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04.決戦操士ファレン

 沈みつつある太陽が、地平を鮮やかに照らし出している。


「敵影捕捉。偵察型多数。殲滅型11……12、まだ増えるかも。主力型は、(シュライク)級、北西にひとつ!」

「ザコ多めだな」


 レミアの報告へ返した言葉に、遅れて少し苦笑してしまう。

 かつての俺は、全ての力を尽くしてようやく一羽の殲滅型翼樢(ヴィスカム)――(クロウ)級と呼ばれる小型種を倒せただけだったのに。


 アルギアに乗った今、奴らは『ザコ』だ。

 油断でも傲慢でもない、ただの事実として。



「西へ膨らむように迂回して、殲滅型を減らしてから主力とぶつかる。いい?」

「任せた」


 彼女は確認の形を取ったが、ここしばらく俺がそれに異議を唱えたことはなかった。

 索敵と交戦までの移動は、スロウドライバー(進戦操士)であるレミアの仕事。

 俺がこましゃくれた口を出すより、その提案を呑んでその通りに動くのが最善だ。



 翅を広げ、天地の狭間を飛翔する。

 最小の翼樢(ヴィスカム)(ドーヴ)級と呼ばれる偵察型を熱波で焼きながら、(クロウ)級へと接近。


 俺は腕を振るい、すれ違いざまに(クロウ)級の表皮を掻き、削る。

 そいつは俺を追うことも、逃げることもままならず、碧い炎に巻かれて焼け落ちていく。

 あの、森のざわめきに似た羽ばたき音が聴覚センサに届くまでもなく。


 そう、触れるだけでいい。

 アルギアの腕……正確には(スティンガー)と呼ばれる、針のような腕が損傷を着けた箇所からは、激しい炎が噴き出してくる。

 (クロウ)級ごときであれば、それだけで撃破できる。



 枝葉で組まれた鳥どもを撫で焼きながら、俺たちのアルギアは本命へと接近していく。


 (シュライク)級。

『主力型』と呼ばれる翼樢(ヴィスカム)の一種。(クロウ)級よりは当然、アルギアよりも少し大きい。

 他種と同様身体の大半が樹木で形成されていながら、磨かれた刃のように硬く鋭い嘴と翼を持つ。

 アルギアであってもそれで関節を裂かれれば無事では済まないし、正面から受ければ鉄製の予備装甲はもちろん、地上最硬の昀鏻鉱(シャルティタン)装甲すら傷つく。


 当然、生身の人間では太刀打ちできず、アルギアであっても数的優位を確保した上で対峙することを推奨されている。



(ま、俺なら一対一で充分な相手だが……)

「俺『たち』でしょ」

「思考読むな! ……ああいや、もういいのか」


 リズム良く奴らを焼き落としながら、(シュライク)級を睨む。


「翅の制御と前面センサー全部取るからな」

「うん。横槍入りそうになったら取り返すから」



 ……主力型翼樢(ヴィスカム)は、強い。

 さっきまで撫で殺していた奴らとは違う。主力型との交戦は、アルギアの機動力と攻撃性能・防御性能を最大限に活かさなければいけない。

 そのためには、先ほどまでのようにレミアに移動を任せて、なんてことをしていられない。思考リンクは言語による会話よりも迅速な意思疎通を実現するが、それでもなお遅い。


 ――原則的に、アルギアを一人で操縦することはできない。

 仕組みが複雑過ぎる。腕。脚。人にあらざる翅。人のそれとは異なる複数のセンサ。

 だから普通、それらとの同調は二人で等分し担当している。


 だが、主力型以上……『ザコ』ではない敵との接近戦時だけは。

 分担のバランスを崩し、アルギアの機能の大半を自らの制御下に置く。


 それが俺――ファストドライバー(決戦操士)の務めだ。



「っ……」

 息を飲む。身体の内側の熱が膨れ上がって、腕や脚を、脳を、内側から押し膨らませようとしているような、そんな錯覚。

 いつもの不快感。何度やっても慣れない感覚。


 だがそれもごく僅かなことだ。

 その先にあるのは、アルギアの主導権を握った――万能感。


 空は美しく、風は心地良い。

 閉塞されたコクピットの中、地上では得られぬ質量を伴い、人の身に存在しない翅を開いて、翔ぶ。


『もっと遠くまで翔んでいくためだ』


 レミアへの返答は、適当やその場しのぎではない。

 本心だ。俺は、できることなら……翔んでいきたい。


 もっと遠く。

 想像もつかないほどに遠く。



「ファレン」

 ささやかな陶酔に浸っていた俺の身を、ひんやりした声が引き上げる。

「あっちも気付いてる。接触まで5秒」

「……ああ」


 (シュライク)翼樢(ヴィスカム)一体。

 白んだ空を背景に、嘴と翼の刃が陽光を反射し輝く。


 奴も(アルギア)を見ている。

 アルギア()を斬り裂こうとしている。


 なんて無謀な。



「交戦開始」


 接触1秒前。碧の炎が空に噴き上がる。

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