厄災
「全ては、大臣閣下の構想だ。王都には蛮族共の財宝が溢れていると流言を振り撒き、蛮族討伐の義勇兵を集める。そして先の戦いの進軍を敢えてなぞり、貧しく干乾びた街を行軍する。最後には金と食い物に飢えた義勇兵を、王都で好き放題に暴れさせる。これが、内なる厄災の輸出。筋書きはそうだった。だが流言に釣られた卑しき輩は、我先に財宝を手にしようと考え、勝手に行軍を始めた。そして干だるい進軍となる筈が、何故か小川の街だけは豊かであった。ならず者共は金銀に目が眩み、やはり勝手に掠奪を始めた。ここが王都だなどと言う、都合の良い、馬鹿げた噂すら流れた。わたしは大臣閣下に事態の収拾を任された。その為にはまず、軍の振る舞いを正当化する必要がある。これは身勝手な掠奪などではなく、順当なる懲罰なのだと、大義が成り立たねばならない。故に、領主を処刑することにした。蛮族に媚び諂った裏切り者として、だ。そして体勢を立て直し、再び王都へと行軍を始めれば、当初の目的は果たせる筈だった。それなのにまたしても、卑しき輩は餌に釣られ、滝川の街に向かうなどと。わたしは罠の可能性を考えていたのに。愚民共は、わたしの言うことを聞かなかった」
痣だらけの参謀は言った。参謀の折れた脚をクロードは蹴り、言う。
「何が愚民だ。馬鹿はお前だろうが。馬鹿で無能だから、この様なんだろうが。それともこう言いたいのか。これも計算通り。踏まれて、嬉しいとでも」
クロードが参謀の手の甲を踏み抜き、鈍い音が響く。参謀は呻き、やがてその声は力無き笑いへと変ずる。
「ああ、そうか、そうなのか」
参謀は少し間を置き、続ける。
「集った愚民共を前に、大臣はわたしに問うた。厄災の、厄災たる所以は何か。卑しき輩は、何故に帝国にとって害悪なのか。わたしは答えた。厄災は、己を厄災とは考えていない。寧ろ、謂われなく己は不幸なのだと、世を呪っている。己の無力と無能が故に不幸であり、己以上に他者を不幸にしているというのに、それを自覚する能力も欠いている。故に奴らは、死地に送る他ない。わたしの答えに大臣は満足気に頷いたと思っていたが、そうではなかった。大臣にとっては、わたしもまた厄災、処分すべき無能でしかなかった。わたしは、さぞ滑稽に見えていたことだろう」
ヤサンは言う。
「何を言おうが、同情の余地はない。これ以上有益な情報も出てはくるまい。最早、生かしておく理由などない。そうだろう」
兵に引き摺られ、参謀は小川の街の広場で群衆に晒される。ヤサンが罪状を読み上げ、クロードが首を刎ねた。
「これが勝利の結末だと言うのか」
嘗ての街並みと、粗末な幕舎の群れを眺め、イザリヤは呟いた。辺りには多くの人々が座り込み、項垂れ、或いは倒れている。ヴァルコは返す。
「これは、焼け出された住民だけじゃないですよね。と言うより、殆ど違うんじゃ」
「処刑された参謀の言った通りだ。排斥派の手勢は義勇兵などと言いながら、その実は貧しき民の群れだったのだ。街に残っていたのは、行軍に置いて行かれた怪我人、病人、老人に、女子供ばかり。そしてこの者らを養う筈の者を、我らは少なからず殺めた。翻って我らの手元には、取り戻した掠奪品が少しばかりあるのみ。肝心の糧食は、死者の腹の中にある。我らに、この者達は救えぬのだ」
イザリヤは項垂れ、顔に手を当てた。




