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第2話:劣等賢者は本を求める

 ◇


 翌日の夕暮れ。

 母イリスが読書にふけっているタイミングを見逃さなかった。


「おかーさま。ぼくもごほんが読みたい」


「あらあら、アレンにはまだ早いわよ?」


「はやくないーよみたいー!」


「うーん、どうしようかしら。でもアレンはまだ文字が読めないわよね。そうね……じゃあお母さんが読み聞かせしてあげるわ。ちょっと待っててね」


 よし、計画通りだ。

 寒気がする幼児語を我慢して使った甲斐があったというもの。

 駄々をこねるのは子供の特権である。


 しばらくイリスが何冊かの本から一冊を選んで、俺の側へやってきた。

 木製の椅子を俺が横たわるベッドの横へ設置して、読み上げていく——




「おっさん勇者の辺境ゆるり生活。

 ——むかしむかし、あるところに一人のおっさん勇者がいました。おっさん勇者は他の勇者と違って支援魔法しか使えませんでした。


 それが原因で勇者パーティから虐げられていましたが、必死にパーティのために貢献しました。それに気づかなかった他の勇者は「出ていけ!」と言っておっさん勇者を追放してしまいます。


 でも、支援魔法が実は勇者パーティの命綱だったのです。


 彼を追放した勇者パーティは、間も無くして全滅してしまいました。

 その頃、おっさん勇者はかわいい猫耳美少女と幼女魔王に囲まれて幸せなスローライフをすることになります。


 第二の人生を全力で楽しむおっさん勇者のスローライフのはじまりはじまり——」




「おかーさんそれ違う! 楽しそうなお話だけど、ぼくが読みたいのはそういうごほんじゃないの!」


 途中からちょっと内容が気になって止めるタイミングを見失ったが、明らかにこれは物語とかその手のやつだろう。俺が欲しいのはもっとタメになる実用的な本だ。


「あらあらそうなの? ちょっと内容が難しかったかしら……」


 イリスは、『おっさん勇者の辺境ゆるり生活』を棚に戻して、新たな本を探していく。


「これはどうかしら? 異世界に転生したおっさんの大河ファンタジーよ」


「うーん……それもちょっと」


「じゃあ、異世界に転生したおっさんがスライムになっちゃう話」


「なんでおっさんにこだわるの!?」


 どうやら、たくさん本があると思っていたが物語系の本が大半を占めている可能性が高い。

 貴族の家ならもうちょっと剣術や魔法に関する本が揃っているかと思ったんだが……。


 決して物語系の本が悪いわけではないのだ。

 異世界のそういう本も時間があれば読みたい。でも、今じゃない。


「もう! じゃあアレンは何が読みたいの?」


 イリスが少し怒ったような声になる。

 確かに、俺を喜ばせようと楽しい本を選んでくれたんだろうからちょっと悪いことをしてしまった。


「剣はまだ早いから……魔法のごほんが気になるかな。おかーさま、右下にある黒いごほんはなあに?」


「さっきのも魔法で大活躍するお話よ。まあいいわ。それで黒い本って……ああ、これね。まだアレンには早いわ。基礎魔法の教科書ね。レオンがこれで勉強していたのよ」


 基礎魔法。教科書。

 ビビッときた。

 俺が求めていたのはまさにこれだ!


「おかーさま! ぼく、そのごほんが気になる! 読んでほしいの!」


「ええ……? じゃあちょっとだけね。眠くなったら寝てもいいわよ。じゃあ、今日は十ページまでね」


 母イリスの朗読内容は、最も初歩的な魔力操作の方法に関することだった。

 魔法を使うには、明確なイメージをもって魔力を練る。

 イメージが魔力を誘導し、魔法を形成する。


 そのイメージを固めるのが魔法の勉強というものらしい。

 そして、イメージが固まった上で呪文を詠唱する。


 火を生み出す魔法なら、【クリエイト・ファイヤー】と声に出すことで魔法が具現化する。


「ふふっ、まだアレンには無理だと思うけど、いつでもどこでも魔法なら火を起こせるの。クリエイト・ファイヤー」


 イリスの指先に火が灯った。

 なるほど、一通りは理解した。


 まあ、初めてなので成功するはずがないが、一応やっておくか。


「クリエイト・ファイヤー」


 高温でメラメラと燃える青白い炎を想像して、呪文を唱える。


 確か、学生時代に理科の授業で燃焼させる酸素が多い方が火力が上がると聞いた気がする。


 出力はイリスに倣って指先。

 身体の中を冷えた血液のようなものが流れる感覚があった。ああ、これが魔力か――


 ボッと音がして、俺の指先に青白い炎が灯った。


「できた! これでいいの?」


 子供のようにはしゃぐ俺。イリスは信じられないものでも見たかのように、ただただ驚いた。


「この歳で話せるだけじゃなくて、魔法まで使えちゃうなんて! それに、この炎はかなり高温。しかも安定してるわ!」


 ふむ、この歳にしてはなかなかデキる方らしい。

 魔法の才能アリってことでいいのかな?


「おかーさま、ぼくもっとたくさん魔法を覚えたい!」


「そうね、でもまずは歩けるようになろうね。三歳になって魔法の勉強を始めたらきっと高名な魔法士になれるわ!」


 ぐぬぬ……。


 やっぱり三歳まで待たなくちゃいけないのか……。

 あの本さえ自力で読めるようになったら独学もできるのだが。


 どうしようかと悩んでいると、指先の炎が消えて急に脱力感に襲われた。


 あ、これが魔力切れか。

 思ったより早いもんだな。

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