銃
「留守中に揉めてないだろうな」
イザリヤの言にクロードは返す。
「馬鹿を言うな。毎日揉め事ばかりだ。だが、ヴァルコが上手く良くやっている。あいつは育ちの悪い連中の扱いに慣れている。俺だけなら、何人か首を刎ねていたところだ」
「そうか。市街も幾分落ち着いた様に見えたが、これもヴァルコの働きあってのこと、という訳か」
「ああ。一時はかなり大人しくなった。しかしまた最近になって外からおかしな連中が流れ着くようになっている。がらくたを持ち込んでは、値付けで揉めて騒ぎを起こす。どこから流れてくるのか、全くどうしようもない奴らだ。おい、ヴァルコ。何を遊んでいる」
クロードが目を向けた先で、ヴァルコは何かを弄ぶ。
「いや、遊んでる訳じゃありませんよ。こいつは押収品です」
クロードは「またか」と呟き、イザリヤは言う。
「銃とは、穏やかではないな」
ヴァルコは言う。
「穏やかでないとは、こいつは武器か何かってことですか」
「一応は武器ということになるのだろうが、武器としては糞の役にも立たん。問題は、これを持っているのは、金持ちに限られるということだ。恐らくは有力な商人か貴族からの盗品、ということになるか」
クロードの言に、イザリヤが続ける。
「貴族の館に行けば、これ見よがしに飾ってある。高価で物珍しい故、自慢好きな男共には打って付けなのだ」
「全く、悪趣味な玩具だ。昔、御館様の所に胡散臭い商人が来て、とんでもない値でこいつを売りつけようとした。無論、追い返してやったがな」
「悪趣味なのは、余計な装飾の所為であろう。銃そのものは、それほど役立たずの品ではなかろう」
イザリヤの言に、ヴァルコは言う。
「で、どうやって使うんです」
クロードとイザリヤは顔を見合わせる。イザリヤは言う。
「これも良い機会だろう」
イザリヤは両手で銃を構え、引き金を引く。火花が飛び、少し遅れて銃声が鳴り響き、壺は砕け散る。遠くの兵は身を屈め、ヴァルコは後ろによろめいて転び、傍らの馬は嘶く。
「どうだ。これで役立たずということはあるまい」
イザリヤの言に、クロードは返す。
「俺にも撃たせてくれ」
クロードは火薬と弾を籠め、発条を巻く。イザリヤのときより的から離れ、片手で銃を突き出し、引き金を引く。銃声に馬は再び嘶くが、弾は的には当たらず、後ろの土手に砂埃を立てる。
「分隊長、ちゃんと狙ってくださいよ。軍団長の方がお上手でしたぜ」
ヴァルコの言に、イザリヤが続ける。
「離れ過ぎだ。銃は少し離れただけで弾が逸れる。そういう武器だ。だが当たれば只では済まぬ」
クロードは言う。
「当たればな。真面な弓兵なら、この距離で狙いを外す奴はいない。それに厄介なのが弾込めだ。もたついている間に、十本は矢を撃たれるだろう。訓練すれば少しは早くなるかもしれんが、どう足掻いても弩より早くはならん。弩も酷い武器だが、これはそれより酷い。誰が使っても同じ、糞の様な武器だ」
「誰が使っても同じ。良いことではないか。世の中には、膂力や体躯を頼みに悪事を働く連中も多いが、この武器は非力な者が使っても威力は同じ。即ち、人の生まれに対して平等な武器と言えよう」
「こんなものを使えるのは結局金持ちだけだ。それでどこが平等なんだ」
「今の銃が高いのは、物珍しさと貴族向けの飾りの所為だ。物の値打ちは変わる。余計な装飾を省き、これを扱える職人が増えれば、いずれはより多くを安く作れるようになる」
「本当にこんな糞がそこら中に溢れたら、悪夢だな」
ヴァルコが宥める。
「まあまあ、お二人とも。世の中も武器も色々ってことで、まあいいじゃないですか。そう言えば似たような押収品は幾つかあったんですがね、こいつも同じ、銃ってやつですよね」
ヴァルコから銃を受け取ったイザリヤは暫しそれを見つめ、言う。
「まさかとは思ったのだが、この銃の装飾には、はっきり覚えがある。これは、竜王ハンゾが小川の街のご領主に寄贈したものだ」




