安倍晴明ともろもろ
正体・・・?
「私が蠅術伝に書かれている術者だよ。」
「え・・・!?橋本さんがですか?」
「そうだよ。浩のおじいちゃんが書いた『蠅術伝』があっただろう?」
「はい、でも名前は書かれていなくて・・・。ただ、日本の女性でこの村に住んでいるということだけが書かれていて、誰なのか探しているところだったんです。」
「あーそういうことかい。それにしても何をもったいぶったんだろうねー」
まあ間に合ったからよかったよ、と橋本さん。
「あの・・・」
「どうした?」
「人間でいるための術って・・・」
「術かい。正子ちゃんがおったこのやっこさん、この子がハエの姿を封印してくれるよ」
「この折り紙がですか?」
「そうだよ。この子に陰陽師の術を仕込んでいるから1000年は持つはずだよ。」
「1000年・・・」
不安そうな正子。
1000年後の子孫はまた私と同じ悩みを抱えることになるのか。
「あのね、1000年術をかけ続けるっていうのは本当に高度な技なんだ。
かの有名な安倍晴明でも千年が限界だった。だから後のことはどうにでもなるよ。」
安心しな、と言ってくれる橋本さん。
「そうですよね」
「そうそう。誰か術をかけてくれる人が現れるだろうよ。私も生きているかもしれないしね」
「えっ!?生きているかもしれないって、橋本さんもう75歳ですよね?
千年後だったら1075歳ですよ?いくら健康だと言っても・・・」
正子の言葉を聞いてがはははと笑う橋本さん。
「1000年ぐらいどうってことないよ。1200年ぐらい前から生きてるんだから。」
「1200年前からですか・・・!?」
「そう。安倍晴明のことだってあの子が小さい時からよく知っているんだ。
晴ちゃん、なんて呼んでいたものさ。恥ずかしいからやめてくれとよく言われたものだけどねー。
あの子はすごい努力家なんだよ。
今では陰陽師=安倍晴明みたいになってるけど、実は52才の頃に、ようやく天文博士になったんだよ。
生まれ持った能力も素晴らしかったねー。あの子は大物になると思ったよ。」
「は、橋本さん、一体何者なんですか?」
「術者だよ、普通の術者」
術者ってだけで普通じゃないと思うんですけど。
疑わしそうに自分を見つめる正子に向かってにかっと笑う橋本さん。
「そんなに疑わないでおくれよ。本当なんだよ。それに術者は素性を明かさないものさ。その方がかっこいいからね。」
術者ってそんなものなのかしら。
大体は理解できた。謎のかっこいい理論は理解できなかったけど。
「さ、この子のお仲間を増やしてあげておくれ。」
「この子?」
「正子ちゃんが折ったやっこさんさ。」
「ああ。でも、なんで折るんですか?」
「一族に配るためだよ」
「私がですか?橋本さんが専門家だから、橋本さんがしたほうが・・・」
「私がしても良いんだけどね、正子ちゃんには潜在能力があるようだから、今から訓練しておかないとね」
潜在能力・・・?
「術者の能力さ。もしかすると清明を超えるぐらいの力を持っているかもしれないねー
将来が楽しみだよ。」
「将来って・・・私もう50過ぎてるんですけど・・・」
「50過ぎで何言ってるんだい。私からすればまだペーペーさ。」
そりゃあ1200年生きてる人からすれば若造だけど54歳ってもうあちこちガタがくる年だ。
定年までラブマート木下で働いて、そのあとは浩とゆっくり就活でもしながら暮らそうと思っていたのに、訓練って・・・
「さ、まずは仲間を増やしてあげるところからだ」
「はい・・」
戸惑いながらもやっこさんを折り始める正子。
1体1体折り終わると動きだっす折り紙たち。
親戚の分までおり終わるころには机の上はわちゃわちゃ大騒ぎになっていた。
「それじゃあ、」と立ち上がる橋本さん。
「そろそろ帰ろうかね。親戚には渡すだけで良いよ。後はこの子たちがしてくれるから」
「分かりました」
「なあに浮かない顔してるんだい。もしかして、修行のことかい?」
「はい・・・」
「するかしないかは正子ちゃん次第だよ」
そういうと橋本さんは家へと続く田んぼ道を歩いて行った
私は平安時代が好きなので、小説にしてみたかった。というTMIでした。
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