07.英雄と、壁
アルギアの操士は、月に一度、能力査定を受けなければならない。
大したものではない。いくつかの機器を取り付けたアルギアで、指定された動きをすればいい。
内容は様々だ。魔法で浮遊するターゲットを的確に攻撃したり、一直線に飛んだり、かと思えば地上からの合図に従って精密な飛行をしてみせたり。
その機動によって得られた数値を首都研究院に持ち帰って、何やら計算をすると、制御精度とか対群攻撃速度とか、そういったいくつものパラメータが割り出されるらしい。
そうして、最終国家フェリィに属する全てのアルギア操士がランク付けされる。
この結果を首都で印刷したものがスコアシートだ。
大体月に一度、購買所への嗜好品を含む物資搬入と同じタイミングで基地に運び込まれて、一人一枚配布される。
リサは、そいつを見ながら俺たち三人であれこれ言い合うことを『振り返り会』と呼んだわけだ。
「ぐあーっ、負けた!! 3ヶ月ぶりか!?」
「4ヶ月ぶりですよ。ふふ……ここを去る前の心残りが一つ解消できて良かったです」
全体6位の所にリサとサムエルの名前、そしてグラムゲイズの名が記されていた。
そのすぐ下、7位にエリオットとシルフェイル。二人のアルギアの祈り名、ジュビラーテが並んでいる。
「まさかここまで攻撃力に特化して勝負してくるとは……攻撃性能だけ見たら4位じゃねえか。アレンの次!」
「苦手な精度系の点数よりも攻撃系の点数を上げた方が良いのは分かってましたから……転属したらまた地道な精度訓練に戻ります。最後の思い出づくり、ですね」
言って、リサは横目で俺を見る。
「まあ、最後まで『この部隊一番』になれなかったのは、正直心残りですが……」
俺の名前と、レミア、そしてアルギアの祈り名、ニクスネメシス。
これらは、上から3番目に記されていた。
アルギア部隊全体の中で3位。東方部隊の中では1位。
このスコアこそ、体力バカでも魔力バカでもない俺が『戦闘バカ』と呼ばれる由来である。
単純に、俺にはアルギアで戦うセンスがあった。
「……3位か」
それでも俺は舞い上がれず、そのすぐ上にある2つの名を見る。
全体1位。北方部隊所属ファストドライバー、ゼファー・マクシミリアン。スロウドライバー、不定。
祈り名、アンサラー。
彼はいくつもの異名を持つ。『最初のラーヴェ』『マックス・ゼフ』『耀く風』――『英雄』。
事実として彼は偉大だ。偉大過ぎるほどに偉大だ。
その偉業は誰もが知り、今生きている者の大半の生存に関与していると言っても良い。
アルギア操士のほとんど全員が、彼に救われたことを契機に操士を志し、不可逆の変容施術を受け入れた。
俺だってそうだ。実際にその姿を見たのは、あの遠い日……命を助けられたその瞬間だけだが。
あの炎の碧色と、力強く美しい戦いの姿は、何度だって夢に見る。
だから、いい。
彼の背を追い続けることは、俺の生きる目的であり、そこ迫ることは、誇りだ。
俺より上にその名がなくては困る。……もちろん、いつかは並び立つという前提で。
全体2位。
北方部隊所属ファストドライバー、ボリア。スロウドライバー、シルフェイル。
祈り名、ディヴァインレイ。
やや攻撃性能に寄るものの、クセなく平均的に高いスコアを維持。
もう長い間、俺とマックス・ゼフの間に名前を刻み続けている。
それだけだ。
この強固な壁について、俺が知っていることは。
「今回も3位ですねえ」
見れば分かる事実を口にするリサ。
その語調には、どこか俺をチクリと刺すような気配が滲んでいた。まあ、無理もない。貪欲で負けん気の強いやつである。
俺に総合成績で負けるだけならまだしも、意識して特化させたという攻撃性能のスコアですら及ばなかったことには、歯痒さを感じているのだろう。
そしてそんな俺が、自分ではなく2位の相手を見ていることも。
「残念です。もし転属先が北方部隊だったら、挑戦状の一つでもお預かりしたのに」
「そうだったとしても渡さねえよそんなの」
「伝言などは?」
「……いや、だからお前の転属先は中央だろ」
「今ちょっと迷った間だったなあ!」
エリオットが大きな手で俺の肩を叩く。
「で? 勝率は?」
「……3割。いや、ほぼ同スコアが4項目あるから、そこまで負けてはいない」
「とりあえず最高速度だけは勝ってて、あとは……あっちは精度系上げて来たんだなあ」
「ゼファーさんはどうですか?」
ゼファー・マクシミリアンは、総合スコアで全体1位、というだけではない。
すべての項目のスコアで1位である。他の操士は、彼の数値に近付くことはできても、及ぶことは未だない。
俺たち全ての操士と同じように成長し続け、絶対の先達として君臨し続けている。
「相変わらず全部上がってるけど……おっ、最高速度の差はかなり縮まったんじゃないか?」
「そこだけならあと一息なんだけどな」
……いつか、彼のようになりたいと思ったあの日から、その背中は依然届かない。
それは嬉しくも、悔しくもあり、どちらも今日の俺を突き動かす燃料である。




