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08.二つ目の戦場

 俺たちはもうしばらく、数字を見ながらああこうと話を続ける。自分たちのランク周りを見たら、今度は下位。戦歴の浅い操士たちのスコア変遷だ。

 とはいえこれについては、教育熱心なエリオットが一喜一憂するのを眺めているようなものだった。


「……リサは後輩の育成とか興味あるのか?」

「いえ? ちっとも。私は私が強くなれればいいです。……知ってるでしょ?」


 その返事には、何をいまさら、というニュアンスが含まれていた。俺も質問の意図を答える。


「最後の振り返り会、なんて言うから、楽しみがたくさんあるんだと思ってた」

「最後にエリオットを超えられるか、ファレンに一つでも及ぶ所があるかは楽しみにしてましたよ」

「でもそれ自体は、転属後でも確認できるじゃないか」

「嫌ですよ。目の前にいない相手をライバルにして競い合うなんて」

「俺はずっとそれやってるんだが……」


 そうでしたね、とリサは笑う。


「……私たち、操士になってすぐ一緒の時期に配属されたじゃないですか」

「まあな」

「あの頃は何をどうすれば良いかも分からないで、とにかく考えながら、月に一度のスコアシートだけを頼りになんでも試行錯誤してましたよね」

「リサが『教官はアルギア操縦のことを分かってない』って言い切ったの、未だに覚えてるよ」

「3人で計測機器をハックしようとしてダウロス統括官に怒られましたね」

「やったやった。何でバレたんだったかあれ」

「今だから言いますけど、エリオットがティルチェに自白して、そこからティルチェが密告したんです」

「ははぁ。優等生コンビがよ」

「ほんと。成績は私たちの中では一番下なのに、今ではすっかり隊長顔して」

「それもギリギリ今月はそうってだけだろ」

「来月もそうなります」


 笑い合う。

 昔からそれほど変化していたつもりはなかったが、振り返ると色々あったものだ。


「はーあ……やっぱりしたかったですねえ。アルギア同士の戦闘」

 かと思えば、ぎょっとすることをリサが口走る。

「お前、まだ諦めてなかったのか……」

「勝負ごとは好きですけど、数値越しではもどかしいです。直接の斬った張ったで白黒つけば、負けるにしても潔く負けられるんですが」

「対アルギア戦闘なんて活かせる局面ないだろ……」

「え~。翼樢(ヴィスカム)を滅ぼしきった後とか?」

「いつになるんだか」



「今すぐ」


 ずい、とサムエルを追っていったレミアが横から視界に割り込んできた。


「あら。レミアちゃん」

「サムエルは?」

「見つけた。来なかったらティルチェが泣くって言っておいたから、来ると思う」

「微妙に来ない可能性残ってるなそれ……」


「それで、今はリサを探してた。はいイヌの鼻」

 レミアがぎゅっと閉じていた両手を開くと、光の球体――よく見るとひくついている――が内側から出てきて、リサの手元に戻る。

「ありがとうございます。……あら、可愛がってくれたんですね」

「鼻を? 鼻だけなのに? どうやって?」

「サムエル見つけたときに撫でてあげた。すごい、ふんふんいってた。で、リサ」


 レミアがリサの手を取る。

「汗流してない。早く行かないと、男子の時間になっちゃう」

「……あら? もうそんな時間でしたか。ちょっと話し込んじゃいましたね」


 基地内の操士用大浴場は男女兼用で一つだけだ。時間によって男子と女子のどちらかだけが入るようになっている。

「行ってこいよ。俺らと話してる間はともかく、夕食の時も汗っぽいのは嫌だろ」

「ええ。ではお言葉に甘えて」

「……ねえちょっとファレン、そういうのさ、やめて」

「何でレミアが怒るんだよ……」


 俺を睨むレミアと、それをなだめつつ浴場へ向かうレミアを見送る。

 そして俺はもう一度、スコアシートに視線を落とす。



 全体2位、ボリア。

 能力の差はわずか。それでも彼は絶対的な優秀さにより、俺と俺の人生の目標たるマックス・ゼフを遮り続けている。

(……同じ北方部隊に所属して、ゼフと肩を並べているから強いのか? それとも単に、厳しい戦いの中にいるから?)


 北方は激戦区だ。翼樢(ヴィスカム)が生み出される集樹(ネスト)が最も多く棲息していると聞く。

 俺たちも、一番いそがしい時は十日に一度は集樹焼きの大規模作戦を行ったものだ。それでもマックス・ゼフが戦い続ける北方に比べれば大したものではないのだと、ダウロス統括官に叱咤されたことを覚えている。


(最近はスコアシートに載ってた名前がなくなることも少なくなってきたが……一時期の北方部隊の減り具合は、ゼフがいてもなおヤバかったからな)

 そんな環境にいれば、強くなるのも当然かと思う。



『数値越しではもどかしいです』

 だがその一方で。

『直接の斬った張ったで白黒つけば、負けるにしても潔く負けられるんですが』

 リサの言ったようなことを考えないでもない。

 眉間に皺を寄せて点数差を計算するよりも、直接勝負で雌雄を決する。そうすれば、この僅かな差を逆転できるのではないかと考えてしまう。


(対アルギア戦闘……)

 目を閉じて想像する。例えばリサ。自らの腕の針を、彼女のアルギアへ向けること。

 たぶん、互いに交錯を繰り返す機動戦になる。リサの動きは……攻撃は鋭いが防御は甘い。

 何度かの浅い衝突の後、焦れたリサのアルギアに、俺の針は容易く傷をつけるだろう。そこから、碧色に燃える煌星(プラズマ)級の炎、触れるもの全ての命を奪う光が上がり――



「……ないな」

 有り得ない、と続けて呟く。

 アルギアは味方だ。味方同士でそんなことをする理由はない。

 俺はそんなことをしたいわけじゃない。俺はただ、もっと遠くへ――



「ファレン!」

 ぐ、とエリオットが肩に腕を回してくる。

「何がないんだ?」

「何でもない。ってか汗くさい」

「おお、それそれ。サムエルも捕まえて、とっとと汗流そうぜ。そろそろ男子時間だろ?」

「……それは構わんけど、レミアとリサが行ったばっかりだぞ。鉢合わせないか?」

「もちろん切り替えの時間までは待つ! それを越してあいつらがおしゃべりに夢中になってなきゃ大丈夫だろ。多分ティルチェも一緒だし」

「余計におしゃべり長引きそうだけどなそれ」



 とはいえ、エリオットはそんな曖昧な嫌な予感で止まる男ではない。

 俺は事故を水際で防ぐ方法を考えつつ、サムエルを探しに歩き始めるエリオットに続いた。


11/3 昼更新ここまで

11/3・11/4は昼13時と夜21時に更新し、以降1日1話21時に更新します

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