3話 好き同士
「おはよう」
月影さんが挨拶をしてくれてまた1日が始まるんだなと感じた。
いつも通りの‥ではない。
「一緒にご飯食べよう」
休み時間はほぼ会いに来なかった月影さんだったが僕を昼食の誘いに来る。
「は、はい」
どうも今までひとりぼっちで人目に触れない場所で昼食をとっていた僕としては慣れないところがある。もどかしい。
それも憧れの月影さんからとなると尚更だ。
「教室で食べるんじゃ無いんですか?」
教室を出ようとする月影さんに僕は問いかけた。
「うん。落ち着ける場所知ってるからそこに行こう。いいかな?」
「はい、大丈夫です」
月影さんの落ち着ける所とは学内の日陰にあるベンチだった。
日を遮り風に揺れる木々が心地よい。
こんな場所があったとは。
「速川君のお弁当は手作り?」
「はい。‥月影さんもですか?」
手にはかわいいらしい動物柄のハンカチに包まれたお弁当がある。きっと月影さんは料理も上手いのだろうと勝手なイメージを抱いていたが‥。
「一応ね。私料理上手く無いから友達に教えてもらって練習してるところなんだ」
苦笑いを浮かべる月影さん。料理が苦手とは意外だった。
「そうだったんですか」
「うん。速川君はすごいね。美味しそう」
「ありがとうございます。‥僕は親が」
至ってありふれた弁当だと思ったが月影さんに褒められると嬉しい。
親の話は言いかけたところでやめた。少しマイナスな話になってしまうかもしれなかったからだ。
月影さんも追求はして来なかった。
「速川君って何か好きなものとかあるの?」
「あ、え〜と‥本を読むこととかですかね」
「私も好き!どんな本を読むの?」
「え〜と林田直樹さんなら殆ど好きですね。特に魔女の本とか」
月影さんが一瞬固まってしまう。
「どうかしたんですか?」
僕がそう呼びかけると我を取り戻す月影さん。しかし何処か動揺しているようだった。
「え、あ〜良いよね。うん私も好き。私はバス停事件簿かな」
「いいですね、同じ林田さん好きで嬉しいです」
「うん。速川君とは気が合いそうだなって思うよ。これからも仲良くしてね」
「はい」
何故だろうその言葉は少し寂しげに聞こえた。