交錯
「嘘じゃない。俺はただ、拾っただけなのに」
そう叫んだ男の顔をクロードが殴る。
「お前が盗みを働いたことは、もう調べがついている。しらを切っても、罪が重くなるだけだ」
クロードの言に男は嗚咽し、返す。
「王都から蛮族を追い出したら、奴らの宝は山分けだって、陛下が約束したんじゃないか。どうして俺だけ、こんな目に」
再び男の悲鳴が響く。クロードは言う。
「お前、今、何と言った」
イザリヤはクロードの肩に手を置き、前に出ると、身を屈め、言う。
「詳しく話せ。王都の何処で手に入れた。お前の他にも、人がいたのだな」
「一番大きな館。皆、凄い勢いで物を取っていくから、俺だって、家族の分を、何とかして持って帰らなきゃって」
イザリヤは立ち上がり、傍らの兵に言う。
「牢に戻して少し休ませろ」
兵に引かれ、男は去った。
「王都で掠奪があったってことですか。それも何者かが皇帝陛下の命だと偽って民を唆したと。これは復権派が仕掛けてきたってことですか」
ヴァルコの言にイザリヤは返す。
「あの男の言をその通りに受け取ればそうなる。しかしだとすれば、小川の街のご領主は、竜王ハンゾから賜った銃を早々に手放し、なおかつその銃は、掠奪が起こる前には王都まで流れ着いたということになる。あり得ないとは言えぬが」
その言を遮り、クロードが叫ぶ。
「何を寝惚けたことを言っている。小川の街にある筈の品を、賊が持っていたんだぞ。小川の街で何かあったに決まっている」
ヴァルコは言う。
「でもあの男は、王都で手に入れたと。嘘をついている様子にも見えませんでしたぜ」
「あんな雑魚が行軍の行き先など知るものか。そんな奴が王都だと言って、何の当てになる。皇帝の命と言うのもそうだ。奴らからすれば、貴族など皆同じ。何の区別もついていない」
クロードの言にイザリヤは返す。
「確かに小川の街にある筈の品が奪われておる以上、小川の街で掠奪があったと考えるのは自然だ。復権派が森丘の国の外から兵力を呼び込む動きもあった。その勢力が皇帝陛下の名を騙り、民を唆し、兵を起こしたのだとすれば、話は繋がる。しかしそれでは、竜王ハンゾを打倒せんとする軍勢が、竜王ハンゾの所領の外で掠奪を働いたことになる。それもまた、おかしな話ではないか」
「ここで話しても、埒が明かん」
そう言って背を向けたクロードを、イザリヤは「待て」と呼び止める。少し黙して、続ける。
「どの道、斥候は出さねばならぬ。そなたが自ら行きたいと言うなら、止めはせぬ。だが、一人で先走ることは認めぬ。兵を連れていけ。敵を見つけても争いは避け、直ぐに戻れ。良いな」
クロードはその言には答えず、足早に立ち去る。
「行かせちまって、良かったんですか。確か軍団長の兄様は、王都で守備長をしているって話でしたよね。王都にも別の誰かを送るんですよね」
ヴァルコの言に、イザリヤは己の胸に手を当て、返す。
「仲の良い兄妹ではなかった。だが今こうして離れて兄の事を考えると、何だろうな。わたしは、兄の身を案じているのか。身内を立て続けに失ったからか。わたし自身が殺めたと言うのに、己の身勝手に驚く」
「うちの兄弟も、喧嘩ばかりでしたよ。何分、北の地ですからね。生まれた時から、何時も何かしら取り合ってました。そういうときにはこいつ死んじまえば良いって思ってましたし、実際、その通り口に出したこともありますがね。今はあいつらなりに元気でやってくれてたら良いなって、時々思いますよ。馬鹿みたいですけどね。貴族の家の事情までは分かりませんが、結局同じ様な話じゃないですかね」
ヴァルコの言に、イザリヤは呟く。
「そうか。そうだな」
イザリヤは暫し黙し、やがて顔を上げ、続ける。
「だが王都を案ずるのは我らの役目ではない。もし王都で何かあって、そこにわたしが必要であると言うなら、竜王ハンゾか兄上から知らせがある筈だ。それより小川の街、或いはこの辺りの何処かで、復権派に関わる動きがあった可能性の方が高い。仮にそうなら、我らはその動きを封じねばならぬ。そのつもりで支度せよ」




