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偽書『愚帝と僭王、畜生と議長』  作者: 宿木マコト
大敗のアルバリウス
22/74

目標

「流石に石造りの城壁を元通りとはいかぬか」

眼前では他の兵達に交じり、クロードらが土木を運ぶ。アルバリウスの言に将軍は返す。

「そうですな。本来であれば山から石を切り出して元通りにしたいところではありますが、またいつ何時、ハンの奴らが仕掛けてくるかも分かりませぬ。当面は土塁と木柵で凌ぐことになります」

「奴らはまた来るのだろうか。これほど掠奪したのであれば、最早、王都を攻める意味などないのではないか」

「確かにそうですな。しかしこの間の夜戦は、去り際の挨拶としては手が込み過ぎておりました。それに流民を相手に押し付ける奴らの悪辣な手口も、早々に戦が決するならば無意味かと」

「商人、そなたの考えを聞きたい。ハンの奴らは何故に争いを望むのだ」

商人は薄く笑みを浮かべ、答える。

「望んで争っておるのかは分かり兼ねますが、思い当たる理由が三つほどございます。まず一つには配分票でございましょうか。あれには相場がございます。元が分け前の約束の証でございますから当然とも言えましょうが、配分票を作った竜王が戦に勝ち、多くの戦利品をもたらせば値打ちが上がり、負ければ値打ちが下がる、そういうものなのでございます。しかもそれだけに留まらず、戦のない世が続くだけでも少しずつ、値打ちは下がって参ります。その一方で今や配分票はハンの経済を回す血液のようなものとなっております。それ故に配分票の値打ちが下がればその分だけ市場は活気を失い、街の民は貧しくなり、国は衰えましょう。ハンの者どもは配分票を作った時から外征を続けざるを得ない、そのような定めかと存じます」

アルバリウスは何度か頷く。

「配分票と言うのは興味深いやり口だとは思っていたが、良いことばかりではないのだな。しかしその理由だけであるならば、奴らは掠奪が済んだらさっさと帰ればよいことになる。二つ目の理由は何なのだ」

「二つ目は牛や馬の相場でございます。昔から、牛馬の値打ちが下がるとハンは戦を始めると言われております。これは先程の話とも関わるのでございますが、街の民が貧しくなれば、牛馬を買い求める者は減り、値打ちは下がるものでございます。しかし元来の遊牧の民は牛馬を売って稼ぐより他ございませぬから、これは由々しき事態となりましょう。こうなると遊牧の民は結託し、掠奪に赴くのでございます。まず、戦が起これば牛馬の値打ちが上がりましょう。加えて戦に勝って力を示せば、その後の街の民との取引の条件も有利になるという、何とも抜け目のない算段なのでございます。これは街の民と遊牧の民との間で度々繰り返されてきた歴史と言えましょう」

アルバリウスはしばし俯いてから顔を上げ、言う。

「力を示すために掠奪が済んだ後も敵を叩くというのか。何とも忌まわしい。しかしその理由であれば王都の破壊も先日の夜戦も筋は通るし、和睦の余地もあるように思う。では最後の理由は何だ」

「三つ目は単純でございます。人と竜が増え過ぎたのでございましょう。人も竜も牛馬を喰らいますが、特に竜は大飯喰らいで、竜一匹賄うには小国一つ、という言葉もある程でございます。これは幾分、誇張が過ぎるかもしれませぬが、何れにいたしましても、人と竜の糧たる牛馬を育てるには広く豊かな草地が欠かせませぬ故、ハンの者どもは常に土地を欲しておるのでございます」

商人の言にアルバリウスは返す。

「その理由が真であれば奴らは勝手に帰ってはくれぬし、和睦を持ちかけても一筋縄ではいくまい。では奴らは次にどう出るのだ」

商人は薄く笑みを浮かべてから頭を下げる。

「それは将軍閣下の領分でございましょう」

将軍は小さく咳払いする。

「牛馬に落ち着いて草を食わせてやりたいのであれば、土地を奪うだけではなく、その後にも縄張りに手出しがされぬようにしたい筈です。とすれば帝国は存在自体が奴らにとって目障りでしょうからな。しばらく立ち直れぬよう、軍勢に壊滅的な損害を与えるか、或いは帝国そのものを滅ぼすか。いずれであっても目下の標的は我ら、帝国の兵力そのものです。とすれば次に狙うべくは王都と帝都を結ぶ、街道ですかな。そこを押さえれば、我らの兵糧と退路を一気に断つことになります」

「防げるか」

「はい。その為には本陣を山裾の街まで後退させる必要があります」

「後退だと。王都を見捨てるというのか」

「見捨てる訳ではありませぬ。王都の守備に必要な人員は最低限に留め、本隊は後ろに構えるのです。王都へ運ぶ兵糧が少なくなれば守りやすくなります」

「それでも王都を手薄にするというのは気にかかる。また奴らに街を奪われるくらいならば、この間の城攻めなど、しない方が良かったことになるであろう」

「易々と王都を奪われるような真似は致しませぬ。見張りと斥候を増やし、奴らの動きがあればすぐに本隊を差し向けましょう」

将軍の返答にアルバリウスは頷く。

「分かった。ならば将軍に任せよう。商人、例の物の手配は進んでいるか」

「はい。まだ数は揃っておりませぬが、既に幾つかは王都に届いております」


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