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World's END. 人間はしつこく抗う。  作者: アイスティー
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第二話: 二人の過去、そして今

朝になるとミナはふかふかのベッドで起きた。

「ん…」

ベッドで寝返り毛布を被り朝の日差しを遮る。するとコンコンコンと音が鳴り、聞き覚えのある声が聞こえた。

「ミナ、元気だしな。」

死んだはずのカノがドアを開けて入って来た。ミナは一瞬明るくなってニッコリ微笑んだが、目を擦るとカノはいなくなり、かわりにリュウが立っていた。

「リーダー、起きてますか?」

ミナの表情は元に戻り、リュウを見上げた。

「起きてます…」

彼女は弱々しく返事をした。南木曽から木曽まで移動するだけでも1人失い、ショウ右足をちぎり取られていつ起きるかわからない状態。ミナが頭を抱え込むとリュウがミナの肩に手を置いた。

「チャーリー達を迎えにここまで来たんでしょう?」

リュウにそう言われミナはハッとした。

「そうね。」

ミナは毛布を投げおろすとベッドから跳ね起き、リュウの前を通って部屋を出ていった。階段を降りると彼女の荷物が綺麗にまとめられていた。ペットボトルの水が何本か横に置かれ、靴も綺麗に揃えてある。彼女はリュックから服を取り出し着替えると汚い服を詰め込んだ。リュックを背負い、リュウが来るのを待った。リュウが階段を降りてくるとリュウはミナが待ってくれていることに少し驚き、2人は一緒に建物を出た。

「ショウは大丈夫?」

ミナが入り口に立っていたサラに聞いた。

「ええ。明日にでも起きるわ。」

ミナは胸に手を当て、ホッとため息をつくと道路の反対側にあるバス停のベンチに座っているマークスに手を振った。ボーッと座っていたマークスはミナに気づくとひと笑顔見せて手を振り返した。

「ミナちゃん。」

サラは後ろから言った。

「休ませてあげようと思います。」

ミナはサラに振り返り言った。

「そうね。彼のアンドルーくんとってもいい仲だったもの。そもそもまだ19歳。年齢は大人かもしれないけれど、成り立てよ。中身はまだ子供よ。」

ミナが歩き出すとリュウとサラも彼女を追った。

「あと一人は連れて行かないとね。せっかくだからイケメンにしてちょうだい。」

サラがリュウを見ながらミナに言った。リュウだってイケメンだ。でもリュウとサラはアンドルーとマークスのような友達の仲だ。だからサラとしてはいちゃつけるイケメンの男がいいのだ。しかし勿論ミナははいそうですかと言ってサラのために人生を楽に生きてきたイケメンを連れては行かない。

「大抵そういうのは世の中のことを知らない奴らだ。」

と、山ごもりのリュウが言っている。

「世界を甘く見てるやつらは特に今となっては拠点から一歩出ただけで死ぬな。」

彼は続けた。しかしリュウの言う通りだ。今の世界は甘くない。いや、もともと社会は甘くはなかったが、怪物が全ての曲がり角に潜んでいる今ではそれとは比べ物にならない。顔を使って女を釣って、「僕の残業やってくれる?」なんて言ってられる時代じゃないのだ。

「じゃあ誰?イケメン駄目ならかわいい子も無しね。」

サラがリュウに反発した。

「ああ。勿論だ。しかし有能な子がたまたまかわいいなどと言うのはしょうがないとは思うが…」

リュウは頭をポリポリと掻いた。

「ふーん。」

サラはリュウを細い目で見た。

「い、いやほら。あ、リーダーのこと話してたんですよ!ほらリーダーってすごいじゃないですか。」

リュウは慌てて言った。

「ミナちゃんかわいいと思うんだぁ?」

サラがミナの頬を掴み、リュウの方に彼女の頭を向けた。

「か、かわいい…?」

ミナの顔は赤くなり、目が驚き戸惑っていた。

「あ、そういう意味じゃ…」

リュウは自分の顔を手で覆い隠した。

するとそこに木曽のリーダーと名乗る男性がやってきた。その男は金髪で若く、リュウと同じくらい背が高くてしっかりとした輪郭をしていた。

「あらイケメン。」

サラがコメントすると彼はミナの前でお辞儀した。

「あなたが南木曽のリーダーのミナさんですね。」

「あ、はい。」

ミナは困惑した顔で彼を見ていた。

「私はミナルと申します。ここ木曽でリーダーをやっています。あなた方は人探しをしているんでしたね。」

ミナルは優しい声で言った。ミナは何も返せずコクコクと頷いた。すると嫉妬深いのかリュウがミナルを睨みつけた。

「それならヨルルを連れて行ってください。私の妹です。」

するとミナルはやや遠くに立っている黒髪の少女に手を招いた。少女と言うと16、17くらいで本当に若い。

「妹…」

ミナは誰にも聞こえぬよう呟いた。

歩きよった彼女はくらい目をしていた。右目の下にはあざがあり、長い髪の毛はぼさぼさしている。彼女の髪は黒曜石のようで少し紫の宝石のような輝きが入っていた。ちゃんと手入れしたら美しい髪だろうとミナは思った。

「よ、よろしく。お願いします。」

小さな返事が返ってきた。するとミナルが話し始めた。

「最後にあなた方の仲間が目撃されたのは昨日の夜、洗馬あたりです。ここから約8時間はかかるので日の出ている間に往復は不可能です。しかしここから3時間程先のところにもう一つ私たちの拠点があります。木祖という町にあるのですが、言うと木祖と木曽でわかりづらいので木曽第二拠点、まぁ第二拠点と読んでいます。そこに先に言って一泊してから探しに行くのがよろしいかと。あなたの仲間の方々ももしかしたら今日中に第二拠点にたどり着いているかもしれません。」

ミナは興味深く彼の話を聞いていた。すると待ちくたびれたのかリュウはミナの肩をポンと叩き行こうと合図を出した。ミナは頷くとヨルルに笑顔を送り、彼女に呼びかけた。4人がまとまるとミナはほかの三人を連れて木曽第二拠点に行くため、木曽拠点の北門に向かってまず歩き出した。サラは止まってミナルに手を振るとみんなに追いついた。南木曽とは違い、知らない人たちに囲まれているこの環境で見送りされるのはあまり楽しくない。なんだか皆、死にに行くような人を送る顔をしているのだ。南木曽で送られるみたいにヨルルも周りから何か言われるのかと思いきや、皆彼女のことをかわいそうな目で見ている。門を出ると4人には再び冒険が待っていた。サラははしゃぎ、リュウは内心サラのようになっている一方、ヨルルはあまり嬉しそうな顔ではなかった。外の世界が怖いというような顔ではない。何か別のものだ。

「ヨルルちゃん、どうかしたの?」

ミナが尋ねると彼女は下を向いた。数秒経って彼女はミナのことを見ると何か言いたそうに口を開いた。

「あのっ。」

「早くしないと2人とも置いてっちゃうわよー。」

あと少しのところでサラに遮られてしまった。

ミナはサラに不満そうな顔をするとサラはミナが何に不満を持っているのかわからずきょとんとした顔をしていた。ミナはヨルルに振り返ると彼女の手を取りサラとリュウに続いた。

「いこっか!」

門の前まで来ると1人の男が地図を渡してきた。

「ほとんど一本道ですが念のため。第二はここから5時間ほどです。」

「ありがとうございます。」

ミナは一言言うと地図を受け取りリュックのサイドポケットに入れた。門がゆっくり開くと4人組は少し空いた門の隙間から外へ出た。もし万が一この出入りの時間で襲撃されてもすぐ閉じれるようにだろう。最後にミナとヨルルがすり抜けると門は音を立てて固く閉ざされた。道路を見渡すと擁壁は崩れていて枯れ果てた木や必死に崖にしがみついている茂みがところどころある。リュウはこれらをひょいと跨いで通り、残りの三人は道の端を通り瓦礫の山をよけた。斜めになっている歩道橋をくぐり、放棄された車の間を通る。すこし進むと小さい住宅地に通りかかった。玄関がボロボロになっているのがほとんどだが、まだ人が住めそうなところもある。あの事件から1年も経ち、雑草に家々が覆われている。

「ここにも人が住んでたんですね。」

リュウが一軒の壁に手を当てながら言う。

「まぁ、家があるんだからきっとそうよ。」

サラが正論をぶつけるとリュウは言いたいことくらい言わせろという顔をした。

4人が先を進んでも木曽に向かった時とその光景とそれほどは変わらない。倒れた看板や崩れた擁壁が道を散らし、ところどころ横に倒れた車がある。リュウが歩を速め、先導する形でみんなを引き連れて進んだ。ミナはその背中を見守りながら、歩調を合わせる。

「今日は曇ってるわね。」

静かな空気に耐えられずサラが軽く言った。空は灰色に曇り、湿度が高かったが、雨が降る気配はない。するとサラの右方の茂みから一頭の鹿が飛び出してきた。

「わぁっ!鹿ちゃんじゃないのー。」

「角あるからくんじゃないのか?」

今度はサラが不満そうな顔をし、リュウを無視して鹿を撫でた。

「かわいいわねー。」

「角にぶっ飛ばされるぞ。」

リュウはため息をつき、槍にもたれ掛かった。

「大丈夫よ。私動物の扱い、結構上手なのよ。」

「人間の雄とかな…」

リュウはサラが聞こえないくらいの声でボソッと付け加えた。

するとこれまで静かだったヨルルが叫んだ。

「そこから離れてください!」

サラがヨルルに振り向いた瞬間、鹿の下の地面が割れ、大きな触手が3本出てきた。触手たちは鹿を押さえ込むと地面の中に引きずり込んでしまった。

「ひっ!」

更に触手が2本出てきてもサラは驚きとどまってその場を動かなかった。触手がサラに迫り、彼女は死を受け入れたかのようにぐったりしていた。すると横からリュウが飛んできて彼女を突き飛ばした。触手の攻撃を転がりながら避けたあと、2人は立ち上がった。ヨルルは青ざめた顔で見ていた。

「逃げましょう!」

リュウがミナに呼びかけた。

「お願いします。あれを殺してください!」

ヨルルが頭を下げて言った。

「おいおい何を言っているんだ?」

リュウは触手の攻撃を避けながら言った。

「お父さんとお母さんを殺したんです。お願いします!」

彼女は自分の腰についているナイフを取り出した。ミナ、リュウ、サラが逃げれば彼女は臆してついてくるだろう。しかし、ミナには分かる。大切な誰かをこの怪物たちによって失う気持ちは。リュウとサラだって同じだ。ミナがリュウとサラを見ると、2人はうんと頷いた。リュウは槍を構え、サラは後ろに下がる。ミナも短剣を出して前に出る。

「行きますよ!」

ミナの掛け声に合わせてリュウとヨルルは前に飛び出した。自分から次々に触手が出てくるがミナたちはそれらをすべてかいくぐり、怪物の中心に向かった。たった2本だった触手は4本、6本になり、3人に襲いかかった。その時、リュウが切り落とした1本の触手にヨルルがつまずいた。地面に転んだ彼女は、後ろから触手にたたきつけられた。

「うっ!」

リュウは彼女を助けに行こうとしたが気をとられ、足に撒きつかれてしまった。そのまま2人とも持ち上げられ、家の壁に投げつけられた。ヨルルは気を失い、リュウは槍を使って立ち上がろうとする。すると2人を見ていたミナの前を白い触手が通る。ミナはギリギリのところでかわすと地面に強く踏み込み、勢いで触手を根元から綺麗に切り取った。透明な液が垂れ、切り落とされた部分は地面に落ちた。次に飛んでくる触手も避け、その次も避ける。しかしいくらこの1年間怪物たちを駆逐するためだけに努力してきた彼女でもこれだけの触手の数を相手にするのは難しい。2本切り落としてもまだ6本。彼女は手足を掴まれ身動きを封じられた。

「リーダー!」

槍を杖にしてリュウが歩いてくる。彼の左足首は壁に投げつけられたことでバラバラに骨折し、揺れるだけでも痛い。しかし、尊敬するリーダー、ミナを助けるためなら全力で歩く。


事件から2か月

リュウは山籠もりな生活のおかげか、事件から1か月経つまで地球で怪物があふれ出ているというようなことは知らなかった。そもそも自分の目で見ないとそんな悪夢は信じられないだろう。リュウにとっては通常の日常だった。毎日狩に行き、獲物を捕らえ、それをおじいちゃんと一緒に干したり焼いたりする。幼くして両親を失ったリュウは親には何の執着心もなかった。そして親がいないことに大して悲しむことはなかった。それも、生きてこれたのも、すべて彼のおじいちゃんたる存在のおかげだろう。両親が亡くなった後、そのおじいちゃんがリュウを育て上げた。「おじいちゃん」ではあるが、距離感としては父親に近いものでもあった。リュウはすべてをおじいちゃんに教わり、彼のあり方を見せてもらった。しかしある日、すべてがさかさまになった。

「おじいちゃん!」

狩から帰ったリュウは家の戸が崩壊していることを見ると泥棒でも入ったんじゃないかと思った。おじいちゃんを探しに家中探したが、中には誰もいなかった。だが、あらゆるところに何かと争った形跡が残っていた。刃物の跡、誰かが壁にぶつかった跡がいくつも残っていた。そして戸と同じように破壊されている裏口からは足跡が泥の中にある。一瞬にして足跡の主が分かったリュウは家を飛び出し、足跡を追って山を降りた。森を掻き分け、町が見える。しかしリュウはもう遅いのだと気づいた。1本の木の裏からはみ出る大きな尻尾と反対側に地面にぐったりしている手。リュウは槍を強く握り、ゆっくりと木の周りを回った。するとそこには紫色の大きな狼が死体から肉を食べていた。皮はちぎれ、血はもうほとんど出てしまったようだ。赤い水溜りができている。リュウはその光景に吐き気がした。

「うっ…」

恨んだ。その狼を。殺さなければいけないと思った。槍を肩まで上げると、思いっきり紫色の狼の頭目がけて飛ばした。槍はヒューっと音を立てて空を切り、狼の頭部に刺さった。ヨロヨロっとふらつき、そのまま狼は死体の上に倒れ込んだ。

「おじいちゃん…仇、とったよ…」

リュウがその場に座り込むと、うなり声が聞こえる。見上げると、そこにはおじいちゃんの体の上に倒れているのと同じ狼のような物が2匹、リュウを見下ろした。彼が反応できる前に狼たちは飛びかかろうとした。死を覚悟したリュウは両手を顔の前に出し、目をつぶりうずくまった。しかし、いくら待っても噛み殺されないし、引き裂かれない。ふと目を開けると、襲ってくるはずの狼が腹に撃たれた跡を大量につけて2匹とも倒れていた。おじいちゃんと違い、血が紫だ。大量の出血が毒の沼に見える。何が起きたのかと辺りを見回すとそこにはクリーム色の髪のそここそ背の低い女の子がライフルを持っていた。

「大丈夫ですか?」

彼女はミナと名乗り、世界の事情を知ったリュウはミナと南木曽拠点に行った。


そして現在。

リュウは残る全身の力を振り絞り、ミナを抑える触手に向かっておもいっきり槍を投げた。空を突き進む槍はミナの右腕に巻かれた触手の端を擦り、切り傷をつけた。紫の液体がミナの顔に飛び散る。しかしこれと同時に触手の力は一瞬弱み、そのチャンスを逃さず、彼女は腰から短剣を取り出すと左腕に巻きつく触手を思いっきり引き切った。両腕が空き、脚だけで掴まれている彼女は逆さまになり、脚の触手も急いで切り裂くとそのまま地面に背中から落ちた。衝撃で彼女は短剣を落としてしまい、向かってくる最後の2本の触手を受け止めることが出来なかった。次の瞬間、その2本の触手が地面に落ちた。そこにはヨルルがミナの落とした短剣を持っていた。

「ヨルルちゃん!」

ミナは安心と驚きの混ざった声で言った。さっきまで建物の影にサラと引っ込み、後ろで下がって怯えていた彼女が今強く武器を握って戦っている。全ての触手が切り落とされ、切り落とされた元は1本ずつ地面にズシンと倒れていった。ついにやったのだこのたった1体の怪物を。何万体このような化け物がいるかわからないこの世界でまた1体平和に近づいたとミナは信じている。

「みんな大丈夫?」

ミナが辺りを見回し、皆の状態を確認しようとする。すると地面に倒れているリュウを見つけた。

「リュウくん!」

心配そうに彼の元に駆けつけるミナ、そして彼の隣に座り込む。

「大丈夫よ。生きてるわ。こいつ、しぶといもの。多分明日には、リーダー、結婚してください!なーんて言ってくるわよ。」

そう言ってサラがミナの肩に手を置き、落ち着かせる。ミナは呼吸を整えると倒れている彼から遠ざかりサラを処置にあたらせた。サラはリュウを建物の壁に寄り掛からせると救急箱から包帯や補強を取り出し、彼をぐるぐる巻きにし始めた。エジプトのミイラにでもするかのように全身を巻いていく。

「お2人さん、見張りお願いね。」

サラはミナとヨルルに頼み、それに頷いて2人は辺りを警戒しつつリュウの容態を心配した。

「このままじゃあ先に進むのは危険そうですね。」

ミナが呟いた。

「私のせいでリュウくんが…」

落ち込んだ顔をしてミナは自分を責めた。

「ミナちゃんのせいじゃ無いわよ。今時、外で何が起きるかわかったもんじゃ無いわ。それよりヨルルちゃん、どうしてあの部分の地面がこの気持ち悪い触手みたいな怪物だってわかったの?」

サラがヨルルに体を向けて問いかけた。しかし、その質問に対してヨルルは答えずしばらく黙り込んだ。だがその後、歯を食いしばり、自分の過去を言う勇気を見つけた。ミナを助けた時と同じ勇気なのかは分からない。しかし、ずっと怯えていた彼女は外に出て初めて勇気を手にした気がした。

「私の両親はアレに殺されたんです。私が学校から帰ってきた時でした。仕事が庭師なお母さんはお父さんと共に家の庭で植物を育てるのがとても好きだったんです。」

両親の事を話すヨルルは少し嬉しそうだった。しかし、次の部分を話し続けると彼女の笑顔は次第に悲しみに変わってしまった。

「私が両親にただいまと言いに庭に回ると2人は仲良く苗木をどこに植えるか話し合っていたんです。その時2人の携帯電話に警告が来たんです。心配して私を家の中に連れて行こうとした途端、2人が踏んだ部分の地面が少し突き上がっていたんです。地中から何かが飛び出そうなように。するとあの触手の怪物がいきなり出てきて2人を襲ったんです。ねじり殺されたんです、2人は。」

拳を強く握りしめ、ヨルルは語り終えた。

「そんなの酷いじゃない!そんな怖い思いをしたヨルルちゃんを外に行かせるなんて。あなたの兄さんどうかしてるわよ。」

サラはヨルルの兄を責めたが、ヨルルは兄が酷いとは思わなかった。むしろ彼女を押し出して再び自信をつけるチャンスを与えてくれたと両親の仇をとるのを手伝ってくれたミナとリュウと同じくらい感謝している。

「いいんですサラさん。もし兄が私を押し出してくれなければ私は一生外の世界を見る事なくあの中にいました。次第に周りとも話せなくなり、私は異物のように見る人も少なくありませんでした。でも今の私なら、みんなと一緒にこの世界で生きていける気がするんです。兄は変わっていますし、やり方は普通とは言いづらいですが、とても良く私のことを想ってくれているんです。」

「そう…」

サラはまだ心配そうに言うが、ヨルルの言うことを信じることにした。しばらくして休んでいたリュウが目を覚ました。

「なぁサラ、2人の美女と1人のゴリラと旅してる夢を見たんだけど。」

目を覚ましたリュウは隣で治療していたサラに言った。それを聞くとサラはどこか嬉しそうにリュウを殴った。

「大丈夫そうね。」

「いたっ!」

リュウのこの状態ではこれ以上先に進むのは難しい。それは全員が分かっているが彼が当然1番分かっている。

「すみませんリーダー。あなたを守らなきゃいけないのに…」

彼は皆の足を引っ張っていると言うような言い方だった。

「そんなことないです!さっきはリュウくんにも助けてもらいましたよ。4人だけできた私がいけないんです。そもそもチャーリー達も2人で行かせるなんて無茶を押し付けているようなものだったんです。1回木曽に戻りましょう。」

ミナは木曽まで戻るため頑張ろうと皆の士気をあげた。サラとヨルルはリュウを担架に乗せると両端を持って彼を運んだ。ミナが先頭を行き、他を導いた。戻る景色は同じ道をとっているはずなのに進む方向を変えるだけで別の場所に見えてくる。ミナはところどころ止まって来た道かと記憶をハッキリさせるために後ろを振り向き、見覚えのある景色かどうかを確認しながら少しずつ進んだ。瓦礫や自動車などの周りを避けて進み、日が沈む前には木曽拠点の門の中までリュウを運ぶことができた。彼を無事病院施設まで届け、残りの3人は休みを取るためミナルに案内されたところの住居で1夜を過ごした。ミナはベッドに乗りこみリュウやチャーリーたちのことを考えていた。しかし、時々シユの記憶がよみがえる。彼女は毛布を頭の上から被り、寝付いた。

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