逃げろ!
今すぐ逃げろ! 奴がお前を殺しにいくぞ!
そう、あいつだ。お前を憎むあいつのことだ。
お前を殺し、八つ裂きに遷都する男のことだ。
世界のどこまでも追ってくる化け物のことだ。
このメールが朝起きたときに届いていた。
はあ? 何を言っている? 「逃げろ」? どういうことだ?
僕は憎まれて殺されるというのか? まったく分からない。僕を憎む人間などいるわけがない。
そもそも僕は、あまり人と関わらないように生きてきたのだ。ずっと、ずっとひとりで生きてきた。
そんな僕に、ただの僕になぜこんなメールが届いたのか。迷惑メールだろう。馬鹿なやつだ。削除しておこう。
しかしそれからというもの、人の目が気になってしょうがない。
会社に行くとき、帰るとき、近くのコンビニやスーパーに行くとき。
ありえない、馬鹿げていると分かっているけれど、もしかしたら本当にその男は存在していて、僕を殺そうとしているのかもしれない。
怖くて怖くて、しょうがない。
そんなある日、またメールが届いた。
『お前の居場所がバレた。今すぐに逃げろ! でなければお前は死ぬよりも恐ろしくおぞましい目に遭うぞ。』
僕の居場所が分かった? 僕の居場所が? なぜ?
まずい。まずい。本当にまずい。
いや、そんなわけはない。嘘だ。ただの嘘つきだ。僕は大丈夫だ。安全だ。気にすることはない。馬鹿なやつが僕をからかっているだけだ。
その日の夜、僕はコンビニへ買い物に行っていた。
人のいる明るい場所は、僕を安心させる。
帰ろうとしたとき、道路のはるか向こうに人影が見えた。
誰だろう。――まあ、いいか。
そう思った刹那、その影は僕に向かって走り出した。
全力で、僕だけを見つめて。
僕は叫び、発狂して逃げた。逃げて、逃げて、家まで逃げた。
僕はもう正常ではなかった。
部屋に入り、鍵を閉める。
少し経ってから、ドアを大きく叩く音が聞こえた。
ガチャガチャとドアノブを動かす音も。
――もう終わった。僕は死ぬのだ。いやだ。死にたくない。
しかし、ドアの鍵部分が破壊される音とともに、そいつは――入ってきた。
顔を見ると、まったく知らない人がいた。
その人は言った。
「――あのメールが来てから、俺は狂ってしまった。
メールが言っていた“化け物”とはお前のことだろう。知っているぞ。
お前は俺が会社に行くときも、帰るときも、電車の中でも、コンビニでもスーパーでも、ずっとつきまとってきた。
俺は……お前になんか殺されない!」
その男はそう言って、僕にバットを振り下ろした。
しいな ここみ様の「朝起きたら」企画参加作品です。




