浩と、クセ強め母
結局何の解決策も見つけられないまま、3日が過ぎた。
このままではハエになってしまう。どうすれば良いのか、正子には全く分からない。
正子には55歳の夫、浩がいる。
狭間江一族ではないものの、畑江一族のれっきとした純度100パーセントのハエだ。
正直に言うと、正子は浩のことを全くもって頼りにしていない。
最近はずっとテレビの前に居てとても鬱陶しい。
しかもだんだんと太ってきていることが鬱陶しさに拍車をかけている。
浩はハエになっても別に構わないらしい。どうにか生きていけるだろうと楽観している。
そんなこと痩せてから言って!太ってると飛べないかもしれないわよ!と、正子が半ば半ギレ状態で言うのが狭間江家の最近の日常になりつつある。
家に帰ると、お義母さんが来ていた。
正子はお義母さんのことがあまり好きではない。
新婚当初はお義母さん達と同居していたため、その時に苦手意識がついてしまったのだ。
「こんにちは」
正子が挨拶をするなり、
「あら、正子さん。ちょっとそこに座ってもらえるかしら。」とお義母さん。
えーと、ここ、私の家なんですけど。
なんなら私の名義なんですけど。
「正子さん、浩から聞きました。ハエになってしまうかもしれないって。」
「はい・・・」
「私ね、自分がハエになるのはもう仕方ないと諦めることができます。
だけどね浩がハエになるなんてもう、考えられなくて。」ぐすんと鼻をすするお義母さん。
「家にある、ご先祖様が残された本を調べたらね、」
もしや術のかけ方でも分かったのだろうか。
「畑江の方が早く術が解けるんですって。」
私に言われても困るんだけど。そんなこと知ったこっちゃないわよ。
「へーそうなんですか」
「へー、じゃないわよ。浩がハエになったらどうするのよ!」
だから今解決法を探しているんですけど?あかぎれで切れた人差し指をさすりながら正子は
心の中で反論した。
「とりあえず正子さんどうにかしてちょうだいよ」
無責任とも言えるような言葉を残し、息子可愛さのあまり暴走してしまいがちな
お義母さんは帰っていった。
どうするものか、正子は考える。
頼りにならないと分かっているが一応浩にも意見を求める。
「何か良い方法無いかな?」
「何かって言ってもなー。何にも思いつかないなー。」
はい、予想通りの反応。予想通り過ぎて、逆に安心感が生まれてくるようだ。
「俺が子供の時にじいちゃんが言ってたような気もするけど・・・」
「なにそれ、初めて聞いたわよ。思い出して!」
「40年ぐらい前のことだからな、じいちゃんが何か言ってた、って事しか覚えてないんだよな。」
お腹をぼりぼり掻きながら頭を捻っているが当てにすることはできないだろう。
54にもなるおばさんに期待させておいて。
浩の、ある意味期待を裏切らないがっかりする感じは出会った時から全く変わっていない。
何にも思い浮かばない。
お風呂に入ると脳が活性化されるってテレビで見たけど、何にも思いつかない。
本当かどうかは知らないけど。
何も思いつかないってことから考えると疑わしいようだ。
髪を洗おうとして湯船を出る。
洗いながらパッと鏡を見ると白髪が増えていて、年をとったことを実感する。
ハエにも白髪とかあるのかしら?
白髪というか、白羽…になるのかしら?
一生懸命陰陽師の末裔を探している割には、正子は能天気だ。
正子は若干の天然ボケが入っているのかもしれない。
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