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貸出マン

≪貸出マン≫


≪自分の魔力を一時的に他人に貸し与える事が出来る。取得の為に必要なお助けポイント:100000ポイント≫



 ウォリーはすぐにスキルを取得した。

 ダーシャに魔力を与えられれば、魔力切れから助け出すことが出来る。

 ダーシャに触れスキルを発動させると、ダーシャの身体が光り輝き始めた。


「これは……!?」


 ダーシャが驚いて自分の身体を見つめる。

 先程まであった疲労感が徐々に消えて行き、手足が動くようになっていく。

 彼女は自らの足で立ち上がった。

 その姿を見て、側にいたウォリーは安心して表情を緩ませる。


「ウォリー、君がやったのか……?」


 ダーシャは目を丸くしてウォリーを見つめた。


「早く逃げるわよ!」


 ハナが叫んだ。

 彼女には何が起こったのかわからなかったが、とにかくダーシャは回復した。ならば急いでこの場を離れる事が最優先だと判断した。

 敵を足止めするのももう限界に近い。


「いや、戦おう」


 ダーシャがクラーケンドラゴンと向き合って言った。


「何言ってるの!? また魔力切れを起こすわよ!」

「いや、もう少しで奴を倒せるんだ。次で決める」


 ダーシャは追い込まれたせいですてばちになっているのだとハナは思った。しかし、ダーシャは確信していた。今ならクラーケンドラゴンに勝てると。


「どうやったかは知らないがウォリーが私に魔力を与えてくれた。普段の私ではあり得ない量の魔力を感じる……すさまじい魔力量だ。力がみなぎっている。今なら、最高出力で戦える」


 ダーシャは落ち着いた目で仲間達を見つめる。

 ハナはそれ以上何も言わなかった。ウォリーとリリも、ダーシャに頷き返す。

 ダーシャの姿を見て、彼女が決して強がりを言っているのではないと伝わった。


「もう一度戦おう。次が最後のチャンスだ」


 ウォリー達は再び戦闘態勢に入った。

 戦法は変わらない。ウォリーとリリとハナで触手を引きつけ、ダーシャが角を狙う。

 ダーシャは大きく深呼吸すると、黒炎を発動させた。

 彼女の背中に炎の翼が出現し、高く飛び上がる。だが、その姿は以前の彼女とは大きく違っていた。

 翼の大きさが倍以上大きくなっている。

 ウォリーの膨大な魔力を受けたダーシャは、底知れぬ力を出せるようになっていた。

 強力な魔力に反応しているのか、彼女の角と目が光を放っている。

 ダーシャはさらに黒炎を操り剣を作り出す。

 それは5メートル近い長さの巨大な剣だった。


「魔王……?」


 ウォリーは思わずそう呟いてしまった。

 いつだったか、彼が歴史に関する本を読んだ時の事。

 そこに1枚の挿絵が載せられていた。

 かつて人間と魔国が争っていた時、戦場に現れた魔王の姿を再現した絵だった。

 その絵と、今のダーシャの姿が似ているように感じられた。


 クラーケンドラゴンが触手を一斉にダーシャに向けて伸ばした。

 ダーシャは素早く剣を一振りする。

 その一振りで、全ての触手を切断してしまった。


「はあああああああ!!!!」


 雄叫びと共にダーシャはガラ空きになった頭部へ突っ込んでいく。

 巨大な黒炎の剣を天高く掲げると、相手の角めがけて思い切り振り下ろした。







――2時間後



 ギルドには冒険者達が集まっていた。

 彼らは何かギルドに用事があって来ているのではない。

 ただ、ウォリー達の帰還を待っていた。

 皆、ウォリー達とは面識のない冒険者ばかりであったが、それでも試験の結果がどうなるのかいち早く知りたがっていた。

 もしウォリー達が試験を達成する事が出来れば、このギルドに新たなAランクパーティーが誕生する事になる。

 Aランクに上がる冒険者はそう多くはない。皆、その瞬間を見届けようとギルドに集まっていた。

 ウォリー達の帰りを待つ人集りの中に、ミリアの姿があった。

 彼女は周りに居る冒険者とは違い、Aランクパーティの誕生など期待してはいない。

 そして彼女は確信していた。ウォリー達は試験に失敗すると。


(ウォリーは最後まで気付かなかった。私がハナという駒を潜り込ませているという事に)


 ミリアは心の中で呟き、笑みを浮かべる。


(ウォリー、こうなったのはお前のお人好しな性格のせいだ。自分の追放に賛成していた相手なのにも関わらず、ハナをパーティに迎え入れてしまった。人助けをしたせいでパーティから追放されたお前は、人助けをしたせいで試験に失敗するんだ)


 ミリアが1人ニタニタと笑っていると、ギルドの外が騒がしくなった。


「帰ってきたぞ! ウォリー達だ!」


 そんな声が聞こえてくる。


(ほう……命は失わずに済んだか)


 そう思いながらミリアはギルドの入り口を見つめた。

 今、彼女が思い描いているのは、クラーケンドラゴンに敗北しボロボロになって戻ってくるウォリーの姿。

 その想像が現実になるだろうと信じて、ギルドに彼らがやってくるのを待った。

 入り口の扉が開かれ、4人の男女が入ってくる。

 ウォリーのパーティ、ポセイドンだ。

 しかしその姿は、ミリアが想像していたものとはまるで違っていた。

 ウォリー達は台車をギルドの中に運び込む。

 台車の上に乗っているものを見て、ギルドに集まっていた冒険者達は歓声をあげた。

 ただ1人、ミリアだけが言葉を失っていた。


 台車の上には、クラーケンドラゴンの首が乗せられている。

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