氷結令嬢の婚約破棄計画、家族総出で仕込みました
ちょっと口の悪い公爵令嬢と愉快な家族&仲間たちのお話です。みんなハッピーエンドです。
「アリゼ・ジェレーツ公爵令嬢、貴様との婚約を破棄する」
貴様って言われると若干ムカつく気もするけど、古文だと尊敬語だからなぁ、流してやろうか…。
ん?今なんつった?この微妙なタイミングで、私に婚約破棄って言った?
「え?婚約者やめていいの?まじ?」
私がこの発言をした瞬間、空気が凍った。やっべ、嬉しさのあまり素が出ちゃった…。
◆◇◆
『氷結令嬢・アリゼ・ジェレーツ』
これが私についた二つ名的なやつだ。別に、氷結レ◯ンをがぶ飲みしてたらじゃないよ?
表情がぴくりとも動かないし、言葉も発しない、極めつけにきつい吊り目、いるだけで周りの温度が下がる、らしい、これが由来だ。
実際は動かないわけではなく、動かしていないのだ。
そもそも親父ギャグを発してるわけでもないのに周りの気温が下がるかってなんだよ、言ってやろうか?大きな声で、信号機もらって慎吾ウッキウキって、絶妙に滑ってた漫画のキャラのギャグでも言ったろうか?って感じだ。
私はいわゆる前世もち。前世は特殊な知識があるわけでもなく、若干オタクでthe・適当マンみたいな感じで生きていた女子高生だったけど。
現在は、日本語で通じる世界線だから異様に言語習得が異様に早かっただけの普通の公爵令嬢。公爵令嬢の普通がなんなのかは知らんけど、そんなもんだ。
10歳くらいの頃だったかな?他家のお茶会に初めて参加した日の夜。家族四人でご飯食べてる時に、母親に言われた。
「あなた、外でもふとした時に、素が出るから気をつけなさいよ。今日、お茶会で「うまっ」と言いかけたの、聞き逃してませんからね」
「やっぱ言ってた?やべって思ったんだよね、ってあ、これがまずいのか」
母親の言葉にぎくっとしつつ呟くと、
「そうだね。だいぶまずいよ」
3歳上の兄が肯定し、父親も首肯した。
「男女問わず、顔立ち整ってる人を見て、ニヤニヤする癖もやめた方がいいぞ」
父親が、ついでにというように付け足した。
「え?それもバレてんの?」
こそこそとニヤニヤしているつもりだった。
「他の人たちには知らないけど、少なくとも僕たちにはバレてる。8割は取り繕えてるんだけど、残りの2割に素が滲み出てるんだよ」
兄は呆れたように肩をすくめる。
「中身は変える必要はないから、10割取り繕えるように頑張れ」
お父様は笑いながら、私にいう。
「そのアドバイス、本当に合ってる?中身を変えろ、じゃない?」
「あなたの素は好きだし、それがあなたの個性なんだから変える必要はないわ。本来2割なら別にいいんじゃないと言いたいところだけど、あなたに王家から第一王子との婚約の打診が来たの。第一王子の婚約者として揚げ足を取られない公爵令嬢になる必要があるのよ」
いい親である、が、
「え?あの王子と婚約?嫌なんだけど」
私は淑女としてあるまじき顔をする。
「全く、世も末だね」
「こっちから婚約破棄はできないが、あの王子にお前の婚約者が務まるわけがないから、あっちから婚約破棄してくれることを願うしかないな」
「そうね、私たちの腕の見せ所ね」
兄と父と母は不敵に笑った。
◆◇◆
その話をした一ヶ月後くらいに、正式に、同い年のこの国の第一王子こと、ハラート・エワズ様が私の婚約者になった。
なんでこの王子が嫌だったって、あいつ、バカなのだ。もはや哀れなレベルで。
私の前世の5歳の従兄弟よりも、なんも世の中のことをわかっちゃいない。なんでももらえるのが当たり前、俺に頭を下げるのが当たり前って思考回路をしてやがる。アホかってんだ。
私たちの5個下の第二王子の方がまだ世の中を理解しているというか、思慮分別がある。上がダメだと下がよくなるってのを体現した兄弟って感じ。
まぁ、でも、第一王子に感謝することがあるとするなら、こいつと関わったおかげで、うっかり「バカやん」とか、口に出ることが少なくなった。というなくなった。
第一王子のやることなすこと一つ一つに顔を顰めると、限りなくめんどくさいイチャモンが飛んでくるから、家以外で表情を動かさないってこともできるようになった。
ここら辺からかな?氷結令嬢って呼ばれ始めたのは。もうそんな期待されちゃったら答えるしかないよねって感じで、さらに表情を動かさないようにするのに磨きがかかったよ。
そんなこんなでそんなバカート王子、元いい、ハラート王子と婚約して婚約者として8年の月日が流れた。
その8年の間、私がバカート王子を好きになることがあったか、と問われたら即答で返せる。否である。もう一度言う、否である。
私の誕生日会で私がみんなから祝われてたら、次の日にあいつなんて言ったと思う?『俺より目立ってんじゃねぇよ』だぞ?その日の主役は私だっつーの。そもそも、私周りから氷結令嬢って呼ばれてて、心からお祝いしてる人なんてほぼいないし。それでも俺より目立つなってか?私は三歩後ろからあなたをついていけばいい?ったく、いつの時代の亭主関白だよ、あんた。
3年前に入学した学園でも、『俺よりいい成績は取るな』とか言ってきやがって。
お前よりいい成績取らないように頑張ったら最下位だっつーの。どうやったら取れんだよ、全教科2点。狙ってんだろ、もはや。
そのだる過ぎたげんぱくな…、ごほん、だる過ぎた学園生活も、そろそろ終わりを告げる、ひゃっほー!
第一王子としてのお仕事はほっぽらかし、流石に、下についている人が可哀想だから私が代わりにやってたんだけど、その時に『俺の役に立てて嬉しいだろ?』と言われて、頭の中で思いっきり木刀で頭を叩く妄想をした。妄想でとどまれた私、偉い。
こいつと一生、一緒に生活なんて耐えられねぇぜ、という話をよく家族や学園でできた親友で、協力者のオリーブとグラントに愚痴ってる。
オリーブは最近影響力を増しているリーブ商会のところの長女だ。彼女は商会を継ぐ気らしい。確かな頭脳と幼い頃からの両親を手伝うことにより得た経験、発想力のある彼女なら確実に商会をさらに発展させるだろう。
グラントは隣国のいいところの次男坊らしい。詳しいことは、はぐらかされて知らない。まぁ、私もオリーブも、いいやつだし、出身なんかどこでもいいかという感じで流してる。
今日はある作戦会議のために急遽、二人と私たち家族が一堂に集まってお茶会をしている。事の発端は、バカート王子からの手紙だ。
『来月の卒業パーティー、俺は別の令嬢と参加する』
というものだ。私は嬉しさのあまり、二人にも連絡をとった。
「えぇ、よかったじゃん。ギリギリセーフだね」
新たな婚約者をたてて婚約破棄をするという計画は学園の卒業式まで達成できなかったら失敗として次の計画に移動する、と決めていたのだ。
オリーブもグラントも笑みを浮かべている。
「もしや、あの計画が終わりを迎えるってこと?」
「そういうことになる、はず」
「「「「「「アリゼの婚約破棄計画」」」」」」」
「長かったわねぇ」
お母様がしみじみという。
「適切な令嬢が見つからなかったからね」
お兄様は苦笑い。
「よく見つけたもんだよな。二人が加わってから、計画が爆速で進んだし、感謝してるよ」
お父様はオリーブに目を向ける。王子の怠惰ぶりを突きつけ、あーだこーだ、公爵家の権力と人望を使う予定もあったが、それだと王権が揺らぎかねない。
私たちは決してクーデターを起こしたいわけではないから、これは最終手段だった。
「商人は情報命ですから」
オリーブは、私に代わり王子の婚約者となるであろう令嬢を見つけたてくれたのだ。
「第一王子の婚約者の座をいまだに狙っていて、国の最大と言われる公爵家の令嬢を蹴落としてでも第一王子の婚約者に、就きたい、そんな行動力と愚かさを兼ね備えた令嬢、ねぇ」
グラントは私たちが探してた令嬢の条件を思い浮かべ苦笑いをする。
「あの王子と、第一王子婚約者の座の何がそんなにいいんだか、いまだにわからん。8年間婚約者やってきたけど、マジでわかんなかった」
「地位とか、名誉より人間性優先するお前ならそうだろよ」
グラントはケラケラと笑う。
「本来は、第一王子なだけでだいぶアドバンテージなはずだからね」
オリーブは「本来は」ということころを強調する。
「そもそもこいつに地位や名声欲がないもんな」
お兄様は私を見ながらいう。
「そのアドバンテージをも打ち消す王子の性格もあるわよ」
お母様は今までの王子の行動を思い出したかのように苦笑いを浮かべる。
「まぁ、この作戦会議お茶会もそろそろ終わりだな。次回からはただのお茶会になることを願って、そろそろ解散としよう」
お父様がそういうと、あとはみんなで少し雑談をして解散になった。
解散の後、お父様とグラントが何か二人で話していたが、詳しい内容は教えてくれなかった。
◆◇◆
一ヶ月は、適切な令嬢が見つからず、計画が進まないまま我慢してきた8年に比べたらあっという間に過ぎていった。
当日は、グラントにエスコートをしてもらった。私はてっきり兄様が私のエスコートだと思って、兄様に聞いたら『俺には先約がいるから、お前はグラントにでも頼め』と言われた。
ちなみに、気になるお相手はまさかの、オリーブ。言われてみると、オリーブの好きな人の特徴は兄様によく似ていた。エスコートを申し出たのは兄様らしく、どうやら両思いのようだ。ひゅーひゅー。
そんなこんなで、私はグランドにエスコートしてもらっている。
私は今、目の前のかわいいオリーブの姿を見て頬が緩まないように、完璧に氷結レモ…じゃなくて、氷結令嬢を演じる。
「相変わらず、馬車降りてからの切り替えがすごいよな」
グラントはしみじみと言った。
そうだろう、そうだろう。8年間培ってきたこのスキルに隙なんてないんだよ。
私は顔に微塵も出さないまま、婚約破棄されるのを今か今かと待つ。
ダンスの休憩時間であり、バカが婚約破棄を宣言するとしても、今じゃないだろう、と思って壁の花になって少し気を抜いているタイミングで、私を呼ぶ声が聞こえた。
「アリゼ・ジェレーツ、どこにいる」
私は、何事?と思いつつも、名前を呼ばれた方、すなわち、バカート王子がいるホールの中央へと歩いていった。
彼の腕には私の救世主、新しい婚約者になるだろうミランダ様が巻き付いていた。あなたがいたおかげで、今日がある。ありがとう。大好き、ほんとに。
「第一王子殿下、どうしましたでしょうか」
「アリゼ・ジェレーツ公爵令嬢、貴様との婚約を破棄する」
貴様って言われると若干ムカつく気もするけど、古文だと尊敬語だからなぁ、流してやろうか…。
というか、今なんつった?この微妙なタイミングで、私に婚約破棄って言った?
王子の発言に一瞬時が止まったのではないかと思うほど、会場が静まり返る。
そこでうっかりとこぼれた私の一言。
「え?婚約者やめていいの?まじ?」
静かに切ったつもりだったが、周りが静寂すぎてしっかりと周りの人の耳に届いてしまった。
「ぶはっ」
兄様が堪えきれずに吹き出した、が、そんなことを気にしている場合ではない。とりあえず、何事もなかったかのように進めよう、ボロが出かねない。
「かしこまりました。婚約破棄、承りました。お父様」
私は動揺を隠し、お父様を呼ぶ。
長年培ってきた私の演技力ありがとう、やっぱちりつもだよね。
「この度、第一王子殿下から婚約破棄の提案をいただき、受諾しようと考えているのですが…」
「あぁ、はいはい、これね、我が家からの必要書類全部を…。ばk。…っと危ない、第一王子殿下こちらにサインを…。よし、では私は、こちらを教会に届けて参ります」
いや、あからさまに準備してたのバレるだろ、レベルで流れるようにお父様はさっていった。
「では、私もこれで失礼させていただきます」
私もさっさとこの場から離れたいなぁ。ただ、バカがそれを許してくれない。
「は、おま、なんで俺に婚約破棄されたのか知りたいだろ?」
かけらも興味ないんだが、と否定する前に彼は語り始めた。
「ここにいるミランダは、男爵令嬢だが、確実に美しく聡明だ。そんなミランダが僕の隣にいることを憎んだ、このアリゼはあろうことか、ミランダをいじめはじめた。許されることだろうか?彼女のものを奪い、彼女に水をかけ、彼女を陥れるための陰口を流した。僕はこんな卑劣なやつを決して婚約者とは認めない。アリゼ公爵令嬢との婚約を破棄し、ミランダ令嬢を僕の婚約者として迎え入れる」
さいでっか。そんな役者風に言わなくても、もうこの婚約破棄は決定事項。婚約やその破棄際して、婚約当事者の成人済みの王族のサインがあれば、国王の承認がなくても認められるのだ。
「で、でも、それでは、アリゼ様は、今後どうされるのでしょうか?」
うるうると目一杯に涙を浮かべ、私と目が合うと怖がるように隠れる。
演技上手いな、私と肩張れるんじゃない?いや、でもそこは譲りたくない、私の方が上手い!!
「なんて、優しいミランダなんだ。しょうがない、ミランダの優しさに免じてお前には新たな婚約者を当てがおう」
え、やば、盲点やん…。私の隠居ゆっくりスローライフは最後までこいつに打ち砕かれるの?お父様いないしなぁ、自分でなんとかしなきゃやなぁ、てか、余計なこと言うなよ、ミランダ、好感度下がったわぁ…。
悪態つきながら、逃げ道を探していると、
「では、私が彼女をもらおうかな」
そう言って入ってきたのは相変わらず、こんな場面でも飄々としているグラントだった。
「隣国の下っ端貴族がなんのようだ。邪魔者は失せろ」
バカート王子は忌々しそうに叫ぶ。
「一国の第一王子が、貴国が資源や食糧において依存している隣国の王族への口の利き方も教わってないとは、実に愉快なことだ」
グラントの空気が一瞬にして鋭くなった。いつもの空気とは違う、威厳と威圧を持った空気だ。
「え?グラントって隣国の王族なの?」
威圧感があったところでグラントはグラントなので気にせず話しかけるけどね。
「相変わらず強メンタルだなぁ。言ったでしょ?いいところの次男坊って」
「それで王族に結びつく人なんかおらんよ」
真実はいつもひとつ!的な頭脳持ってたらいけるかな?私前世、見た目は大人、中身は子供って言われてたから無理だな。
「それもそうか」
「まぁ、それは置いといて、私との婚約って本気?」
少し訝しげにグラントに尋ねるが、その答えより先に、バカート王子が、口を開く。
「お、おまえ、そ、そんな感じで、は、、はなせるのか?」
「いや、人のことなんだと思ってんの?話せるわ。第一王子の婚約者で公爵令嬢だから取り繕ってただけですわ」
私は呆れながらため息をつきつつ、自分の演技力の高さに少し誇らしさを感じた。やっぱりミランダより私が上ね。
「そろそろ婚約破棄も成立したところだろうし、アリゼは僕が連れて帰るね」
「は、え、は?」
ミランダ様とバカート王子、そして、加えて私は話についていけてない。が、そのままグラントは私を抱き抱える、正確には米俵のように抱えて、会場を出ていく。
「ねぇ、こういうのって普通、お姫様抱っこじゃない?」
悪役令嬢とかも新しい婚約者に連れ去られるときは大体お姫様抱っこ、ちょっと憧れあるんだよ、イケメンにお姫様抱っこされるっていうの。
「した瞬間暴れるお前が目に見えてるんだ、するわけがないだろ」
たしかしたかし、憧れ叶う前に羞恥心が湧き上がりそう。
米俵のまま馬車に運ばれ、降ろされた。
「本当に私と婚約する気なの?」
「あ、あぁ、お前がよければな。次男だし、もう兄貴が王太子になってるから政争もないし、第二王子の妃だから仕事は最低限、みんな適当だから素のままで生きても怒られない、どうだ?」
は?めっちゃ好条件やん、
「よし、しようか、結婚」
「お前、適当だな」
「相手がグラントなら別にいいかなって」
イケメンだし、普通にいいやつだし。普通って言うと怒られそうだけど。
「はいはい、そうですか。俺は結構今回の話、真面目に考えて、ちゃんと公爵にも相談したんだけどなぁ」
「ん?後半なんて言った?」
ちょうど馬車が揺れて俺は結構、の後から何も聞き取れなかった。
「なんでもねぇよ。これからよろしくな、婚約者さん」
「改めて、よろ!」
私はグラントの頭をポンポンと叩いた。
「婚約破棄の計画より、こっちの方が先が見えねぇや」
グラントがそう言ってため息をつくが、なんのとこだかさっぱりだ。
◆◇◆
後日、正式に子私とバカート王子の婚約が破棄され、グラントとの婚約が決まった。国王からは、申し訳ない、考え直してくれないか、と言われたが、時すでにおすしというやつである。
そして、私とグラントの婚約発表と同時に、誰と結婚するのか、とずっと疑問に持たれていたジェレーツ公爵家次期当主の兄様とオリーブの婚約が発表された。
その三ヶ月後、私は国に戻るグラントについて一緒に隣国へと渡った。
「幸せになるのよ、アリゼ」
母は涙ながらに、手作りのハンカチを渡してくれた。
「元気でやれよ」
兄様はしっしっと、早くいけというふうに手を振る。こっそり、荷台にお祝いのお酒を乗せたことをバレてないと思ってんだよ。このこのぉ。
「グラント、アリゼを頼んだよ」
お父様は、私をギュッと抱きしめた後に、グラントに声をかけた。
「アリゼ、手紙書くからね。グラントに嫌気がさしたらいつでも戻ってきなよ」
オリーブは私の手をギュッと握り、そう言った。彼女からは彼女家の『嫁入りセット』というものを一式もらった。
「まぁ、俺はこの国の外交担当だから、俺もアリゼもすぐ戻って来ますよ」
グラントはまるで今生の別れかのような雰囲気を醸し出しているみんなに笑いながら行った。
「ありがとう、みんな、いってきます」
大きく四人に手を振って、私とグラントは隣国行きの馬車に乗り込んだ。
◆◇◆
三ヶ月後、正式に私とグラントが結婚し、その結婚報告をしに国に戻ると、私たちは第二王子に出迎えられた。
「あれ?第一王子殿下は?」
「兄上は、現在、修行中でして」
「修行中?」
私とグラントは目を合わせて首を傾げる。
「ミランダ令嬢が、あなたがいなくなった後、第一王子としての仕事が全く回らないことに気がつき驚きあきれたらしく、それ以来彼女が兄上のスパルタ教師をしておられます」
「は、はぁ」
意外な展開に驚きしかない。ミランダ様、根性あるなぁ…。
噂をすれば影、とでも言うかのように、ミランダ様と、お疲れ顔のバカがきた。
「あら?アリゼ様ではありませんか、色々申し訳ございんでした、そして、ご結婚おめでとうございますわ」
気にしないで、ありがとう、と言う前にミランダ様が詰めてきた。
「あなたが、ハラート王子を甘やかしたのがいけないんですわよ。あなたのせいで、後釜の私がとても大変ですわ。何でもかんでもやってあげるのが優しさではなくってよ」
「ミランダ、落ち着きなよ」
そんなミランダを疲れた雰囲気だけれども、どこか一皮剥けたような、ちょっと好青年イケメン的になって、かっこよくなった第一王子殿下がミランダを止める。
「第一王子殿下への優しさでやってたわけじゃないからね。第一王子殿下がこんなに真面目に政務ができる方だとも知りませんでしたわ」
「君が婚約者の時は君に甘え過ぎてたよ。いろいろ失礼なことをしてすまなかった。僕は愛しのミランダと共に、立派な第一王子に、立派な王になれるように頑張るよ」
「あ、全く気にしてないので大丈夫ですよ。頑張ってくださいまし。お二人の成長度合いによっては我が家が第二王子を擁立しますよ」
私は、ニヤッとイタズラっぽく笑う。二人にはこれくらいがちょうどいいでしょ。
「それは」
「気をつけなくてわね」
二人もまた楽しそうに笑う。最初はミランダ様は第一王子殿下と共に没落していくから、我が家でそこは支援してあげよう、とか考えてたけど、這い上がってくるんだ…。
第一王子も成長できるんだ…。
いや全く、いいコンビだな!!!推すよ!!あなたたち、推しカプかもしれない。
うんうん、私、バカート王子と婚約破棄して、色々結果オーライじゃないか、と改めて婚約破棄に満足していると、
「あーーりーーぜーーー」
誰かから大きな声で呼ばれた。
この声って…オリーブじゃね?
そう思い振り返ると、ほんとにオリーブだった。
なぜ我が家族は王宮の廊下をそんなに我が物顔で歩いてるの?
いい、のか?まぁいいのか、第一王子と第二王子と有力公爵家と隣国の王子が、たまたま廊下でばったり会うこともあって…いいかはしんないけど、いいよな。
考えは放棄することも時に大切だよ。
「みんなは何してんの?」
「あぁ、アリゼが王宮に結婚報告にしてから我が家に来るってオリーブに言ったら、じゃぁ王宮に迎えに行こうって言うから」
「私たちもそれでついてきちゃったの」
てへ、じゃないよ、お母様。
まぁ、うちの家族なんてそんなもんか…。子供可愛さに王子との婚約破棄すら狙う家族だもんな…。
一旦家族たちと別れて、第二王子に案内され、グラントと二人で王への結婚報告に向かう。
「アリゼはさ、この国に残りたかった?」
グラントが唐突に聞いてきた。もう戻れない状況なのに今更何言ってんだか。
「別に。あっちの国の人たちだっていい人だし、グラントもいるしさ」
私が思ったままのことを告げると、グラントは大きなため息をついて、
「おまえほんと、そういうところだよな」
と言った。え?私、呆れられるようなこと言った?いや、言ってない。
「え?どういうとこ?」
結局、最後までどういうところかは教えてもらえなかった。
お読みいただきありがとうございました!また別話でお会いできたら幸いです!
皆様のおかげで、日間ハイファンタジー短編で17位、日間異世界転移/転生で12位を獲得しました!ありがとうございます(*⁰▿⁰*)
↓人物紹介に続きます!
⬛︎人物紹介(ネタバレ含む)
◯アリゼ・ジェレーツ
この物語の主人公。前世はただの高校生オタク。たまに日本にいたときのツッコミが炸裂する以外は特に転生したからこそのアドバンテージは存在しない。よく親父ギャグを言って滑るのは前世譲り。娯楽が少ないこの世界に最初絶望したが、目の保養のイケメンが多いことで持ち直した。なんなら自分も美少女だったから、転生に感謝した。
◯レオニス・ジェレーツ
アリゼの兄でオリーブの婚約者。少し気だるげなこともあるが、妹のことは結構好きだし、気にかけてる、が、オリーブが自分よりもアリゼの方が好きそうなのであまり面白くないと最近思っている。でも、アリゼに合わせないよう仕組んだらオリーブに嫌われることも理解しているから絶対にやらない。
◯セレナ・ジェレーツ
アリゼの母。アリゼの素を愛し、そのままでいいと教えつつも、アリゼが貴族として生きていくための術を教えた人。氷結令嬢と呼ばれ始めた時にはちょっとやりすぎだと思っていた。でも、そんなアリゼも可愛いからいいか、と思っている。
◯カルヴァン・ジェレーツ
家族を愛してやまない国1番の公爵家、ジェレーツ家の当主。家族のために働いていると言っても過言ではない。第一王子とアリゼが婚約すると聞いた時、何回か仕事をボイコットしようとして、それでは領民が路頭に迷うとセレナに怒られた。
◯ハラート・エワズ
国の第一王子。甘やかされて育ってきた典型的な王子様。通称、バカート王子。アリゼの頭の中では、百回以上ハリセンか木刀で叩かれている。最近はミランダに怒られ、今までサボり続けてきた仕事をしている。ミランダの付き合い始めとのギャップに驚いてはいるが、もはやギャップ萌えしてさらに好きになっている。最近の目標はミランダに褒めてもらうこと。ただ、サボり過ぎてた結果最低限の執務もできてないので、褒められるのはまだ先の話である。
◯グラント・セレヴィル
隣国の第二王子。第一王子が、王太子となる時に国にいて諍いに巻き込まれるのが嫌だったため留学した。オリーブと仲良くなり、二人でたまたま氷結令嬢の本当の姿を見てしまい仲良くなった。アリゼのことが好きだが、アリゼがとてつもなく鈍いため、長期戦を覚悟している。
◯オリーブ・ヴァレッタ
リーブ商会を営む家の長女。リーブは、自分の名前から取られているため、少し恥ずかしいらしい。作戦会議と称して家に呼ばれているうちに、レオニスと仲良くなり、恋に落ちた。なんとなく名前を出すのが恥ずかしくアリゼに名前を出さずに好きな人のことを話していたが、てっきりレオニスのことと気づかれているものだと思っていた。
◯ミランダ・ドレイシア
野心と行動力と自信に溢れた男爵令嬢。公爵令嬢を蹴落とし、第一王子との婚約ができて満足していたが、少し雲行きが怪しそうで困っている。今後どうなるかは、ハラートの行動次第な部分はあった、と思われたが、自力で第一王子の新しい婚約者としての地位を確立した強い女の子。
◯セイラン・エワズ
ハラートの弟で第二王子。王位に対して執着があるわけではないが、兄のアホっぷりから王に就く可能性も考えて色々勉強している。最近、兄が変わり始めてミランダに感謝している。王位につかなくていいなら、王家を出て田舎で辺境を治めつつ、農家として暮らしたいと考えている、が、まだまだ兄はポンコツなので、だいぶ先の未来になるかなぁと思っている。




