第40話:劣等賢者は手直しする
◇
夜になりバタバタが落ち着いたところで、問題が勃発した。
料理は当番制ということになり、初日はフィアが手料理をご馳走してくれることになったのだが——
「どうかしら? 私の自信作よ!」
「えーと……これはなんだ?」
「真っ黒で何かわからないです……」
「ギリ魚の原型が残ってるように見えるが……なんの種類なのかさっぱりだ」
「失礼ね……。はぁ、これだから庶民は。これはどこからどう見てもムニエルじゃない。鮭のムニエルよ!」
自信満々に宣うフィアだが、黒こげでムニエルのようには見えない。
ムニエルってこんなのだっけ……?
「それで、こっちの麺……のようなものはなんだ?」
「ええ、もちろんパスタよ」
何が『もちろん』なのかよくわからないが、茹で加減が上手くいかずカチカチになってくっついてしまっている。
パスタというより固形の何か……という感じだ。
しかしせっかく作ってくれた料理にケチをつけすぎるのもアレだしな……。
じゃあお前が作ってみろと言われれば喜んで作るが、そういう問題ではない。
「もしやと思うが……フィアは料理が苦手なのか?」
「し、失礼ね! 見た目はアレだけど、味は普通だから! メイドは私の料理を美味しいって言ってくれたわ!」
そりゃメイドさんは仕事だから依頼主の娘の手料理をマズいとは言えないだろうよ……。
「なるほど、じゃあ食べさせてもらうよ……」
いただきます——の儀式を終えて。
まずはムニエルを一口試食。
こ、これは……焦げた鮭以外の何者でもないな。
「…………」
次に、パスタ(パスタではない)を一口。
バリバリと咀嚼する新感覚の食べ物だが……やっぱりパスタは普通の方がいいなぁ。
「…………あー、まあ美味しいよ…………?」
「本当!? 嬉しい!」
「アレン……大丈夫ですか?」
俺の背中をさすり、心配してくれるアリス。
大丈夫、変なものは入ってないはずだから味がちょっとアレなだけで腹を下すことはないだろう。
「しかしこれでも美味しいんだが、あとひと工夫してみるとさらに美味しくなると思うぞ。やらせてもらっていいか?」
「ええ、できるものならやってみなさい! でも、味が落ちたら勘弁しないわよ?」
「ああ、心配いらない。任せてくれ」
落ちるほどの味はないから大丈夫なはずだ。
まずはムニエルの焦げをヒールをかけることで元に戻した。油は戻らないからパサパサなのだが炭よりはマシだろう。
次にくっついたパスタをヒールで戻し、水分を再吸収させる。味付けは変えられないが、とりあえず麺の形にはなった。
最後に特製の調味料を振りかけることで、完成だ。
「すごいです……大分美味しそうになりました」
そんなことを言いながら、一口食べるアリス。
「すごい……! 本当に美味しいです!」
「あら、好評みたいね。実は私もまだ食べてないんだけど……んんっ! 美味しい! これは最高傑作かもしれないわ!」
味見くらいしてくれよ……と思わなくもないのだが、これで丸く治ったし良しとするか。
ほぼ調味料のおかげな気がするが……。
三日ごとにこれを食べるのはごめんなので、早めになんとかしないとな……。
先日短編を公開しました『劣等紋の超越ヒーラー 〜「お前の回復魔法が必要なんだ」と頼んできてももう遅い〜』ですが、かなり反響があり、連載版を投稿することとなりました!
初めて読む方も、既に読んでいただいた方もぜひよろしくお願いいたします!
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