折り紙
緑茶とついでにお菓子も持ってきた正子。
最近体型を気にしているが、頭を使った後には糖分が必要だからと理由をつけて食べてしまうようだ。
なんだか机の上に置いていたやっこさんの位置がずれているような気がする。
窓を開けていたから風で動いたのか・・・?
なんだか胸がざわざわする。
もう1度よくやっこさんを見る。
1秒、2秒、3秒・・・
じっと見つめるが1ミリも動かない。
そうよね、動く訳がないわ。私ったら何考えているのよ。
暑さで頭がやられちゃったのかしら。
トコトコトコ
机の上を歩いて正子の方に向かってきた。
こんにちは、挨拶をするようにお辞儀をするやっこさん。
ぎゃーっと叫んだ正子にその行動が見えていなかったのは幸いだろう。歩いてきた時点で正子は顔を手で覆ってしまったためだ。
「来ないで、来ないで!」
傍から見ると人間が折り紙に話している(本当は必死に頼み込んでいるのだが)、奇妙な光景だ。
正子が言った後にぴたっと止まったやっこさん。
ただの折り紙が人間の言葉を理解したこともまた、正子を恐怖に陥れる。
ピンポーン
このタイミングで鳴る呼び鈴。
出ていかなきゃと思うけど腰が抜けてしまい立つことができない。
「正子ちゃーん?」
足音が聞こえる。誰だろう?
廊下からぴょこっと顔をのぞかせたのは、橋本さんだった。
「どうしたんだい、座り込んで」
「いや、どうもしていないです」
「泣きそうな顔でそんなこと言われてもねー」
そりゃそうだ。正子は腰を抜かしているのだ。大丈夫なわけがない。
心配するなというほうが難しいだろう。
でも座り込んでいる理由を話したって信じてもらえないだろう。
『折り紙が私の方に向かって歩いてきて人間の言葉を理解しているんです』
なんて言ったらふざけてるのかって思われる。
「何だいこれは?」
「え?]
橋本さんの方を見ると、橋本さんとやっこさんが見つめあっている。
「いや、これは・・・何でもないです」
苦し紛れの一言。
「やっこさんもう折ったのかい。こんなかわいい子ができたんだねー」
えっ?
「えっ、てこの子は正子ちゃんが作ったんだろう?ちゃんと挨拶までできて偉いねー」
戸惑っている正子は橋本さんの言葉が理解できない。
「あ、正子ちゃん、」
何かに気づいた橋本さん。
「もしかして、まだ私の正体に気づいていないのかい?」