黒薔薇の騎士
この帝国は表面上は平和でも、内部は完全に腐りきっていた。これほど犯罪が広まっていたなんて……全てはヒッグスが? 昨日のカールと関係があると聞いたし、多分そうなのでしょうね。
そう考えていると、イクス様がアルベドに聞いた。
「アルベド、スターグローリー家はどうなっていた?』
「今朝、偵察に向かったところ跡形もなく。恐らく、火を放ったものかと」
それを聞いてわたしは眩暈を覚えた。……そこまでするの、ヒッグス。わたしの全てを奪っていく気なの。
「今日、様子を見に行こうと考えていたのですが、無駄のようですね」
「そうですね、金品を奪われた後でしょう。向かうだけ命を狙われて危険です」
「教えてくれてありがとう、アルベドさん。でも、どうして帝国は何もしないの……」
「ヒッグスは帝国住民ではない……余所者ですからね、簡単に捕まえられないでしょう」
なんと歯痒い。
やはり、わたしが動くしかなさそうね。苛立っていると、イクス様がわたしの肩に手を置いた。
「落ち着いて、ローズ。今は剣の腕を磨こう」
「……そうですね。力をつけていきたいです」
やれるべき事をやっていく。辛いけれど、それしかない。剣の裁きがいずれヒッグスを滅ぼし、わたしに安寧を齎すはず。
◆
黒薔薇のドレスを着込んで、わたしは一日、二日、三日――一週間、二週間、三週間と剣の鍛錬に励んでいった。その間にもヒッグスに関連する闇の組織が跋扈し、帝国の人々を苦しめた。
その度にわたしは仮面を被り、ハルバードを握り、敵を容赦なく駆逐した。そんな活動を続けていると、わたしの噂は広まり、とうとう『黒薔薇の騎士』などと呼ばれるようになっていた。
それは元々は名誉ある称号ではあった。それがそのまま、謎の仮面ヒーローの名になってしまった。
――名誉、か。
わたしには相応しくないかもしれない。でも人々が英雄を求めるのなら、わたしはヒッグスとその仲間を倒していく。自分の為、民の為に。そして、愛する人たちの為に。
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一ヶ月が経過し、わたしはすっかりフォートレス家の生活に馴染んでいた。リリーとは相変わらず険悪な仲ではあったけれど、前よりはマシになった。少しだけ話すようにはなっていた。この距離感でもいい。きっといつか分かり合えるはず……そう、願っている。
深い闇の夜。
梟の鳴き声が不気味に木霊し、冷気が背筋を凍らせる。……なんて不気味なの。
窓から離れ、ベッドで眠るイクス様の元へ向かおうとした――その時、庭に全身黒いローブに身を包む不審者が数十人現れ、フォートレス家の屋敷に火を放った。
……な、なんて事を。




