14 女心と予定変更
城に戻った僕は、早速ボスの部屋に向かう。
「失礼します。クルメノスです。」
扉がゆっくりと開く。
「あ、お疲れさん。どう?いいダンジョン作れそう?」
ボスもワクワクしているようだ。
「はい、今日は中の確認のあと、下に階層を作りました。明日から内部の調整を始めます。」
「何階層?」
「5です。」
「おお、気合十分だね~!楽しみにしてるよ~。じゃあお疲れ様。もう下がっていいよ~。」
ほんとに楽しそうだ。
ボスも気に入るダンジョンを作ろう。
「では、失礼します。」
部屋を出ようとしたそのとき、ボスが思い出したように言った。
「あ、そうそうクル。君のかわいい部下が探してたから会いに行ってあげなよ~。」
え、嫌な予感。
でも怒られることはないはず。
何らかの業務連絡だろう。
そうに違いない。
「わかりました。ありがとうございます。」
ボスの部屋を出ると、僕はロセルナを探した。
いや、探そうとした。
探すまでもなかった。
部屋を出たその直後、目の前には白いはずの肌を真っ赤にしたロセルナがいた。
僕をまっすぐに見つめながら。
いや、睨みながら。
「なにか私に言うことがあるんじゃないですか?」
いかん、まったく思い当たらない。
髪かな、髪を切ったのかな?
女の子は見た目の変化に気づかれるとうれしいと聞く。
そうに違いない。
よし、言ってみよう。
「髪を…」
「切ってません。切ってたとして、クルメノスさんに気付いてもらっても全然うれしくありません。」
あれ、違ったみたいだし辛辣なこと言われた気がする。
じゃあなんだ?
服か、アクセサリーか、いや、棒だ。
棒を新調したんだろう。
「棒を…」
「変えてません。それに杖です。服でも靴でもアクセサリーでもありません。ていうか私の外見のことじゃないです!初心者ダンジョンのボスモンスターです!!」
あー、すっかり忘れてた。
完全に頭の中から消えてた。
こういう時に言い訳は逆効果だ。
素直に謝ろう。
「ごめんなさい。ダンジョン作りで頭がいっぱいで忘れてました。明日捕まえてきます。」
「素直に謝れば許されると思ってるんですか?それに明日捕まえるんじゃ遅いんです。ダンジョンの近くで野営してるパーティが何組もいるんです!」
全然許してもらえなかった。
どうしよう、打つ手がない。
「というわけで、明日一日ダンジョンの奥でボスモンスターやってくださいね。私は明日魔物狩りに行きますから。よろしくお願いします。おやすみなさい。」
「わかったよ。わかったからもうそんなに怒らないで。明日一日…、え? 僕がボスモンスター? ダメだよ、明日はダンジョンの内装作るんだから。」
この子は上司をオークやトロールと同列に考えてるのかな。
「僕が相手じゃ初心者は誰も勝てないし、みんなすぐ逃げちゃうよ?」
万が一負けたら恥ずかしいし。
「負けるわけないでしょ…。その辺の魔物にでも変身してうまくやってください。おやすみなさい。」
「いや、でも…。」
「おやすみなさい。」
「…おやすみなさい…。」
ロセルナは足早にどこかへ行ってしまった。
困ったな。
まあいいか。
初心者ダンジョンに入るのなんて久しぶりだし、なにか新しい発見があるかもしれない。
それにダンジョンは逃げない。
明後日から作り始めたって問題はない。
何に化けてダンジョンに潜ろうかな。