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偽書『愚帝と僭王、畜生と議長』  作者: 宿木マコト
大敗のアルバリウス
23/74

武人

「こういう値が張るだけの貴族の玩具、俺は好きじゃないけどな」

クロードは片手で弩を構えて引金を引く。太矢が的に刺さる。友は弩の弦を引きながら言う。

「何でだよ。機械仕掛けの弓、かっこいいじゃねえか」

「考えてみろ。こんな、もたもた準備している間に普通の弓なら何本飛ばせると思う。三本か、手練れなら五本くらいは撃てる。こっちの方が狙いやすいっていう奴もいるが、俺からすればさして変わらん。確かに撃つときは片手でも撃てるが、戦場に出たらそれがどうしたって話だ」

クロードは弩を傍らに置く。兵が告げる。

「殿下、森丘の兵達を連れて参りました。」

アルバリウスが頷くと、森丘の兵達は弩を手に取り、的を狙う。左手で引き金を引く者もいれば、薬指を使う者をもいる。アルバリウスはクロードに目をやり、言う。

「そなたの言う通りだ。だが弩の最大の利点は、手練れでなくとも使えることだ。特に此度は森丘の兵が奴らに指を切られておる。しかしこれならば残った指だけで扱うことができる。いざとなれば流民がこれを持つこともできる。彼らが戦力となるなら、荷物を押し付けたつもりでいるハンゾの目算も狂うであろう」

「その理屈は分かる。だが分かっているのか。王や貴族の中には俺とは違う理由でこの武器を嫌う奴らがいる。誰でも扱える武器は平民の反乱を招く、とな」

「反乱が起こるのは民が不満を抱えているからであろう。だからこれはハンを退けた後も我や王達が良き君主であらねばならぬという戒めだと考えている」

「そう単純ではないと思うが」

アルバリウスが頷くと兵は号令し、森丘の兵は射撃を止める。一人の兵が頭を下げ、言う。

「殿下、此度は我らの為にこのような武器を用意してくださり、誠に有難うございます。我ら兵の多くは直接にハンと戦う機会を与えられる前に敗れ、捕らえられ、奴らに指を切られたのです。躰に刻まれたこの屈辱、決して忘れませぬ。命に代えても、奴らは一匹たりとも生かして返しませぬ」

「そなたらは帝国の剣であると同時に、帝国の血肉である。帝国の為、再び武器を手に取って戦ってくれること、有り難く思う」

アルバリウスの言に兵達は一斉に頭を下げる。


 森丘の兵が去り、商人が声をかける。

「如何でしたかな。貴族の方々にお納めする物に比べますと、武骨で地味でございましょうが、造りはしっかりした物かと存じます」

「ああ、ちゃんと狙えるし、悪くないと思うぞ」

友の言にクロードは続ける。

「あまり弩は使わんからよく分からんが、こんなものじゃないか。少なくとも二、三発撃って壊れるような造りではなさそうだ」

アルバリウスは弩を両手で構えて引金を引く。太矢が的に刺さる。弦を引き、言う。

「これで活路が見いだせるとよいが」

「ところで商人、この前、珍しい羽根を拾ったのだが、値は付くか」

クロードが羽根を差し出す。商人は声を上げる。

「何と。それを一体どこで拾ったのですか」

「この間の夜戦だ。そんなに珍しいのか。なら高く買ってくれるのだろうな」

「申し訳ございませんが、値は付けられませぬ。これは孔雀という鳥の羽根で、孔雀の羽根飾りはハンゾの徴でございます。ハンでこんな物を身に付けて歩いていたら、首が飛びましょう。故に今となっては誰も欲しがりませぬ。しかしこれを拾ったということは、会ったのですな、ハンゾに」

「ハンゾと戦ったというのか」

アルバリウスが大声を出した。友が宥める。

「殿下、落ち着いてください。太矢を乗せたまま振り回したら危ないですって」

「ああ、すまぬ」

アルバリウスは太矢を地面に向けて放つ。

「それで、どのような奴だったのだ。ハンゾは」

「どうもこうも、暗かったからな。竜に乗った誰かと戦ったというだけだ。何度か仕留めたと思ったのだが、その度にかわされて、逆にこっちが死にそうになる。結局斬り落としたのはこの羽根だけということだな。厄介な奴だった」

友は笑う。

「よく言うよ。きっと向こうも同じこと思ってるぞ」

クロードは静かに笑う。

「お前もいたんだから、同じだろう」

商人は何度も頷き、言う。

「竜に乗っていたのであれば、尚更ハンゾで間違いありますまい。竜王の血を継がぬ者が竜に乗ることは禁じられておりますからな」

「竜は何匹かいたぞ。あんな奇策の為に竜王の血縁がわざわざ何人も出てくるのか」

「どうでございましょう。ハンゾにはシウという年の離れた妹がおると聞きますが、そちらの武名は聞いたことがございませぬ。まだ戦場に立つには幼いのではないかと存じます。まあ、あれは大きな猟犬のようなものだとも聞いたことがございます。人が乗っていなくても主の言うことくらいは聞くのでございましょう」

アルバリウスは言う。

「そなたらの話からすると、ハンゾは武人としても相当、腕が立つのだな」

クロードは言う。

「武人を求めぬ弩で、武人の乗る竜に挑む、か。どちらが勝つのだろうな」

アルバリウスは笑う。

「我らにも武人はおる。当てにしておるぞ」

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