訃報
「皇帝陛下が崩御されました。ここしばらくは容体が落ち着いておられたのですが、先日、急に高熱を出されるとそのまま熱が下がらず、翌朝にご逝去されたのでございます」
伝令の言葉に、皆しばし沈黙する。アルバリウスが口を開く。
「父上が、亡くなられたというのか」
アルバリウスは沈黙の後、言う。
「少しの間、一人にしてくれぬか」
皆、幕舎を出る。伝令は将軍に言う。
「ここへ来る途中、国境の街は敗兵で溢れておりました。左軍が大敗を喫したというのです」
「大敗だと。間違いないのか」
「はい。左軍の兵を連れてきております」
「まず我らとハンの騎兵同士が衝突し、野戦となりました。流民を擦り付けるハンのやり口に我らは皆、憤っておりましたから、軍の士気は高く、始めは勢いに乗って敵を押しておりました。そして奴らは総崩れとなり、退却を始めたのです。我らは好機とばかりに追撃しました。すると暫くして、矢の雨が降ってきました。奴らはいつの間にか隊列を組み直し、馬上から後ろ向きに矢を放ちながら後退を繰り返したのです。味方の半分は怯み、残り半分は怒りを増して敵に突進しました。そしてあと少しで敵の後尾に手が届くかという所で、敵の隊列は左右に分かれ、正面から竜が現れました。そこからは酷いものでした。我らの伸び切った隊列は、端から順に奴らの餌食となったのです。軍団長は討ち死にし、副長は敵の足止めをすると言い、一刻も早く、このことを殿下にお伝えするよう、わたしに命じられました」
「つまり左軍の敗兵はハンの奴らを引き連れたまま、国境の街まで逃げたということか」
将軍の言に、兵は答える。
「恐れながら、そのようになるかと」
「分かった。下がってよい」
兵が去り、将軍は頭を抱える。
「この山裾の街より更に奥、奴らは国境の街を押さえに来たというのか。そこまで奥深く攻め入って来るとは、正気の用兵とは思えぬ。しかも片手間のように左軍を潰しおって。これでは殿下が帝都にお戻りになることも、ままならぬではないか」
将軍の呟きにクロードは返す。
「本当に国境の街を押さえられているのなら、全軍で攻めるしかないんじゃないのか」
「その通りだ。そうなれば敵地の直中で袋の鼠となるのは奴らの方だからな。故にまともに考えるならば、こんなに奥深くまでは攻め入らぬものだ。だがハンゾ、あやつはまともではない。常道に背きながら成算を以って道を選ぶ、そんな輩だ。これだからいけ好かぬのだ。戦狂いめ」
間をおいて将軍は続ける。
「クロード、お前に兵を預ける。奴らの野営を襲撃してこい」
友は返す。
「え、奴らの野営の場所、分かるんですか」
将軍は静かに笑い、地面に剣で地図を描く。
「奴らの動きもある程度までは読める。よいか。奴らが手強いのは、いつでも逃げられるからだ。街を押さえたなどと言っても、そこに全てを運び込んではいざという時に身軽ではなくなる。故に奴らは街の外に野営を構える。街から近すぎず、遠すぎぬ所。近くに水場があり、牛馬に草を喰わせられる所。そして我らには見つけ難く、左軍を追いながらでも設営できる所。とすれば、この辺りか、或いはこの辺り。二つに一つとも限らぬが、この糞のような戦の中では分の悪くない賭けになるであろう」
「それで、どちらを狙う」
クロードの言に将軍は剣先で場所を指し示し、言う。
「最後は勘だがな。こっちだ」
友は呟く。
「遠い方じゃないすか」
クロードは頷く。
「承知した。それで、将軍はどうする」
「本隊を率いて国境の街へ向かう。恐らく途中で野戦になるであろう。奴らも備えているであろうが、我らも退けぬ。全力で奴らを叩く」




