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呪詛

「まずは女だ! あの魔法使いさえ倒せばこちらの勝ちだ!」


 緑目の男が仲間に指示を出す。

 言われた仲間は軽く頷くと、再び黒い刃を飛ばした。

 刃は一斉にハナに向かって飛んでいく。

 ハナはまた光弾を放ち刃を撃ち落とすが、刃の数は先程よりも増量されていた。しかも今度は全ての刃がハナだけを狙って襲って来ている。


「きゃああ!」


 刃を全て防ぎきれなかった彼女は、身体の数ヶ所に傷を負ってしまった。


「ハナ!」


 すかさずウォリーが彼女を回復する。

 ウォリーは剣を構えてハナの前に立った。


「あいつらはハナを狙ってる。僕が前に行く。ハナは後ろから援護をお願い」

「いえ、もう大丈夫だわ」


 ハナはそう返し、腕に魔力を込め始めた。


「ホーリーライト!」


 ハナが頭上に向かって魔法を放った。

 人の頭ほどの大きさの光の球体が空中に浮かび、留まった。

 その球体が放つ光は周囲を明るく照らし、ウォリー達の視界をはっきりとさせる。


「黒い刃は暗闇だから見えにくいけど、こうすればどうという事はないわ」


 ハナはウォリーの横に立った。


「あの男は魔法使いのようね。でも魔法勝負じゃ私は負けないわ」

「ちぃ!」


 刃を放って来た男は再び魔法を発動させる。

 今までは小さな刃を大量に飛ばして来ていたが、今度は1枚だけ、ただし大きさは3メートル近い大きな刃を飛ばして来た。


「馬鹿ね」


 ハナの前に巨大な光の球が出現する。

 それはみるみる膨らんでいき、ハナの身長を超えるほど大きくなった。

 巨大な光弾は迫る刃に向かって飛んでいく。

 大きな音を立てて光弾と刃が衝突した。

 黒い刃は光に飲み込まれるかのように消滅してしまう。しかし、光弾は勢いを弱める事なくそのまま先へ進んで行った。


「ぐあああああ!!」


 刃を放ってきていた男に光弾が直撃し、男は悲鳴をあげながら遠くへ吹っ飛ばされる。


「その黒い刃は闇属性魔法で作ったもの。闇の弱点は光。私の魔法で簡単に打ち消せるわ」


 光弾を受けた男は倒れたまま起き上がる様子はない。完全に仕留めたようだ。


「なんだあの女!? あの威力……並みの魔法使いじゃない!」


 緑目の男が狼狽し始める。


「あと1人!」


 ハナはすぐに新たな魔法攻撃を男に撃とうとした。

 しかし、一瞬ハナはそれを躊躇ってしまった。

 それはギルドでこの依頼を受ける時に浮かんだ心配事が原因だった。

 この男を倒せば恐らく依頼は達成されるだろう。それはウォリー達をAランクに近づける事を意味する。

 このまま仕留めていいものか。そんな思いがハナの動きを鈍らせた。

 それは一瞬の隙だったが、男に反撃のチャンスを与えてしまった。


「ぐっ!」


 突然、緑目の男は剣で自分の手のひらを切りつけた。

 男の手から血が滴り始める。

 奇妙な行動にハナとウォリーは不気味さを覚えて顔を引きつらせた。


「ト・ウジデーレ・デベリ・ブレス・ドート!ミオ・ザンゲ・バガーレ!」


 男が血塗れの手をかざして叫んだ。


 直後、力が抜けたようにハナが膝を折り、その場に崩れ落ちた。


「ハナ!」


 ウォリーがハナを抱きかかえる。


「あ……がっ……はっ……」


 ハナは自分の胸を搔きむしりながら苦しんでいる。

 ウォリーはすぐに回復マンを使った。しかし、効果がない。

 ならばと解毒マンを続けて使うが、それでもハナは苦しみ続けていた。


「ウォ……リ……くるし……は……ぁ……」


 ハナは苦悶の表情を浮かべながら口をパクパクと動かしている。


「終わりだ!」


 緑目の男がウォリーに斬りかかってきた。

 ウォリーはそれを剣で受け止める。

 鍔迫り合いの状況で男は不気味にウォリーに笑いかけた。


「危なかったが、何とか魔法使いを仕留めたぞ。あいつさえ消えれば、あとはこっちのものだ」


 ギリギリと男は剣に力を込めてウォリーを押し込んでいく。


「お前はヒーラーだろ? 一瞬で女の傷を癒してしまう程の回復力、見事だ。だがヒーラーは近接戦闘が苦手という弱点を持つ。その女が倒れた今、お前に勝ち目は無い!」


 男がさらにぐっと力を込めた。

 しかし、ウォリーはそれを超える腕力で男を跳ね飛ばした。


「はぁ!?」


 男がよろめきながら目を丸くする。

 ウォリーは素早く男との距離を詰め、男の手を蹴りつけた。

 ウォリーのその足は、丁度男が自ら切りつけた手の部分に命中する。

 痛みで男の手から剣が滑り落ちた。

 地面に落ちた剣をウォリーは踏みつけ、拾えないようにする。

 そして、男の首に刃を突きつけた。


「お前……ヒーラーのくせに何だそのパワーは……」


 男は困惑しながらウォリーを見つめた。


「ハナに何をした!? すぐに彼女を治せ!」


 ウォリーが刃を男の首に押し付け、睨む。


「ふふふ、もうすぐあいつは死ぬ。10分だ。10分であの女の命は終わる」


 ウォリーの反撃に初めは狼狽えていた男だったが、だんだんと落ち着きを取り戻し不気味に笑い始めた。


「彼女に何をしたんだ!」

「あれは呪いだよ。毒が肉体を破壊するものなら、呪いは魂を破壊するもの。今も呪いは女の生命力を吸い取り大きくなっている」

「早く治せ! 首を切り落とすぞ!」


 ウォリーは剣に怒りを込めて男を怒鳴りつける。しかし、男の笑みは消える事がなかった。


「たしかに、俺なら呪いを解く事が出来る。簡単さ、解呪の呪文を唱えるだけでいい。いいのか? 俺の首を落とせばその呪文を知る事は出来なくなる。あの女の命が消えるまでもう時間は無いぞ? はははは」


 ハナを人質に取っている限り殺される事は無いと思ったのか、男は刃を首に当てられても余裕の表情でいる。

 だが男は知らない。ウォリーには窮地の時に助けを与えてくれるスキルがある事を。

 そのスキルは、ウォリーの頭の中で声を発した。



≪お助けスキル『解呪マン』の取得が可能になりました≫



 その声が聞こえるやいなや、迷わずウォリーは返答した。


「スキル取得だ!」


 しかし、直後にスキルから冷たい声が返ってくる。



≪ポイントが不足しています。取得出来ません≫

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