呈した。
「『ヤられた』って………、別に犯されたんでなくて女と同意してヤってるかも知んだろうが」
だがその注意は完全にロキにとって的外れな文句であった。
「なぁ、魯木君」
そしてそれに同意を求めてきた。
「え、………いや、はい…………。……でも、僕まだ女性とは………」
狼狽しながらも、ロキは歯切れ悪く応えた。
「えっ、じゃあロキ君まだサクランボさん!!!!!」
満面の笑みで別の女子が大声で言った。
「やったーー!!! 『初モノ』!!!!」
その女子がそう声を上げると半数の女子が黄色い声を上げていた。
(な、なな、何なんだ!!?)
ロキはその状況が理解できずに、混乱していた。
「あー、五月蝿い。まだ質問は終わってないぞ」
騒ぐ女子たちを響教諭が一喝した。
「んじゃ、次の質問…………、言っとくが性的なの以外にしとけ。またおまえら騒ぐから」
一応弁えたつもりなのか、響教諭は質問に制限をかけた。
「…………ういっ」
先程の柄の悪い女子、榊原が挙手した。
「おめぇ、嬲られんのと詰られんのだったら、どっちが良い?」
高圧的な態度で、榊原はロキに質問した。
「…………えっと、どっちも、嫌かな…………?」
少し躊躇いながらも、早めに返答をした。
「あ゛あ゛ぁ!? てめぇにその選択肢は無ぇよ!!! 体痛めつけられんのか心ズタズタにされんのか今の内に選んどけッつー意味だよ!!!!!!」
榊原は物凄い形相でロキを怒鳴りつけた。
「ひぃっ………!!!」
あまりの剣幕に思わずロキは情けない声を上げた。
「ぷっ……、ハッハッハッハッハ!!! 今の見たか、情けねぇ!!!!!!」
榊原はそう言って大笑いした。
「決めたぜ、てめぇはどっちもボロカスにしてやらぁ!!!!!!」
上機嫌に物騒なことを言いながら榊原は机に踏ん反り返った。
「他に質問ある奴はいるかー?」
何事も無かったかのように響教諭は平然とクラスに尋ねた。
(なんなんだ、この学校!!?)
授業を始めるその前から、ロキは知らされることとなった。
この『ジパング武士専門学校』における男子の立場というものを………。