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22/55

22.第一位

 普通の組織だと、大きな作戦を達成した後は、パーティなり何なりを開いて戦勝を盛大に祝うらしい。

 だが、アルギア部隊にそんなものはない。操士たちは一様に疲れ切り、どうにか自室まで這って到達した後は、死体のように眠ってしまうからだ。

 というか、本来であれば俺だってそうしていたことだろう。



「作戦が成功で終わったら、ファレンは即寝ろ」

 出撃前、エリオットは真剣な顔でそう言った。

「で、レミアが全力でアルギアを動かして帰還してくれ。そうすればその後、ファレンが基地員の事務所に潜入できる」


 そう言われて、俺はまずティルチェを見た。

「……何?」

 特に異論はないらしい。次いで、レミアを見る。

「どうかした?」

 やっぱり異論はないらしい。俺はしっかりと、身を守るように腕を組む。


「なんで俺なんだ。潜入とかしたことないんだが」

「そんなのここにいる誰もしたことねーよ。少なくともオレはない。ティルチェもないよな?」

「ないわよ」

「レミアは?」

「わかんない」

「記憶にないならないって言え」

「じゃあ、ない」


「ということで頼んだ!」

「……今確認できたのは経験があるかないかだろ。もう少し経緯を話せ」

 正直に言えば嫌ではないが、経緯が不合理なのは嫌だった。ふーむと顎に指を置くエリオットの横で、ティルチェがにべもなく言う。

「ファレン、大人の足止めできないでしょ」

「……できない」

「あたしとエリオットは基地員を誘き寄せるから、残ったファレンが裏口から潜入するってだけ」

「レミアは?」

「このやり方だと、見つかるのは確定でしょ。で、かなり絞られるはず」

「ああ」

「なら、レミアにそんなことさせられないでしょ」


 レミアはきょとんとした表情をしている。


「…………まあ、それでいい」

「じゃ決まり。大丈夫、できる限りの準備はしてあげるから」

 ティルチェの表情は真剣そのものだった。

「こんなことするの、後にも先にもこれきりよ。だからファレン、絶対死ぬ気で証拠を見つけて」

 死ぬかもしれない集樹(ネスト)攻めの前に死ぬ気でなんてよく言うな、と思ったが、思うに留めた。

 ティルチェの眼差しが、思ったよりも深刻だったからだ。

「……もし何も見つからなかったら、サムエルのことから全部、ダウロス統括官に喋るからね」



 そういう訳で、今俺はアルギア部隊東方基地の事務所裏にいた。

 そこは事務所宛の物資の受け取り口でもあり、物資搬入日でもあった今日、一人、二人は人がいたはずだ。

 だが、今はいない。


(……エリオットもティルチェも、本当に上手くやれてるんだな)


 天鸖(ヴィドフニル)との激戦の後である。移動をレミアへ押し付けたにしても疲れは残っていた。

 が、その様子を見て、改めて気を引き締める。既に賽は投げられたのだ。


 俺は事務所へ続くドアを引く。開かない。カギがかかっている。

(当然か)

 なので俺は、ポケットから慎重にティルチェより預かった『マスターキー』を取り出す。

(とりあえずこれで事務所には入れるって話だが……)


 一見すればただの針金にしか見えないそれを、鍵穴へ慎重に差し込む。

 奥まで差し込んだところで、ガン、と拳で叩く。


 ミシッ  メキメキ バキバキバキバキ!!


「おっうおっ……!」

 すると針金は見る見る巨大化していく。窮屈そうに拡大のスピードが止まったのも一瞬のことで、カギの内部構造もドアノブも全てを内側から破砕してしまった。


  ゴト……


 後に残るのは、半壊した扉と、ずり落ちる金属の円柱。



 マスターキーの正体は、アルギアの補修材料として購入され、しかし実用性なしと判断され倉庫の隅でホコリを被っていた鋼鉄材である。それをティルチェが魔法で縮小し、鍵穴に突っ込めるサイズにしたものだ。

 そいつに衝撃を与えれば、元のサイズに戻る過程でドアを閉ざす構造を内側からブチ壊すという次第である。

『持ち運んでる時に衝撃受けたら一発アウトだから気を付けなさいよ』

 こう上手く行くと、シャレにならない脅しを受けながら慎重に持ってきた甲斐があるというものだ。


 とはいえ、ドアは誤魔化しようがなく破壊されているし、巨大な鉄骨は転がっているしで、見れば一発で異常と分かる事態である。ついでに言えば、結構デカめの音も出た。

(どうせ見つかる前提とはいえ、潜入ってこんな感じで良いのか……?)

 疑問には思いつつも、砕けたドアを開き、鉄骨を跨いで中へ入る。


 事務所の内装は質素なものだった。

 机にも棚にも様々な書類が積まれ、壁のボードには先月のスコアシートが貼られている。

 掃除はされているが、整理はされていないという具合だ。日々あれこれとしてくれているのだろう。


(……いかんいかん。余計なことを考えるなよ)


 基地員の大人たちについて俺はそこまで悪感情を抱いていないが、今回限りは別だ。

 今はあの日のサムエルの言葉について、決着をつけることだけを考える。

(謹慎一週間くらいは軽いもんだ……!)



 やがて俺は、ある机に真新しい植物紙の束を見つけた。サイズ的にもスコアシートだろう。

 裏向きに積まれたそれを、俺は慎重にめくって開く。



 全体1位


 ファストドライバー(決戦操士)、ゼファー・マクシミリアン

 スロウドライバー(進戦操士)、不定

 祈り名、アンサラー(答えを出すもの)



「…………ない」

 空白だ。

 2位、北方部隊所属、ボリア。3位、東方部隊所属、ファレン。

 そして4位以下全員の名前の横に明記されている所属基地欄が、ゼファー・マクシミリアンのみ空白だった。


『この基地の基地員がこのことを知ってるか知らないか』

『つまり、信用できるかどうかはすごく大事』


 まずティルチェの疑問には、答えが出た。

 この基地の基地員は、知っている。



(ひとまず物証としてこいつは取って、後はできれば――)

 印字手段を探そうとした瞬間、

「……!!?!?」

 視界の端に、信じられないものが映った。


 しまいかけたスコアシートを慌てて広げ直す。

 手が震えてシートがブレていたが、その値だけは見間違えなかった。


 総合1位がゼファー・マクシミリアンであり、総合2位がボリアという奴であることは変わらない。

 総合値において、俺はこの二人の後塵を拝している。

 そして、ゼファーは総合スコアのみでなく、全ての点数において俺とボリアを抑え込んでいた。



 先月までは。



「抜ッ……いぇっ……」

 抜いてる、と口走ることすらままならなかった。

 だが、事実として抜いている。総合2位ボリアにただ一つ決して譲らなかった最高速度のスコアにおいて。

 俺は、マックス・ゼフを、超えている。


(俺っ……俺が……1位……!? ……マックス・ゼフを超えて!?)



「誰かいるのか!?」


 破壊した扉の向こうからそんな声が響き、俺は急速に我に返った。

 低く、力強い声。基地のトップであり、操士(ドライバー)への最終指揮権を持つ、ダウロス統括官だ。


(馬鹿野郎! ゼフが存在しないかもって話をしてるのに何でゼフを抜いたことで喜んでるんだ!!)

 衝撃の事実に前後不覚になっていた自らを悔やむ。時間はもう十秒とない。

(何かないかっ……言い逃れ不能の物証!)

 このままでは『今回だけ』印刷が漏れたという言い方もできなくはない。

 前回も、前々回も、それよりずっと前からスコアシートの空白をここで埋めていたのなら、必ず何かあるはずだ。

 俺は咄嗟に手近の机の上をひっくり返した。何もない。



「お前……!」


 ほどなくダウロス統括官が姿を現した。

 エリオットにも勝ろうかという頑強な体格に、厳しい目つき。顔には深い皺と傷。後ろに撫でつけた白髪交じりの髪。

 大人の中の大人という様相の男。


「ファレン……何をして」


 ダウロス統括官の言葉が途切れた。俺が手にしたスコアシートに視線が釘付けになっていた。

 そして直後、視線を外して。

 壁際の、両扉造りのキャビネットを見て。


(……そこか!!)

「待て!!」


 鋭い制止の怒声。怯みそうになる本能を押さえつけ、俺は走る。統括官が視線を送ったキャビネットに向けて。

 統括官も走った。が、俺の方が近い。キャビネットの扉を開く。


 中には、文字が並んでいた。

(……金属活字!)

 これにインクを塗りつけ、紙を押し付けることで印刷ができるというのを、いつか聞いたことがあった。

 そしてその一番手前に、フレームに嵌められてきっちり並んだ金属活字の列があった。

 それを取る。


「ファレン!!」


 すぐそこにあった紙へと押し付ける。

 インクを塗布していないので、当然鮮明には映らなかった。だが乾燥した黒いインクのカスが、かすれた文字列を確かにそこへ記した。



『北方部隊所属』



 ダウロス統括官が俺の肩を掴み、その場から引き剥がす。

 力任せの勢いで、金属活字が散らばった。


「ファレン、お前……!」

「……どういうことなんです、ダウロス統括官」


 眼前の統括官の目は、怒りというより驚きと動揺に見開かれていた。

 俺はどうだろうか? 自覚はなかったが、それでもきっと怒りがあったと思う。


(……ああ、そうだな)

 この時俺は、初めて怒りを自覚した。

 しばしば反目し合いながらも、それでもある程度信じていた相手が、決定的な『何か』を必死で隠そうとしたという事実への怒り。



「説明をして……もらえるんです、よね?」

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