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怪盗キング

「君達はギルドを追放だ」


 数人のギルド職員がウォリー達に冷たい視線を向ける。

 3人は俯きながら必死で考える。

 一体自分達に何が起こったのか。

 一昨日の記憶を何度も何度も頭の中で再生する。

 そう、今の惨状はあの日受けた依頼がきっかけだった。




2日前――




「怪盗キング……ですか」

「ええ、予告状によれば今日現れるとか」


 屋敷の使用人はそう答えた。

 廊下には赤い絨毯が敷かれ、壁側には高価そうな絵画や彫刻が飾られている。とんでもない豪邸だ。

 ウォリー達3人はこの屋敷の主人から依頼を受け、やってきた。

 使用人に案内されながら煌びやかで長い廊下を歩いていく。


「ひゃあ!」


 突然、リリの足元を1匹のネズミが走り抜けたので、彼女は驚いて飛び上がる。


「ああ」


 使用人は足を止めてそう呟いた。


「この屋敷には大きな食糧庫がありましてね。結構前からネズミが住み着いていて困ってるんですよ」


 淡々とそう語ると、使用人はまたすぐに歩き始めた。

 派手な装飾がされた扉を開け室内へ案内されると、髭を蓄えた男が出迎えてきた。


「ようこそ来てくれた。私がこの屋敷の主人、ディーノだ」


 彼は名乗るとウォリーと握手を交わした。

 ディーノの服装は見るからに上質なもので、一目で金持ちだとわかる。

 事前に知らされた情報では彼はこの街のカジノのオーナー。彼の経営するカジノにはVIPルームがあり、そこには国の権力者も足を運んでいるという噂だ。

 つまり財力だけでなく、政府の大物ともコネクションを持つ人物。ウォリー達は屋敷に入る前から緊張が止まらなかった。


「既に聞いていると思うが、こんな手紙が届いてな」


 ディーノが差し出した封筒には、大きく「予告状」と書かれていた。

 ウォリーはそれを手に取り、中身を確認する。


「予告状。3日後の夜8時に地下金庫にあるお宝を頂戴する。怪盗キングより」


 ウォリーが読み上げると、ダーシャとリリは顔を歪ませた。まるで子供の悪戯だ。


「ただの悪戯だと思うだろう?」


 ディーノは3人の表情を読み取ったのか、そう言った。


「この手紙はどこに届けられていたと思う? 地下金庫のある部屋だ」


 ディーノの言葉に、再びウォリー達は緊張に包まれた。


「これを書いたやつは地下金庫までわざわざ侵入し、手紙だけ置いて何も盗らずに去っていった。只者じゃない」


 しばらく沈黙が続いた。


「わかりました。ディーノさんのお宝、僕達で全力でお守りします」


 ウォリー達が受けた依頼はこの屋敷の警備。予告の時間に金庫を守り、盗難を阻止して欲しいとの事だ。

 今や彼らの緊張はディーノに対するものから怪盗キングなる人物に対するものへ変わっていた。わざわざ予告をするという危険な行動に出ているあたり、相当腕に自信が有ると思われる。


「付いてきてくれ、地下金庫まで案内しよう」


 ディーノの案内で、ウォリー達は再び豪華な廊下を進んで行った。

 その時、若い小太りの男性に遭遇した。ディーノと同じく、高価そうな服を身に付けている。


「おっ、この人が例の冒険者か〜」


 小太りの男はそう言ってウォリー達に視線を送った。


「ああ、ポセイドンというパーティの方々だ。挨拶しなさい」


 ディーノが言うと、男はフフンと鼻を鳴らしてウォリー達の方へ身体を向けた。


「へへ、どーも。俺はディーノの息子でペリーってんだ。よろしく」


 ペリーと名乗った男はニヤニヤと笑みを浮かべている。それを少し不快に思いながらも、ウォリー達は挨拶を返した。


「では、行こうか」


 ディーノに連れられてウォリー達はその場を後にした。


 地下への階段を降りると頑丈な鉄の扉があり、鍵を開けてそれを開くと真っ白に塗られた部屋の中央に金庫が置かれていた。


「予告では今夜8時。君達はこの部屋で金庫を守っていて貰いたい」


 そう言いながらディーノのは金庫を操作して扉を開けた。


「せっかくだ。この中に何が入っているのか見せてあげよう」


 開かれた金庫の中には黄金で作られた装飾品や宝石など見るからに高価そうなものも有れば、古びた石のようなものや分厚い本なども有った。


「私がオークションなどで手に入れた財宝の数々だよ。これを盗まれたら、相当な損失になる」


 ディーノは金庫の中から5枚並べられたコインを取り出した。


「このコインなんかは古代に使われていたものでね、ここまで綺麗に形が残っているものは珍しいんだ。これ1枚を売るだけで家を買える程の金になるだろうね」


 ウォリー達の目にはただのボロボロのコインにしか見えなかったが、ディーノの言葉に顔を引きつらせた。


「これを見せたのは自慢するためじゃあ無い。君達の役割がどれだけ重要なのかという事をわかってもらい、責任重大な仕事だという自覚を持って貰いたかったからだ」


 そう言ってディーノは金庫を閉じた。


「よろしく頼むよ」


 ウォリー達は身体に緊張を走らせながら深く頷いた。







 ディーノが去った後、ウォリー達3人は金庫を囲うように立っていた。

 予告の時間まであと2時間有るが、油断はできない。


「しかし一体何のためにわざわざ予告状など出すのだ」


 ダーシャが腕を組みながら疑問を口にした。


「まぁ、普通そんな事する必要は無いよね。相手を警戒させたら不利になるのは泥棒の方だ」

「あの、もしかして嘘の時間を予告したっていう可能性は無いのでしょうか?」

「確かに。今日の夜8時と思わせそっちに注意を向けさせて、実は別の時間に盗るという目的かもしれんな」


 ダーシャは納得したように頷く。


「いや、ここに予告状を置いたと言うなら、1回はすでに金庫の前まで侵入しているんだよ。だったらどうしてその時に盗らなかったのか……」


 ウォリーが言うと、ダーシャは再び首を傾げてうーんと唸った。


 その時、部屋の鍵が開き扉が開かれた。

 ウォリー達の前に姿を現したのは、先程廊下で会ったディーノの息子、ペリーだった。

 彼の手にはトレーがあり、ティーカップに入れられた紅茶が3つ乗せられている。


「やあやあ諸君。頑張っているかね」


 ペリーはそう言いながら床にトレーを置いた。


「父ちゃんに頼まれちゃってさあ、長時間の警備は喉が乾くだろうから飲み物を持っていけって」

「これはどうも……」


 ウォリーが軽く頭を下げた。

 ペリーは鼻歌を鳴らしながら室内をうろうろと歩き始めた。そしてダーシャの前で止まると、彼女の頭から足元までゆっくり視線を流した。


「ふん、魔人族か。実に不気味な見た目だ」


 ペリーの言葉にウォリーとリリは顔をしかめるが、ダーシャは慣れてるだけあって平気な顔をしている。


「ふーん。でも結構胸は大きいじゃん」


 そう言ってペリーがダーシャの胸を触りだしたので、慌てて彼女はその手をはたき落した。


「なっ!? 貴様! 何をする!」


 流石の彼女も怒りの表情を浮かべてペリーを睨んだ。ウォリーとリリも黙っていられなくなり、ペリーの前に進み出てきた。


「ペリーさん、依頼者といえど今のは流石に見過ごせません。彼女に謝ってください」


 ウォリーが強い口調で言うと、ペリーは舌打ちをした。


「ああ? お前俺にそんな口きいていいのか? 俺の父ちゃんはこの街一番の金持ちだぞ。その気になりゃ、お前らなんか簡単に潰せるんだ」


 そう言い捨てると、ペリーは部屋を去って行った。

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