議長
革命の英雄、議長ヤサン。二百回目となる本紙の発行を記念し、今回は特別に偉大なる同志ヤサンが自ら、その多忙を極める激務の合間を縫って本紙の取材に答えてくれた。
記者
早速ですが、議長は『勇猛なる竜殺し』としても有名です。あらためて当時のお話をお聞かせいただけますでしょうか。
議長
みんな、その話を聞きたがるね。でも少し恥ずかしい。たまたま止めを刺したのが私というだけだからね。さて何処から話そうか。そうだな、その頃『竜墓の街』は『大工の街』と呼ばれていたんだ。その名の通り、腕のいい大工が沢山住んでいて、橋も家も、本当によくできていた。ただ美しいだけではなく、建物は丈夫な造りで外敵を防ぐ工夫も凝らされていたんだ。そして街には『自警団』があった。だから野盗も蛮族も大工の街には手出しができなかった。
記者
自警団は革命隊の前身となった組織ですね。
議長
そう。その頃から自警団の仲間たちは皆、助け合いの精神と、自分たちが住む世界をより良くしようという気概に満ち溢れていた。しかし忘れもしない、そんな仲間たちの命を数多く奪ったのが、問題の竜だ。
記者
森丘の戦いですね。多くの街が一瞬にして僭王ハンゾによって壊滅させられたと伝えられています。
議長
無理もない。当時の騎兵は今よりずっと強力だった。銃がなかったからね。それでも自警団は奴らの侵攻を食い止めていた。信じられるかな。大きな斧やら金槌やら、そんなものであいつらと戦っていたんだよ。
記者
とても信じられません。しかしそんな自警団の奮闘にハンゾは痺れを切らして竜を送り込んだのですね。
議長
ああ。騎兵は何とか防いでいたが、街に竜が来てしまった。それも何匹も。しかし自警団の勇士は諦めない。わざと街の中に竜を招き入れて、路地に誘い込み、前後から挟み撃ちにしたんだ。そして私は建物の二階から飛び掛かって、大きな金槌を叩きつけてやった。凄い音がしたし、手ごたえもあったんだが、それでも竜は死ななかった。地面に落ちて、竜と取っ組み合いになってしまったよ。とにかく必死で、落ちていた仲間の短剣で目を突いたら竜は怯んだ。その隙に皆で竜を袋叩きにして、最後にわたしが金槌で頭を叩き潰したら、流石に動かなくなった。その時になってようやく、手の指を竜に喰われていたことに気づいたんだ。しかし指だけで済んだわたしは運がいい方だ。多くの仲間が爪と牙で体を引き裂かれて死んでしまった。
記者
犠牲になった自警団の英雄たちのことを思うと胸が痛みます。しかし尊い犠牲のもとで街を守った議長たちを尻目に、愚帝アルバリウスは早々に敗北を認めてしまいます。その知らせをお聞きになって、どのようなお気持ちだったのでしょうか。
記者の質問に議長は目頭を押さえ、深い溜息をついた。
議長
あの時の気持ちは言葉にできない。怒っていたし、悔しかったが、やはりそれだけでは言い表せない。仲間たちのおかげで守り切ったのに、負けていないのに、愚帝が負けにしてしまったんだ。悩みもした。これで平和が訪れるというなら受け入れるべきなのかと。だが結局のところ悩む必要もなかった。何故なら平和は訪れなかったからだ。愚帝は貴族と商人の利益だけが守られるよう、ハンゾと薄汚い取引をした。民はいわば、その取引の代金、犠牲にされたんだ。そのことに気付いたわたしは絶望で目の前が真っ暗になった。だが我が物顔で街を歩く蛮族が、か弱い人々をいたぶって嘲笑う姿を見て、再起を誓った。必ず蛮族の奴らを追い出し、貴族と商人にはその報いを受けさせる。そうだ。より良い世界の為に戦うと決めたんだ。
この後の英雄ヤサンの躍進は皆に知られている通りである。議長の軽妙でありながら力強い語り口がとても印象的であった。取材の最中、西日が目に当たり、わたしは目を細めてしまった。すると議長はわたしを気遣い、何と自ら机と椅子を並び替え始めたのである。やはりヤサンは、労働を人民に押し付けるだけの貴族や商人とは根本的に違うのだ。生ける伝説と話した興奮、その人となりに触れた感動から、わたしの手は今も震えたままだ。
-- 共和国機関紙『革命』第200号『竜殺しの英雄ヤサンが語る』




