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針と糸

「もうはやく行けってば!」


 サラに突き飛ばされリリは転倒した。その直後獰猛な鳴き声が聞こえ、3体のゴブリンが倒れた彼女めがけて襲いかかる。

 ゴブリンの棍棒がリリの頭に振り下ろされたが、ギリギリの所で彼女は防壁を作り出してガードした。

 棍棒が弾かれてゴブリンがよろめいた所を、サラ達が魔法で狙い撃ちにし、あっという間に3体のゴブリンは倒された。


「イエーイ!楽勝〜」


 そう言ってハイタッチをするサラ達の足元で、リリは震えながら地面に這いつくばっていた。

 防壁を作るタイミングがもう少し遅ければ棍棒で頭を潰されていた。そう考えると彼女の額からどっと冷や汗が吹き出した。


 ここは遺跡のような造形のダンジョン。内部はあちこちに分かれ道があり複雑に入り組んでいる。

 道の曲がり角ではモンスターと鉢合わせする事も珍しくないので、慎重に進まなければならない。

 しかし、先の見えない曲がり角でリリが警戒している所を、サラに突き飛ばされたせいで思いっきりモンスターの目の前に倒れこむ形になってしまった。


「あんたいつまで寝てんのよ!」


 サラが足元のリリを蹴る。先程モンスターに攻撃されたのにリリを心配する様子はかけらもなかった。

 それでも彼女は文句も言わずに黙って立ち上がった。


 彼女達が通路を進んでいくと、少し大きめの部屋に出た。中には何も無くがらんとした部屋だった。

 部屋の中央まで進んだ時リリは頭上に気配を感じ、顔を上げた。

 天井にモンスターが張りついている。

 それは、3メートル近くある巨大な蜘蛛だった。


 リリはサラ達に合図を送ると、自身達を包み込むようにドーム状の防壁を張った。

 僅かに遅れて巨大蜘蛛が糸を噴射してくるが、糸は防壁に阻まれ、彼女達には届かなかった。

 防壁を解除してパーティ、アンゲロスは臨戦態勢に入る。

 いつも通りリリが先頭。敵が飛ばす攻撃を彼女が防壁で防ぎ、後方からサラ達が魔法を飛ばして応戦する。


 蜘蛛は壁や天井を縦横無尽に移動しながら糸を飛ばすが、リリが素早く防壁を移動させ全て止めて行く。

 防壁の隙間を縫うようにしてサラ達の魔法が蜘蛛に次々と命中した。

 蜘蛛は緑色の血を吹き出しながらバタバタともがいている。


 サラが次の魔法攻撃を準備しようとすると、蜘蛛は彼女達に向かって尻を向けた。

 次の瞬間、尻の先端から太い針が飛び出す。

 リリはそれを防壁で防いだが、針を受けた防壁には少しヒビが入った。


「サラ!やばい!あの攻撃は何発も防御できない!」


 リリが叫んだ。


「あぁ!?ちゃんと防ぎなよ!針がこっちまで飛んできたらあんたタダじゃおなかいから!」


 リリの背後からサラの怒声が飛ぶ。

 そうしている間にも蜘蛛は針を連続で飛ばして来た。

 2発、3発…4発目の針を受けた時防壁が音を立てて砕け散った。

 針は彼女達に命中はしなかったものの、サラのすぐ横を通り過ぎていった。


「うわっ!あぶね!」


 リリは再び新しい防壁を作り直す。


(3発まではあいつの針を防げる。4発目が来る前に新しい防壁に変えて行けば何とか…)


 そう考えるリリの後頭部に、突然衝撃が響いた。


「ふざけんな!ちゃんと防御しろよ!!」


 針に当たりかけて怒ったサラが彼女に石を投げつけた様だった。

 頭に石を受けたせいで、リリは蜘蛛から視線を外してしまった。蜘蛛は壁を移動し彼女達の横に回り込むと、リリに向かって針を飛ばす。

 リリは慌てて防壁を作って自身を守ろうとするが、間に合わなかった。

 針は彼女の脚に深々と突き刺さった。


「あああ!」


 痛みに悲鳴をあげたリリだが、すぐに声が出なくなった。それどころか身体全体が痺れて動かせなくなっている。どうやらあの針には痺れ毒が含まれていたようだ。

 指一本動かせなくなった彼女に糸が飛んでいき、彼女をぐるぐる巻きにして拘束してしまう。

 そして、蜘蛛は糸を手繰り寄せながら彼女を捕食しようとする。


「やば!蜘蛛があいつを喰ってるうちに逃げよ!」


 そう言ってサラ達は部屋の出口へ走り出した。


 その時、黒い炎がサラ達の横を通り過ぎて行った。

 炎はそのまま糸を焼き切り、蜘蛛とリリを分断させた。

 それからすぐに2人の人影が姿を現し、蜘蛛に向かって行く。


 蜘蛛は糸を飛ばすが黒炎がそれを全て焼き消してしまった。

 そしてもう1人が剣を振るい、蜘蛛の顔面に剣を突き刺した。


 蜘蛛は8本の足をバタバタと振り回して暴れたが、すぐに動かなくなる。

 サラ達はその様子をあっけにとられて眺めていた。




「解毒マン!回復マン!」


 ウォリーがリリに手を置いて唱えると、彼女は目を見開いて大きく呼吸した。


「リリ!大丈夫か!」


 ダーシャが糸を少しずつ焼きながら慎重にリリから剥がして行く。


「ウォリーさん…ダーシャさん…ごめんなさい…また、助けられちゃいました…」


 彼女の無事を確認して笑顔になったダーシャだが、すぐに鋭い目つきに変わった。

 ダーシャはサラ達の方を向いて怒りに身を震わせる。


「貴様ら!仲間を見捨てて逃げようとするとは何事だ!」

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