開門
「開門を禁じるって、どういうことですか。岬の火の手、曹長も見たでしょう。准尉は、我々の為にやり遂げたんです。それなのに、砦を落とした英雄を見殺しにするつもりですか。皆、准尉の帰還を待っているんですよ」
守備兵が叫んだ。辺りの兵は遠巻きにそれを見ている。曹長は返す。
「上の判断だ。それに、見れば分かるだろう。准尉の攻撃隊は、追手を振り切れていない。このまま開門するのは危険すぎる。准尉の為に街を危険に晒す訳にはいかない」
「准尉だけじゃありません。他にも命懸けで砦を落としてきた仲間が大勢いるじゃないですか」
「持ち場に戻れ。街の防衛を第一に考えろ。お前は家族が蛮族の奴隷にされてもいいのか」
大男は兵を押し退け、叫ぶ。
「皆、騙されるな。上の連中は准尉の活躍に嫉妬している。准尉のことを、わざと死なせるつもりだ」
曹長は大男を睨み、返す。
「何だ、お前は。誰の許可があって発言している」
大男は曹長を投げ飛ばし、城門の閂に手をかける。幾人かの兵は武器を構えるが、残りの多くは大男を手助けし、共に閂を外す。城門が開き、准尉を先頭に騎兵の一団が城内に雪崩れ込む。歓声を上げる守備兵を、俄かに騎兵が斬りつける。喝采はどよめきに変わり、やがて奇声と怒号が飛び交う。大男はその光景を前によろめき、呆ける。
「一斑、門の上の城壁を押さえろ。二班は通用門を押さえろ。三班と四班は市街地で陽動、守備隊を足止めしろ」
馬上で叫ぶ准尉に、大男は這うように駆け寄り、「准尉、准尉」と叫ぶ。准尉は馬の脚を止める。
「これはどういうことですか。まさか准尉、裏切ったんですか」
「市民の為だ。抵抗が長引けば、掠奪も長引く。故に明日負けるよりも、今日負けた方が良い」
そう言い放つ准尉の向こう側の家屋から火の手が上がる。ハンの騎兵が次々に城門を潜り、市街を駆ける。
「何を言っているんですか。皆、奴らに犯されて、殺されて、焼かれるんですよ」
大男の言に、准尉は返す。
「無抵抗の民は殺すなと、ハンゾは命令を出している」
准尉の背後で家屋から逃げ出した男が斬られる。服の破れた女が兵に髪を掴まれ、引き摺られる。大男はそれを指差し、口を動かすが、言葉は出ない。騎兵が駆け寄り、言う。
「准尉、門の周りは殆ど片付きました。我らも市街地に向かいますか」
「いや、我々が市街に出ても混乱で同士討ちになる。街はハンの連中に任せろ。頃合いを見て三班と四班を引き戻せ。門の周囲の警戒を続けて、竜王ハンゾの入城に備えろ」
准尉の言に「はい」と答えた兵は傍らの大男に目を向け、言う。
「何だ。生きていたのか、腰抜け。知ってるか、俺達が今、何と呼ばれているか。『味方殺しの猟犬』だ。お前も仲間に戻りたかったら、その辺で何人か殺してこいよ」
大男は頭を抱え、蹲る。兵は笑い、俄かに叫ぶ。
「何とか言え。俺達がどういう気持ちで生き延びてきたか、お前に分かるのか。この、腰抜けの糞が」
「持ち場に戻れ」
准尉の言に、兵は馬上で浅く一礼し、去った。
皇帝陛下の御意向を蔑ろにする逆臣、大公とその一派は、畏れ多くも陛下より預かりし港湾城塞を不届きにもその巣窟とし、武力を楯に立て籠もり、森丘の国との平和的な対話を拒んできたが、この度、陛下の忠実なる臣下たる森丘の王ハンゾが、陛下の御威光の元、港湾城塞の平定に至った次第を、ここにご報告申し上げる。城外への奇襲を試みた逆賊の一団は、その帰還に際し通用門の施錠を怠ったため、我らはここを端緒とし、速やかに古王の大門を制圧した。その後、城内では散発的な抵抗が半日ほどあったものの、森丘の王ハンゾの入城と共に沈静化、状況は収束したことを、まずはご報告するものである。
その一方、大公を含めた逆臣の一部は、港湾城塞から逃亡したが、我らは徒に戦禍を広げぬよう追撃を控えた。しかし陛下がお望みとあらば、地の果てまでもこれを追い詰め、必ずや討ち取る所存である。
-- 港湾城塞制圧の報




