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偽書『愚帝と僭王、畜生と議長』  作者: 宿木マコト
帝国の内なる厄災
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偽計

「避難民の話していた通りです。街の外を埋め尽くす幕舎の数、あれだけ見ても敵兵は二万を下らない筈です。奴らは小川の街を拠点に、周囲の掠奪を繰り返しています」

斥候の報告に、イザリヤは返す。

「それで、クロードはどうした」

「分隊長は一人で街の様子を見に行くと言って、その、我々も止めたのですが」

イザリヤは机を叩き、暫し黙した後、兵に「下がれ」と言う。

「敵もやはり大軍か」

ヤサンが呟いた。ヴァルコは言う。

「それで、古都の時みたいに、民の大群をぶつけるつもりなのか」

「古都と同じという訳にはいかない。潜入と陽動。あの蜂起は一見すると力任せだが、周到に計画されたものだ」

戦術局の言に、ヴァルコは返す。

「何だよ。夏市の揉め事も、街の門が閉じられなかったのも、全部あんたらが仕組んでたって言うのか。口では民の怒りだとか何だって言いながら、あんたら、恐ろしいな」

広報局は静かに笑う。

「大義を信ずればこそ、勝つ為に最善を尽くすのは当然の事でしょう」

「潜入と陽動、か」

イザリヤはそう呟いて立ち上がると、傍らの兵に叫ぶ。

「わたしの鎧を持て」

「え、今から攻め込むんですか」

ヴァルコの言に、イザリヤは白銀の鎧を一瞥し、返す。

「そうではない。ヴァルコ、これを売って来い。小川の街で、金か食料に交換したい、と持ち掛けるのだ」

広報局は言う。

「なるほど、その鎧を戦利品に見立てるのですね。近隣の街が別動隊によって落ちたと噂になれば、掠奪に目の眩んだ奴らを誘い出せる、という訳ですか。それで、何処に誘い出すのです」

「滝川の街はどうか。小川の街からの道は、山越えの隘路だ」

イザリヤの言にヤサンが続ける。

「そこで奇襲を仕掛けるのだな」


 小川の街と滝川の街を結ぶ山道にて、革命隊と平定軍は、排斥派帝国軍に対し奇襲を仕掛けた。攻撃は銃声から始まった。第一射で隊列は立ち止まる。ある者は身構えて辺りを見回し、ある者は嘶く馬を宥める。第二射で兵が倒れると、進もうとする者と戻ろうとする者が犇めき合い、人と荷車は次々と谷へ落ちた。排斥派は暫し一方的に矢を射掛けられ、隊列が元来た道へと流れ始めた頃には、半数近くが落ちていた。退路は煙で塞がれ、押し寄せた兵達はまた多くが谷底へと落ちた。


「ご無事ですか、参謀殿」

血塗れの兵が言った。辺りの谷底には矢が降り注ぎ、躯と呻く兵が累々と横たわる。参謀は立ち上がろうとするが膝から崩れ、呻く。

「足を捻った。動ける兵を、集めろ。沢に沿って、撤退する。急げ」

参謀と兵が視線を向けた小川の先から、悲鳴が上がる。男が一人、横たわる躰に次々と槍を突き立てていた。起き上がり、逃げ惑う者を投槍が貫く。男は剣を拾い、兵の喉元を突く。

「皆殺しだ、屑共」

その男、クロードは叫んだ。その手に握られた剣から血が滴る。参謀の傍らの兵が身構えた刹那、その躰をクロードの剣が貫く。クロードは手首を返すと剣を手放し、短刀を奪い取ると、躯を蹴り倒す。続けて瞬く間に、その取り巻く兵を殺す。参謀を地面に叩きつけると、その四肢を踏み抜く。参謀は悲鳴を上げる。クロードは言う。

「屑の中の屑。楽に死ねると思うな」


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