回顧
わたしは奴隷であった。或る日、彼らは突然現れ、街を焼き、子らの命を奪い、わたしを鎖に繋いだ。
始めのうちは土を掘ったり、重い石やら屎尿やらを運んだり、僅かな水と食料で毎日そんなことばかりさせられていた。しかし商人の荷運びをした時に、読み書きや算術ができると知れ、その商人はわたしに、帝国との取引に使う文書を作らせるようになった。それからハンの文字や言葉を解するにつれ、次第に取引の取りまとめや帳簿の管理まで任されるようになった。
そして或る夏の日、商人に連れられ赴いた先に、ハンゾがいた。ハンゾは既に竜王を名乗り、大人びてはいたが、顔には何処となく幼さも残り、まだ少女と形容した方が妥当なようにすら思えた。
或る時、わたしはハンゾに尋ねた。『なぜ戦をするのか』と。するとハンゾは『こいつらを喰わせてやらねばならぬからな』と答え、竜の顔を撫でた。『ならば竜を減らせば戦も減るのではないか。戦いの為に竜を増やし過ぎたのではないか』わたしが問うと、ハンゾは可憐に笑い、こう言った。『椿と虫の寓話を知っておるか。椿の実の皮が厚いのは、口の長い虫に種を喰い破られぬ為だという。翻ってその虫の口が長いのは、椿の実の皮が厚いからだという。この話がもし真ならば、明日から椿に皮を薄くしてくれなどと頼むことが出来ようか。皆、立ち止まることなどできぬのだ』
-- 或る学師の手記




