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偽書『愚帝と僭王、畜生と議長』  作者: 宿木マコト
帝国の内なる厄災
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致命

「街に入れないんじゃ、しょうがねえ。平定軍のお偉方は放っておいて、俺達だけ帰ってもいいんだが、まだ給料を貰ってねえからなあ」

ヴァルコは大声で叫ぶ。砦の街の守備兵はヴァルコに目を向けるが、何もしない。ヴァルコと傭兵達は城門の傍らに天幕を立て、酒を飲み、肉を焼く。一筋の煙が立ち上った。


 クロードはイザリヤと守役の間に立つ。兵達は身構えたまま動かず、クロードと守役を見守る。守役は言う。

「クロード様、これは貴方の郷里にとっても重大な局面でございます。考えてもみて下さいませ。ハンゾが運河の国を狙っておるのは周知の事実でございますが、その行き着く先にあるのは、難攻不落の港湾城塞でございます。片や、西へ進軍するハンゾの背後にある王都は、先の戦いで城壁を崩されており、これを取るのは容易い。つまり、ハンゾは港湾城塞を攻めた所で、王都から我らの攻めを受ければ忽ち挟み撃ちとなるのです。そしてハンゾが倒れた後は、どうなるか。小川の街はハンゾの施しを受け、またその求めに応じ、兵を出したのです。このままでは小川の街の者達は、ハンゾに与した裏切り者となることでしょう」

クロードは言う。

「耄碌したのか、じじい。言った筈だ。仲間に何かあれば殺す、と。どちらが勝つかなど、俺にはどうでも良い。お前はそのどうでも良いことの為に、俺の仲間を殺した」

「城門の一件は誠に残念でなりませぬ。兵の一時の躊躇いが、不幸な結末を招いてしまいました。クロード様、貴方には城門の外でお待ち戴く手筈だったのです。貴方はどういう訳か、生まれにそぐわず、大局が見えておられる。しかしそれでいて、結局は目先の小事を選んでしまわれる。やはり貴方は、この場に居合わせるべきではなかった。全く、不幸な事でございます」

黒く鈍く光る鎧を全身に纏う守役は、兜の面を下ろし、長剣を突き出すように構える。粗末な厚布の鎧のクロードはフランツの剣を抜き、剣身に左手を置いて守役に近づく。クロードが間合いに踏み込むと、守役は突きと斬りつけを流れるように繰り出す。クロードはそれをかわした後、剣を横に構えて斬撃を受け止めると、左腕を守役の長剣に巻き付け、脇に抱え込む。更にその鍔を掴み、守役から剣を奪うと同時に、右手の剣を突く。剣先は守役の首筋を捉えるが、鎧の上を滑り、刺さらない。その刹那、守役は己の剣の柄頭を引き抜く。細く鋭い針のような短剣が現れ、守役はクロードの左手を突く。クロードは跳ねるように後退する。その左手は奇妙に震え、奪った剣は滑り落ちた。クロードは刺された傷口を噛み、血を吐き捨てる。守役は短剣を構え、クロードに詰め寄る。クロードはよろめき、剣を振り下ろす。守役がそれを篭手で受け止めると、クロードは守役の頭を殴る。守役がよろめくと、クロードは布切れを守役の顔に押し当て、面の隙間にねじ込む。更に守役の膝を踏み抜くように蹴ると、その膝は逆に曲がり、守役の苦悶の声が響いた。クロードは床に倒れた守役から短剣を奪い、鎧の隙間を幾度も突く。守役は暫く藻掻き、やがて動かなくなる。見守る兵達は静まり返っていた。

「もう良い」

イザリヤの言にクロードは手を止め、よろめきながら立ち上がる。

「何をしている。さっさとその男を殺せ」

城主が叫んだ。平定軍の兵は円陣を組みイザリヤとクロードを護り、砦の兵はそれにゆっくりと迫る。クロードは肩で息をしながら、言う。

「毒針を喰らった。悪いが、皆殺しは無理だ」

「イザリヤ様、お逃げください」

平定軍の兵は叫び、道を塞ぐ守備兵と斬り合う。イザリヤは剣を抜き、クロードと共に館を抜ける。出口の守備兵をクロードが手斧で殺す。もう一人、守備兵が物陰から飛び出す。イザリヤが咄嗟に剣を突き出すと、それは兵の喉元に刺さった。イザリヤは剣を引き抜くと、血の付いた剣先を見つめ、暫し呆ける。平定軍の兵が「イザリヤ様」と叫ぶ。クロードは、よろめきながらイザリヤの手を引く。路地を抜け、階段を駆け、城壁へと登る。城壁の上を暫し走ると、幾人もの守備兵が大盾を構え、立ち塞がった。後ろからも兵が駆け付け、槍を構える。平定軍の兵は僅かとなっていた。クロードはイザリヤを抱え、城壁を飛び降りる。その躰は天幕を破り、秣の山に埋もれた。ヴァルコが駆け付け、叫ぶ。

「一体、何があったんです」

イザリヤは目を拭い、震えた声で返す。

「説明は後だ。撤退する」

後を追って城壁から飛び降りる守備兵を、傭兵の矢が射貫く。

「退路の確保、上出来だ、ヴァルコ」

クロードはそう言うと胸を押さえ、嘔吐し、咳き込む。イザリヤと傭兵はクロードを荷台に担ぎ込み、それを曳く馬は走り出す。傭兵達は天幕と秣に火を放つ。そして荷車の後を追い、時折振り返って矢を放った。

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