過去の記憶②
――違う。それは違う。
『ローズ、君さえいれば他はいらない』
騙されてはだめ。甘い言葉に惑わされてはいけない。あの言葉も仕草も全ては嘘。偽りなのよ。
『嬉しいです、ヒッグス。こんな病弱なわたしを気に留めていただけるなんて光栄です』
『あぁ、君のお母さんも大変だそうだね。俺は商人として顔が広いから、病気を治療できる秘薬とか探せるかもしれない』
……そんなの無かった。
全部、作り話。
あなたはわたしの両親を殺した。
『そうなのですね。さすが豪商と名高いだけあります』
そんなヤツに笑顔を向けてはだめよ、わたし。そいつが元凶なのよ。
『任せてくれ。その為にも婚約を考えて欲しい』
この時、わたしは選択を誤った。
『もちろんです』
――もう、戻れない。
かえってこない。
◆◆◆
目を開けると涙が溢れ出ていた。
心配そうに見つめるイクス様。
「大丈夫かい、ローズ。ハンカチを使ってくれ」
「……あ、ありがとうございます。ごめんなさい、お恥ずかしい所を見せてしまいました」
「随分と魘されていたようだね。なにか悪い夢でも見ていたのかい」
そうだ。あれは悪夢。忘れる事のできない過去の記憶。……消してしまいたい。でも、それは両親と過ごした日々さえも無かった事になってしまう。それだけは嫌だ。大切な日々まで奪われてなるものか。
「大丈夫です。今はまだ慣れないもので……」
「そうか。けど、いつでも悩みを打ち明けてくれ。僕は味方だからね」
「……はい、イクス様。ありがとうございます」




