TS娘が、王子様のアオハルに巻き込まれました
突然だが、転生というのを信じられるだろうか?
俺は信じる。というのも実際目の当たりにしたからだ。どうやったかだって?鏡の向こうにいる奴が実際にしたからだよ。
そう、転生をしたのはこの俺だ。
転生に気づいたのは5歳の時。両親曰く、元々おかしな言動はしていたみたいだが、5歳の誕生日辺りで今世と前世の記憶がカチリとはまったような感覚が生まれ、そこでようやく前世の俺が主導権を握ったような形になった訳だ。
初めて転生したって事に気づいたときに思ったのは、人間で、さらに言えば再び同じ日本で生まれてよかったということだ。
転生先がナメクジみたいなコミックを前世でみたのだが、転生があった以上、必ずしも人間に転生できるとも限らないわけで。それで言えば、俺は人間+馴染のある日本生まれという、最高のカードを引いたことになる。
そんな俺が見つめる鏡の中にいるのは、首元まで伸びたホワイトブロンドのウルフカットに、赤いメッシュ。最近プリンの如く、頭頂部から黒髪さんがこんにちはしている。
そして若干やさぐれたような、吊り上がった三白眼の目。
白い小さく少しだけ主張するように生えている鼻。
そして転生前では考えられもしないほどの潤いを持った唇から覗くのは、矯正もしていないのに見事なまでの歯並びを演出している、白く汚れも一切見当たらない歯たち。
そして染みどころか毛穴一つないきめ細かな肌と、シンメトリーで配置された各パーツ。それら全てが完璧と言っても過言ではないバランスで整った小さな顔。
ここまでくればもうわかるかもしれないが、俺はこの目の前にいる少々パンク気味な少女に転生したのだ。
まあパンク気味にしたのは、雑誌を見て似合うかもと思った過去の俺だし、そもそもこの見た目がパンクというのかもわからない。ウケる。
因みにこのファンキーな髪形は8つ離れた、美容師の姉ちゃんに頼んでやってもらった。
最初は美容室でやってもらおうと、家から離れた、人通りも多い、市街地にある美容室に初めて乗り込んだ。
そしてその時初めて知ったのだが、美容室というのは予約が必須らしい。
いつもはトモ子ばあちゃん(御年88歳)が営む、予約なんて概念が存在しない理容室で髪を切ってもらっていた俺だ。そんなルールを知るはずもなく、申し訳なさそうに「予約で埋まっている」と告げてくる若い姉ちゃん(年上)に対し、俺はめちゃくちゃ謝り倒し、半ば泣きながら家に引き返した。
既に独り立ちして、自身の美容室まで営んでいる自称カリスマ地元No.1美容師の姉は、そこまで予想していたらしく、泣き帰った俺を見て、腹を抱えて笑いやがった。自称カリスマのくせに何時までも家に少しの金をいれるだけで、ほとんど寄生状態の彼氏なし歴18年(最後の彼氏は8歳の時の同級生、優斗君)が何笑ってんだって言い返したら、殴り合いの喧嘩になった。最終的には仲裁に入ったママンに、ふたりとも顔の原型がなくなるくらいボコボコに殴られた。パパン、新聞で顔隠してないで、この暴君止め、ごめん!お母さま!嘘っ!嘘だかr…
ともかくパパンと共に暴君に更にボコボコにされた俺は、その後仲直りした姉ちゃんに、休みの日に店まで連れて行ってもらって、近所のカフェのDXパフェ(3kg5980円)を奢ることを条件に、髪を整えてもらった。
初めてやった感想はめちゃくちゃ痛かったし、めちゃくちゃ痒かった。そのことを姉ちゃんに伝えたら、「あんたパッチテストぐらいしてないの!?」と怒られた。なんぞ、それ?
なんでもブリーチ剤?とか染め薬は、相性が悪い人がいるらしく、そういう人は俺みたいになるとのこと。それを確かめるのがパッチテストなるものらしい。まあうまい人がやれば肌に着けずにやれるから多少マシになるらしいが。
自称カリスマならそれぐらい出来ろよって文句言ったら、なんで休みの日にわざわざしてやってんのに、あんた相手に客みたいに気を使わないといけないのよとキレられた。正論言うなよ。
そうやってなんやかんや金髪になった訳だ。因みにその後パッチテストしたらびっくりするぐらい反応して、姉ちゃんからブリーチや髪染めは最後にしろとのお達しが出たわけで、これが人生最後の金髪となる。だから頭頂部が黒なのはそれ故だ。赤は一度落ちたが、毛先ぐらいなら大丈夫だろうと、姉ちゃんに再び入れてもらった(代金:近所のやま屋さんのプリン 税抜1800円)。
そうして現在パンクちゃんな俺だが、学校で怒られないかという心配をするかもしれない。だが安心してほしい、俺は怒られない。というか行っていない。別にいじめられて不登校とかではなく、高校は少し前に卒業したからだ。
そして大学にも行っていない。別に高卒で就職していないとかではなく、単純に志望校に滑ったがゆえに浪人を選んだからだ。
受験日に月もの(激重二日目)被るなんて聞いてないよ…。後期はインフルとコロナに連続でかかって詰んだし。第二の人生オワッテラ(^O^)
そんな俺だが人生二度目ということもあって、勉学には余裕を持って取り組むことができており、更に勉強の大切さも前世で痛感していたため、今世では小さいころからより真面目に勉学に取り組んだ。その結果、受験者のレベル層が最も高い模試においても、安定して偏差値70台をキープすることが出来ていた。そのおかげか、両親も俺が浪人することには寛容だったわけだ。勿論家がある程度裕福なこともあるので、パパン達マジ感謝。
そういう訳で4月から浪人生をやらせてもらってる俺だが、日夜勉強をしている訳でなく、元々合格ラインは優に超えている大学を志望していたこともあり、この1年はそれをキープすればいいので、なんなら高校生のときもそうだが、詰め込むよりも日々の勉強を大事にしてきた。まあつまり何が言いたいかというと、他の浪人生と比べても、日中暇なことが多いのである。
流石に元社会人として、家に寄生するのは申し訳ないと思った(事実は寄生する気満々だったけど、ママンに怒られた)俺は、3月辺りから「喫茶エターナルフォースブリザード」とかいう、大層強そう(笑)なカフェのバイトとして働き始めたわけである。
因みに我が家族が住む町は、京都とかいう割と人口がまあ多い都道府県ながらも、その中でも人口が少ない郡にある。つまりは田舎。まあスーパーやコンビニもあるし、京都を縦断する電車が家からすぐ近くを通っており、生活にはあまり苦労していない。そんな中でも、姉ちゃんは割と人が多い数駅隣の駅前に店を構えており、そこまでナナハンで通っている訳だが。
先ほども述べたように、俺はそんな田舎にある駅から離れた個人経営のカフェで働いている。そしてそうした田舎のカフェでよくあるのが、客層は常連客がほとんどで、来店の時間も決まっているということだ。
住居兼店舗のこの店も例にもれず、店主の田中のじいちゃん(御年94歳 趣味:FX)が朝5時に勝手に目が覚めることもあり、毎朝6時から開く。まあ実際はじいちゃんの気まぐれで開くのだが、もうお年寄りは起きる時間も決まっているらしく、ほとんど同じ時間に開店する。
俺は特に遅刻しても何も言われないのだが、一応エターナルフォースブリザードの看板娘を自称していることもあり、毎朝6時から出勤している。特にシフトとかあるわけでなく、いつでも来ていいと言われており、働いた分だけ貰える(時給1200円也)という、超優良職場である。
そんな我が職場であるが、開店と同時に満員になる。客は全員見知った顔であり、最早注文を取ることもしない。既に開店前から並んでいる顔を見て、その人に合わせたメニューを仕込むだけだ。取るのは俺のケツを触ろうとする、スケベな腕だけである。因みに客単価は終わってる。
そしてずっと駄弁っていた老人たちが帰るのが12時で、そこを超えると老人はほとんど来なくなる。この時間の辺りから、じいちゃんは2階の住居に引きこもり、FXに人生を費やす。喫茶店は収益度外視の趣味というだけで運営されており、老人がいなくなり話相手が減ったじいちゃんは、趣味の営業を止めて、上に行くというわけだ。資産は数十億あるとのことだ。「老い先短いのに、そんな金貯めようとしてどうすんの」と聞いたところ、「ネットバンクの額面を見るのが、最大の幸せ」と、若者のような発言をいただいている。
そんなじいちゃんの事情もあって、午後からの運営は俺が任される。というか一人で切り盛りしている。コーヒーの作り方をネットで勉強して、チーズケーキなど甘味類も自分で作って出したりしている(店舗経費)。空き時間に受験勉強をすることも許可を貰っており、3時ぐらいまでは勉強や菓子作りに精を出す。この前お茶友と遊びに来たママンにロールケーキを出したところ、腕を上げすぎており、お前は何を目指してるんだと真剣に聞かれてしまった。
3時過ぎくらいからは地元の学生が顔を出し始める。といってもこちらもほぼ同じ顔で、学校付近だと騒がしいから、あまりやんちゃなやつが寄り付かないこの店を選んでくれる子が割といるのだ。
特に受験勉強をしている子なんかは、地元特有のコミュニティもあって、俺の頭の良さが広まっており、なんでも質問できる環境として好んでくれている。
俺も頑張っている仲間として、時にはコーヒーや自作ケーキを赤字にならな程度に振舞ったりしているおかげで、無駄に高い好感度を得ているというわけだ。
そしてだいたい6時ぐらいになると飽きて、じいちゃんからもらった合鍵で店を閉める、というのが俺の習慣だ。不用心すぎ、ワロス。…いや、何も盗んだりしねえけど。
そして俺が特に予定のない休みの日は、老人が消える前あたりから喫茶店に勉強しに行く。この時自分でコーヒーを淹れたりしても従業員割引という形で、全額タダになる。それをありがたく享受している俺はなんやかんやで18時まで居座る。時には自習をしに来た子に勉強を教えたり、息抜きがてら作ったケーキ(店経費)の味見をしてもらったりする。ようするに休みでも給料が出ないだけで、ほとんど同じ日常を送っているということだ。おかげで今では、エターナルフォースブリザードのあの娘というだけで、それが俺だと、この町では通じてしまう。廚二病乙(笑)
ここでバイトするようになった経緯としては、なんて特別なことはなく、俺が、元からじいちゃんが一人回していたこの店の常連で、浪人が決定したのを機にバイトしたいって言ったら、この条件で採用されたということだ。今では俺の好きなようにやっていいとまで言ってくれている。ほんと感謝。
そして今日も俺はバイトに勤しんでいる。
とはいっても、8月に入った近頃、盆地にあるこの地域は気温が40度付近まであがり、老人は熱中症のリスクが本当に上がるので屋外に出なくなる。そして受験勉強に勤しむ子たちも、日夜塾の夏期講習に足繫く通っている時期で、わざわざ炎天下の中こちらに足をのばさないのである。
まあ何かといえば、死ぬほど暇な時期なのだ。常連客時代の去年の8月は一週間客が俺だけということもあったぐらいだ。
じいちゃんに店開けない方がいいか聞いたところ、「寂しさで儂を殺す気か!」と真剣に怒られた。話好きのじいちゃんにとって、俺とのんびり過ごす午前の時間も大事なひと時なのである。
ちょっと前の模試で異常に難しい問題だったこともあり、周りが沈む中、俺は絶好調で、なんと数学の偏差値が初の90超えとかいう、自分でもびっくりの結果を出した俺は、この夏も余裕を持った生活をさせていただいている訳である。因みに現代文がいつも微妙な俺は、総合的な偏差値としてはいつも通りに収束していた。
そんな暇を極めた8月の午後、エアコンをガンガンに効かせた店内で、客席に座ってボーっと気を抜いて、氷の準備されていないかき氷機を「エターナルフォースブリザード」と言いながら回していたところ、カランカランと玄関の扉にかかったベルが、景気よく鳴り響く。
「ぃらっしゃっせー。好きなところどーぞ」
気を抜きすぎて、全く回らない俺の舌。といっても常連しか来ないだろと高を括っていた俺であったが、入ってきたのは俺の知らない顔だった。
黒く短いショートカットと、ほど良く日焼けした肌は、平成後期のアイドルを彷彿とさせ、その中性的な甘いマスクは、ベクトルは違うが俺にも匹敵するレベルである(自意識過剰)。
一瞬性別がわからなかったが、その制服の出で立ちと、青と黒のチェックのスカートが、その子が女性であると示していた。まあ俺も数か月前まで着ていたから、よく知っているのだが。
別に母校は普通の共学(昨年度の全校生徒78人)だったが、もし女子高なら、この風貌だとめちゃくちゃファンがいそうなくらいイケメン王子様系の女の子だった。俺も前世、あんな顔がよかった(泣)
イケメン君はきょろきょろと店内を見回して、俺の顔を見ると目を見開いて動きを止めた。
よくわからない仕草に首を傾げる俺であったが、気を取りなおした彼女は、俺の近くまで来ると、俺が座っているテーブルの向かいの椅子に座った。
こいつ頭おかしいんか?
「すぐ片して、お水お持ちしますねー」
頭のおかしいのは痴呆のジジババで慣れていた俺は、すぐさまテーブルからどこうとするが、その子はあろうことか、俺の腕を掴んで、俺の動きを止めた。
「お姉さん。お名前をお伺いしてもいいですか?」
「頭おかしいんか?話すときは敬語はいらないぞ?みんな使わねえしな」
不思議そうに見た俺に問いかける王子。急な発言に俺は接客というのを忘れて、思わず口から気持ちが漏れてしまった。致し方なし。
「そうかい?じゃあ外させてもらおうかな。あっと、申し訳ない。 自己紹介は普通自分からだよね?」
「そういうことじゃないんよ」
クールな雰囲気で進めるが、さてはこの王子、天然だな?
「私はソラ。お姉さん、あなたの名前も教えてくれないか?」
「話聞いてる?因みに、レノ」
俺の名前を聞いて、彼女は「レノ、レノ…」と咀嚼するようにつぶやく。こわ。
またまた因むと俺の名前は某有名歌手から取ったらしい。詳しくは知らないけど。
「レノさん、いい名だね」
「何婆だよ、お前?双子じゃなくて三つ子の一人なんですか、我?」
ソラと名乗った少女は、目の前のかき氷機をどけると、両手で俺の手を包み込む。
エアコンで冷えた俺の手に、外で暑く火照ったであろう彼女の手の温かさは、ほど良かった。
「いや、てか何してんだ!?」
手を引き抜こうとした俺であったが、彼女の力は思ったよりも強く、ほとんどびくともせず、抜くことは叶わなかった。
彼女の身長は目算165cm。そして運動をしているのか、制服を身に纏うその姿は、出るところは出て、引き締めるべき所は引き締まっているという、アイドル顔負けの容姿をしている。顔も合わされば、最早トップアイドルレベルだ。
それに対し、年がら年中勉強とバイトに費やしている俺の体格はというと、身長は157cmながらも体重は45kgと、姉ちゃんからその細さを羨ましがられてる。ちゃうねん、飯食いたいのに食えないだけやねん…。胸はこの前BからAに落ちてた。無念。
そんな俺の体格と、運動部っぽい彼女じゃ、力の勝負になると、勿論相手になるはずもなく、こうして捕まりっぱなしだった。まあ彼女の掴む手は、そこまで痛くなく、自身の力がただただ非力説が否めないのだが。
「私はこの前、親の都合でこちらに越してきてね」
聞いてもないのに、身の上話を始める。
別に暇だから聞いてあげるけど、手は放してくれませんかね。
そんな俺の気持ちを知ることはなく、彼女は話を続ける。
「ようやく学校に馴染んできたんだ。いや、それはどうでもいいんだけどね」
「じゃあ何で話したし」
俺のツッコミには反応せず、彼女の話は続く。
「最近、去年のミスコンの話を聞いてね。そこで満票優勝をした子がいるって聞いたんだよ」
「あーね」
その満票優勝をかっさらったのがこの俺である。
別に俺様の美貌のお陰様でもあるのだが(自意識過剰:2回目)、そのミスコン参加者って言うのが、俺の他に、友達におふざけでエントリーさせられていたゴリラ系生徒会長(♂)、自主エントリーの養護教諭(♀:58歳結婚願望強め)という3人でのバトルだった。そして俺も友達の悪ふざけで応募させられてたから、実質的な出場者が養護教諭しかいなかった。
なので満票優勝といっても、ほとんど出来レースみたいなものであった。
そんな事故みたいなミスコンだったので、勝ったことも忘れてたし、優勝の喜びもなかった。
「私ってかわいいものに目がなくてね。だから満票優勝者ってのを見たかったのだが、どうにも卒業してたらしくてね。そんな折に、その人がここにいると聞いて、部活を抜け出してきたわけだ」
「行動力どうなってんだ、お前?」
このタイミングで彼女はようやく俺の手を離す。彼女は流石にこの炎天下の中、ここまで来るのは暑かったのだろう。胸のボタンを2つぐらい開けて、パタパタと仰ぎだす。そこには肌着はなく柔らかそうな双丘で作り出された谷間と、その双丘を支える水色の下着であった。普段日に当たってるであろう部分は小麦色に焼けており、日から隠されているであろう部分の白い肌とのコントラストが妙になまめかしかった。
そして、それを見てしまった俺は慌てて目を逸らす。
俺も元は成人してから時間経ってたし、さすがにこの年代の子のブラジャーを見るのは申し訳なかった。
……嘘です。元もDTで、女の子の下着なんか見たことなく、見てしまうと気恥しいからだ。
学生時代も同性の下着姿や裸に恥ずかしがる俺に、それらを見せて揶揄おうとする輩がいつも湧いて大変だった。なぜあんなにも下着や裸を見せたがる痴女が多かったのだろうか。
「それで?会ってどうしたかったんだ?」
「あっ、その前にバナナジュースで」
「自由か、己は」
そう言いながらも俺は、冷蔵庫から昨日作り置きしたケーキを取り出し、さらに牛乳・生クリーム・バナナ・氷をミキサーで混ぜたバナナジュースをお盆に載せ、彼女に提供しつつ向かいに座りなおす。
「ん?ケーキは頼んでないけど?あいにく持ち合わせが少なくてね」
「安心しろ。これは試作だし味の保証はしねえから、タダでいいぞ」
「本当かい!?」
「お、おう」
タダという言葉に反応したのか、彼女は身を乗り出しながら目を輝かせる。その際に彼女の大きく開いた制服から、谷間と下着が思わず見えてしまい、俺はふたたび目を背けた。
そんなことは露知らず、ケーキを前にしては彼女も一人の女の子なのであろう。俺の返事を聞くと嬉しそうにケーキを頬張った。
彼女はいい育ち方をしているのか、ケーキの食べ方は非常に綺麗で、全て食べ終わるまで一言も喋らずに食べ終わった。
まあその表情は非常に美味しいと言っていたので、こちらとしては満足である。
そして添えられたナプキンで口元を拭くと、ふぅと一息ついた。
「ごちそうさまでした」
「おう、お粗末様」
俺はテーブルの空いた食器と、いい加減邪魔になってきたかき氷機を片して、再び向かいにドカッと座る。
「で、なんでウチを探していたわけ?」
ここでようやく本題に入れる。余談だが、散々俺という一人称を使っていきた我だが、実は今世の一人称は「ウチ」である。いや、幼稚園までは「俺」だったのだが、小学生になるころにママンと姉ちゃんが徒党を組んで、ミーの一人称を「私」に修正させようとしてきたのである。上位存在2名に徒党を組まれるとなると、流石の余も太刀打ち出来なかった余。社会人時代に散々使っていた「私」だが、なぜか女として使うには恥ずかしく、妥協する形で「ウチ」と言うようになったYo。ママンたちも、まあその程度なら妥協範囲なのか、それが定着した頃には何も言わなくなっていた。
「いや、さっきも言った通り、私は可愛いものに目がなくてね」
「はぁ」
王子様の言葉に、俺は適当な相槌しか返せない。
「だから会いに来た」
「いや、なんで!?」
彼女の勢いに、俺ちん脱帽だぜ☆
「噂になるほど可愛い人がいるって聞いたら、会いにくるしかないじゃないか」
「ナンパ師かよ?」
「あわよくば、お近づきになりたいなって」
「ナンパ師じゃねえか!?」
彼女は席を立ち、俺の隣の席に座って、手をぎゅっと握る。俺は驚いて「うっ」と、身を引こうとしたが背もたれに阻まれてしまう。
「どうか逃げないでほしい」
「お姉さん、最近の若者の距離の詰め方早すぎて、びっくりしちゃうよ?」
彼女は俺の手を離し、自身の後ろに手をやると、どこから現れたのか、バラの花束が出てきた。いやどこから出てきたし!?
「これはお近づきの印に。これのおかげで、私のなけなしの小遣いをほとんど使う羽目になってしまったけどね」
「さてはお前、馬鹿だな?」
流石に高校生が有り金をはたいて買った花束を無下には出来ず、俺はおずおずとそれを受け取る。受け取ると彼女はほんとうに嬉しそうに、年相応の明るい笑みを浮かべた。
「じ、実はね、さっきの話に少し嘘があるんだ」
「この流れで嘘を交えてたのもあれだし、それをいきなり告白するのもはええよ」
ふと彼女はそう言うと、少し恥ずかしそうに目を伏せる。その姿は初対面の俺でも感心するほど様になっており、女子高生なら先ほどまでの彼女とのギャップで、吐血する子も出てきそうだ。
「可愛い物に目がないのは本当なんだけど、実は今日はあなたに会いたくてね」
「…ナンパ師の常套句みたいな発言だな」
あまりに火力の高い口撃に、俺は照れを隠すために嫌味を言う。
「違うっ!!」
「うおっ!?」
その言葉に、彼女は身を乗り出して否定をする。それに俺が驚いたことに気がついたのか、俺から少し身を引いた。
「あっ、いや、すまない。でも本当に違うんだ…。いや、あなたからしたら、そこらのナンパ師と違いはないかもしれないけど…」
「いやっ!?こちらこそ、茶化すために言っただけだから、すまん…」
さっきとは打って変わって、いたたまれない空気になる。
「実は、昔あなたをお見かけしたことがあって、京都市内の美容室なのだけれど…。その時黒髪だったあなたが美容室から出ていく姿を見たんだ…」
やだぁ、黒歴史of黒歴史の真っ最中じゃないですかぁ?
「私、それまで恋とかしたことなかったんだ…。女の子から言い寄られたことは何度もあるけどね。それもアイドルみたいなものかと思って過ごしていたんだ…。でも初めてあなたをお見かけしたとき、心がこうビビッと来て、動けなくなってしまったんだ。それ以降あなたのことを思い返す度に、心がきゅっと締め付けられるような感覚に陥って…。それを家族に相談したら一目惚れだって言われて、初めて腑に落ちたんだ…。それで私に言い寄ってくれていたあの子たちもこんな気持ちだったのかなって思うようにもなってね…」
彼女の独白に俺は何も言えなくなってしまう。いや独白どころか、告白なんですけどね。ワロエナイ。
「ただ街中で見かけただけだし、高校に入るに合わせてこっちに引っ越しすることもわかってたから、もう会えないかなと思って、諦めようと思っていたんだ…」
お前、そんなスタイルして、高校1年生なの!?茶化すに茶化せない俺は、心の中でつっこむ。
「そうしてこちらに引っ越してきたんだが、3月にこの辺りを通った時に、またあなたに出会った。金髪にはなっていたけれど、あなたを見間違うはずもなかった…。あぁ、これが運命かと…、そう思ったんだ…」
物語の語り部のように、彼女は仰々しくそう言って、伏せていた顔をあげる。その顔はまるで物語に夢中になる少年少女のようで、先の展開を楽しみにするように、瞳の中に輝きを帯びていた。俺の瞳も、その瞳に吸い込まれるように目が離せなくなっていた。エアコンがしっかり効いているはずの部屋なのに、身体が火照りを持ち始めている。
「それで5月頃にはあなたがこちらで働かれてることは、調べたらすぐわかった。部活の先輩もあなたにこちらで勉強を教わってるみたいだし…」
その先輩は恐らくあの子だな、という見当はついた。うちに勉強しに来る中で唯一の運動部っぽい焼け方をしている。その子は陸上部らしいので、この子も恐らく陸上部なのだろう。
「それで、本当はすぐに会いに来たかったんだ…。ただどうしても店の前に来ると足がすくんでしまって…。ここに入るまでに3か月もかかってしまって…。今日もみんなに応援されながら、ようやく…、ようやく店に入って、こうしてお話することができた…」
そう言う彼女は頬を赤らめ、口をもにょもにょと動かし、いかにも照れくさそうにこちらを見れないでいた。
こちらもそれにつられて気恥ずかしくなり、思わず視線を外すと、ふと玄関の扉の前に複数の姿が確認できた。
恐らく彼女を応援しに来た部活の友人たちであろう。炎天下の中、みんながガッツポーズで応援したりと、若者特有の瑞々しさが感じられる。うちの常連の子もその場におり、俺と目が合うと、微笑みながら会釈をしてきた。
あぁ、甘酸っぱい…。
俺は前世でも今世でも恋愛とは縁遠かった人生を送ってきた。いや今世ではナンパや、高校デビューで告白してくる男子なんかはいたけど、別に興味もわかなかったので、全てオ断リックスさせてもらっていた。
だがこうして真正面から思いの丈をぶつけられてしまうと、思った以上にダメージを与えられた。それもこんなに純情で一途な思いをだ。
「それで、その……」
言い淀む彼女。ここから何が出てくるのであろうか。告白か、それともお友達からか。何にしても、この後の王子様の一言に、自分がどう返すか、それは俺自身でもわからなかった。




