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第3話 裏切りの王子

 

 王子の頭や腕に刻まれた水晶を凝視しながら、ガーネットは訴える。

 最初は親同士で決められた間柄だったかもしれない。それでもガーネットは王子と接するうち、不器用で口下手でも、内に秘められたほのかな優しさに気づき始めていた。

 ――でもそれは、しょせん自分の思い込みにすぎなかったのか。

 この王子はそんなに酷薄なクズだったのか。彼の身体をびっしり埋め尽くす冷たい水晶は、その心までも蝕んでしまったのか。

 そんなことない。失望を押し殺しながら、ガーネットは叫んだ。


「それだけで婚約破棄だなんて、やりすぎよ!

 家同士で既に決まっている婚約を、貴方一人のわがままで破談にしたらどうなるか分かってるの!?」


 そんなガーネットにも王子は答えない。もう口もききたくないと言わんばかりに、視線すら合わせようとしない。

 代わりにオニキスが告げた。絶望的事実を。


「この件は既に、クリスタッロ王も承知の上です。

 グルナディエ家にも使者が行っております」

「え……」


 それでもガーネットは諦めきれない。

 本当に王子は自分を見捨てたのか。王子自身が認めたはずの、闘技場通いをやりすぎた――

 ただ、それだけの理由で?


「ねぇ、ディア!

 ちゃんと本当のことを言ってよ。貴方はいつも口下手だから、なかなか本心を言ってくれなくて――」


 執拗に食い下がるガーネット。

 しかしそんな彼女の言葉を打ち払うかのように、王子はぶんぶんと頭を振る。

 そして――



「サファイア。ごめん……!」

「!?」



 今度こそガーネットもマリンも、二の句がつげなくなる。

 何故ならディアマントが突然、傍らにいた女騎士・サファイアの片腕をとったから。

 そして誰も口を挟めないまま、サファイアを強引に抱き寄せ、口づけたから。その頬に。



 当のサファイアも王子のこの行為は予測していなかったのか、よけることも振り払うことも出来ず、彼の手に抱かれるまま。

 サファイアの長い黒髪にそっと触れる、王子の指。

 しかも王子は何とも器用に、自分の腕から生えた水晶をサファイアの身体に触れさせないようにしている。それは――

 いつもガーネットをぎゅっと抱きしめてくれていたあの動きと、ほぼ同じ。



 心臓を内側から引っかかれるかのような痛みが、ガーネットの胸に走った。

 何も言えない。何も聞けない。

 ただ分かったのは、一生の愛を捧げようとしていた相手の、裏切り。



 一体何秒、そうしていただろうか。

 王子はふとサファイアの頬から顔を離すと、ガーネットを横目で睨んだ。

 その翠の瞳に、憐憫は欠片もない。


「……こういう、ことだから。

 ガーネット。もう、諦めろ」


 これ以上、何の反論も許さない。

 そう言わんばかりの、ディアマントの冷徹な瞳。

 とどめを刺すかのような彼の言葉が、さらにガーネットへ投げかけられた。



「あと……

 もう、僕のことを愛称で呼ぶのも許さない。

 もっとも今後、君が僕に会うこともないだろうけどね」




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