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偽書『愚帝と僭王、畜生と議長』  作者: 宿木マコト
帝国の内なる厄災
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革命隊

「こいつも繋いでおけ」

クロードが放り投げた男は血と泥に塗れ、その顔は腫れ上がっていた。兵は返す。

「罪状は何です」

「他と同じだ。貴族を匿っているなどと難癖を付けて人の家に押し入り、金品を奪い、女を犯した」

背を向けたクロードに、兵は浅く一礼する。広場の中央には伯爵の首が掲げられ、左右には晒し台が並ぶ。兵は罪人を引きずり、枷に嵌める。

「分隊長、城に戻ってください。また門の前に人集りが出来ちまって」

駆け付けたヴァルコの言にクロードは溜息をつき、城門へと向かう。


「この城には富が蓄えられている。貴族の豚共が我らから奪ったものだ。今こそ、その富を我らの手に取り戻す時だ。だが、まずは冷静に考えて欲しい。この城の富は、早い者勝ちで奪い合って良いのだろうか。力比べで仲間を蹴落とし、手に入れて良いのだろうか。断じて違う。それでは貴族の豚や、蛮族の猿と同じだ。我ら善良なる人民は、勝利を等しく分かち合う。奪われた富が一人一人の手に等しく戻るまでが、我らの戦いだ。その為に今一度、皆の力を借りたい。まずはこの城に、集落の代表を集めて欲しい。より良い未来を築く為、話し合いを行おう。そしてその場が整うまで、城の警備は我ら革命隊の精鋭に任せてもらいたい。皆、どうだろうか」

群衆が押し寄せた城門前の広場は、束の間どよめき、やがて喝采に包まれる。ヴァルコは言う。

「誰ですかね。まあ、これで皆が納得してくれたんなら、助かりましたがね」

人群れが散り始めると、弁舌を振るった男はクロードに歩み寄り、言う。

「伯爵を討ったのは君だろう。我ら革命隊も、城の中に入れて貰えるだろうか。そうしないと、話の理屈が合わない。民衆も不審に思うだろう。わたしはヤサン。革命隊の取りまとめをしている者だ」


「我らの前で蛮族の犬を公言するとは、いい度胸だ」

「つまりはこの女も貴族。人民の敵ではないか」

イザリヤから経緯を聞き、革命隊の民兵らが叫んだ。ヤサンが立ち上がり、言う。

「皆、少し待ってくれ。こいつは敵だと言って片付けてしまうのは、簡単だ。だがその前に、我らと通ずる所にも目を向けるべきだ。わたし個人としては、彼女の話には幾つか興味深い所があった。まず、彼女は貴族ではあるが、女に生まれたと言うだけで不当に蔑まれてきた。女達は、貴族の男達の都合で政略の道具として使われ、そして捨てられる。我らも同じだ。平民に生まれたと言うだけで貴族に虐げられ、良いように使い捨てにされている。だから我らは立ち上がった。貴族の横暴をこれ以上許さない為に。そうだろう」

「そうだ」と声が上がる。ヤサンは続ける。

「そして貴族と同じく、この地を踏み荒らす蛮族もまた我らの敵だ。蛮族を打倒するわたしの決意は確たるものだが、だからと言って奴らを侮ることは出来ない。仮にも帝国の大軍を打ち破った連中だ。蛮族との戦いには万全を期して臨まなければならない。それに比べて、帝国貴族はどうだろうか。奴らは負け犬だ。特に復権派などと言っている連中、あれは負け犬の中の負け犬だ。そう、だからわたしは、一つだけ蛮族共を評価している。蛮族は、帝国貴族の欺瞞を暴いた。帝国の貴族には民を守る力はなく、ただ民から富を奪い、浪費した。つまり、わたしの意見はこうだ。蛮族と復権派、二つ並んでいたら、わたしは先に復権派を叩く。何故なら復権派の方が弱く、そして罪深いからだ。先に復権派を倒し、盤石の体制を築き、蛮族と戦う。これがもし、逆の順なら、どうなるだろうか。蛮族と我らの争いは長引き、その間に負け犬の復権派は盛り返し、我らを背中から突き刺す。これでは駄目だ。革命隊に敗北は赦されない。我らの戦いには、人民の未来が掛かっている」

民兵らはどよめく。幾人かが何度も頷き、次第に拍手が沸き起こる。ヤサンは手をかざし、続ける。

「しかし、だからと言って、手放しで彼女を我らの仲間と呼ぶことも出来ない。表向きが蛮族の配下となっていることは、この際だ、目を瞑ろう。だが、貴族と人民、本心ではどちらの味方なのか、そこが重要だ。この本質を譲ることは出来ない。これが貴族同士の内輪揉めではなく、人民の為に伯爵を打倒したのだと言うのならば、それを行動で示して欲しい。まずはこの城の富を、人民に返す。単純明快だ。まさか出来ぬと言うことはあるまい」

「出来るならそうする。だがこの城の貯えが、見込んでいた程には無いのだ」

イザリヤの言に、革命隊の男達は口々に叫ぶ。

「ふざけるな」

「そうやって独り占めにする気か」

イザリヤは叫ぶ。

「嘘だと思うなら、己で確かめてみよ。帳簿もある」

ヤサンは一人の民兵を向き、言う。

「会計局、頼めるか」

会計局は「はい」と浅く一礼する。


「帳簿とは合っています。今はここにある分で全部。疑うなら切がないですが、昨日の今日でこんな手の込んだ帳簿を作ったとも考えにくい。一先ずは信じてもいいかもしれません。恐らく伯爵は、急な戦支度で職人や商人達に足元を見られたのでしょう。武具や兵糧を調達しようと前金を払ったは良いが、ここにはまだ届いていない、そんな案件ばかりです」

会計局の言に、ヤサンは呟く。

「なるほど。ここには無い、か。我らも再びの決断が必要な様だ」

ヤサンは暫し黙した後、手を広げ、言う。

「先ほどの彼女の話にはもう一つ、大きく共感できる点があった。それはより良い未来の為、身内に対しても毅然と立ち向かう、その姿勢だ。我らもかくありたい。戦術局、君の意見を聞きたい」

「全く同感です、同志ヤサン」

戦術局がそう答え、片手を挙げると、幾人かの民兵が立ち上がり、一人の男を取り押さえる。

「何をする。どういうつもりだ」

男の叫びを背に、ヤサンは静かに言う。

「牢獄をお借りできるだろうか」

身構えたイザリヤは、傍らの兵に小さく頷く。イザリヤの兵と民兵は男を連れて牢へと向かう。

「あれは、犬だ」

そう言ってヤサンは暫しゆっくりと歩き回り、続ける。

「僭王ハンゾの侵攻により、革命隊は大工の街からの撤退を余儀なくされた。石工の街は、そんな我らを同じ職人の街の誼で受け入れてくれた。その点については、深く感謝している。だが、石工の街は腐っていた。職工には組合費と称する重税が課される。彼らの血と汗から生まれた金を、堕落した偉大なる工匠が吸い上げているのだ。奴は邪な商人共と結託して利益を独占し、その金で肉を喰らい、酒を飲み、女を買う。自治の街が、聞いて呆れる。貴族の支配と何も変わらない。伯爵の読みは、部分的には正しかった。偉大なる工匠は民の為に戦うのではない。己の利益の為のみに戦う。だから本気で伯爵を打倒するつもりなど無かった。革命隊を助ける振りをしながら、我らに見張りの犬を付け、力の加減を御すつもりでいた。だがそれは、とんでもない勘違いだ。革命隊は政局の駒とはなり得ない。何故なら、人民の怒りに蓋など出来ないからだ。そして革命隊とは人民であり、人民とは革命隊である。即ち、革命隊の怒りは、人民の怒りだ。だからこそ、我らの声には、辺境の農夫だけではなく、古都に住まう者までが応じた呼応したのだ。そしてそれ故に、伯爵打倒の茶番は、茶番では済まされなかったのだ」

ヤサンはイザリヤの前で立ち止まり、続ける。

「さて、諸君らは今、困っている。この城には十分な蓄えがなく、伯爵打倒の見返りを求める人民に報いることが出来ない。それは何故か。伯爵が人民から搾り取った金を使ってしまったからだ。偉大なる工匠と、邪なる商人共に、愚かしくも前金を払ってしまった。連中は伯爵が死んだと聞いて喜ぶだろう。前金を受け取り、品を渡す前にその相手が死んだのだから。めでたく、ぼろ儲けだ。だが、そんなことを赦して良いのか。その金は元々、誰の金なのだ」

ヤサンは暫し黙し、続ける。

「どうだろうか。これほどの利害の一致は最早、宿命と呼ぶべきかもしれない。わたしは血と汗を流した者が、正しく報われる世にしたい。この戦いに、平定軍の諸君も加わって欲しい。わたしは革命隊と平定軍の共闘を提案する」

イザリヤは暫し俯いてから顔を上げ、返す。

「確かに復権派を打倒せねばならぬと言う点において、我らは共通している。しかし石工の街の偉大なる工匠と商人達の扱いについては、慎重に考えたい。彼らは腐敗していると言うが、それが真かどうか、我ら自身の目で確かめる必要がある。それにまだ彼らが納品を反故にすると決まった訳ではない。それを確かめぬうちから武力を行使したのでは、筋が通らぬ」

ヤサンは返す。

「なるほど、その言い分は尤もだ。では、どうだろう。まずは石工の街を訪れ、偉大なる工匠と会ってみてはどうか」


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