16 宝箱と恐怖
「なんでミミックなんですか!?」
一日の仕事を終えて城に帰還したところ、結局グリグリされた。
「なんでって、いろいろ考えてそれが最良かなって思ったから…」
「どうゆう思考回路してるんですか?しかも、どうやってミミックの状態でほとんどのパーティを半殺しにしたんですか?」
「いや変なことはしてないよ。ミミックらしくしてたよ。」
別にどうということはない。
そもそも僕は、冒険者たちと正面から戦う気などさらさらない。
僕の作戦はこうだった。
部屋に冒険者がたどり着く。
二つの宝箱を見つけ、どちらかを開ける。
当たりなら鉱石を持って帰る。
はずれならギリギリまで体力を削られ、ゲームオーバー。
「よーし、ここが最後の部屋みたいだぞ!」
「早く行こうぜ!」
「おう!」
「あれ? 何もいないぞ?」
「とにかく部屋をよく調べてみようぜ。」
「お! 宝箱があるぞ!」
悪くないシナリオだと今でも思う。
でも一つ誤算があった。
当たりを引いた冒険者のほぼ全員が、もう一つの箱も開けてしまったのだ。
当たりを引いて帰ったのは一組だけだった。
結果的に僕はその一組を除いた全員の体力を削って帰らせなければならなくなったのだ。
「だから、どうやってミミックが冒険者にそんなにダメージを与えるんですか? かすり傷がいいとこでしょ?」
「普通に攻撃したんだよ。ミミックとして。」
そんなの当り前じゃないか。
この子は何を言ってるんだろう。
「いや、普通にってなんですか? 魔法ですか?」
「魔法なんて使ってないよ。ミミックの攻撃方法知らない? 開けようとしたとこをガブッといくんだよ。」
「よし、開けてみよう!」
「おお、狙ってた鉱石がたくさん入ってる! 結構いい値段で売れるんじゃないか?」
「やったぜ!ボスモンスターの部屋かと思ったけど何もいなくてラッキーだったな! ダンジョン自体も危険にとこなんてほとんどなかったし、いい仕事だぜ!」
「それじゃあ、もう一つも開けてみようぜ。」
「おう! こっちには何が入ってるかなー。」
「うわー! ミミックだ!」
「おい! 早く離れ…うわー!」
「え…、マジですか?」
「なにが?」
ロセルナが顔をしかめて、というより、まるで理外の生き物の奇行を見るような目で僕を見ていた。
「…うわー、この人マジでミミックとして冒険者みんな倒したんだ。普通ありえないでしょ。引くわー。どんなミミックだよ。そんなミミックダメでしょ。トラウマになるわ…。」
なにやらブツブツ言っているがよく聞こえない。
「とにかく、今後こういう機会があっても絶対にミミックにはならないでください。いいですね?」
そう言うと彼女はどこかへ行ってしまった。
おかしいな。
ちゃんと仕事をしたはずなのに。
ダンジョン作りの延期は嫌だったけど、ダンジョンのボスモンスターもやってみると案外楽しかった。
外から見ているだけじゃわからない、いわば現場の空気というものも感じることが出来たし有意義な時間だったと思う。
たまにならこういうのもいいね。