2話 ボディーガード
それから自宅へと帰宅した僕だったが
気持ちはどこか落ち着かなかった。
刃物男を目の前にした事、立ち向かった自分の行為
そして月影さんと挨拶以外で言葉を交わした事を思い返していた。
「それにしても‥」
ベッドに寝転がり疑問点にも突き当たった。
何故月影さんが狙われたのか。
月影さんのアクセサリーがキズを直した事。
彼女はいったい‥。
「月影さんが危ない目にあったらこれからも助けたい」
臆病なくせに不思議と強い意志でそう感じた。
「おはよう〜」
翌日学校に向かい教室の席でひっそりと座っていると月影さんが挨拶を交わしてきた。
「お、おはよう」
いつもならこれで終わりなのだが
「今日空いてる?昨日のお礼したくて」
「空いてます。けどお礼なんて別に‥気を使わないでください」
「助けてもらったのにそれじゃ悪いよ。それに話したいこともあるから。放課後また話しかけにくるから席で待っててね」
笑顔で手を振り席へと戻るしずくさん。
口ではああいったが果たしてどんなお礼をしてくれるのだろうと少し楽しみである。
月影さんからなら何でも嬉しい。
いつもより長く感じた就業時間を終え
少しして月影さんが席へとやって来る。
「お待たせ、行こうか?」
「は、はい。何処に行くんですか?」
「う〜んそうだね、行きつけのカフェがあるから
そこに。良いかな?私のおごりだよ」
「いいですよ。でもおごりだと申し訳ないです」
「お礼だから気にしないで」
それから僕達は学校を出る。
憧れの月影さんと並んで歩ける日が来るとは。
僕より背が高い。‥僕が低すぎるのか(身長158センチ)月影さんは165くらいなのだろうか。
それにしても良い匂い。詳しくは無いけどフラワー系の匂いがする。
「速川君は何で敬語?」
「あ、なんか癖みたいなものです」
「そっかぁ、じゃあ友達にも?」
「‥友達いないです」
しまったついうっかり暴露してしまった。
マイナスイメージになるようなことを。
しかし月影さんは笑顔で
「じゃあ友達になろうか」
そう言ってくれた。
涙が出そうになる。それに一番憧れのしずくさんに。
「ありがとうございます」
「速川君の初めての友達だね」
月影さんの行きつけのカフェはとてもおしゃれな外装で僕みたいな男ひとりでは入り難いような場所であった。
「入ろうか?」
「は、はい」
月影さんに言われおずおずと入り込んだ店内もまたおしゃれであった。
‥場違い。月影さんがいなければ場違いである。
「月影さんはいつもこういうところで」
「うん、そんな頻繁にじゃないけどたまにね」
「なるほどすごいですね」
会話をしながら席へと着く。月影さんが正面にいると落ち着かない。眩し過ぎて直視出来ない。
「速川君は何にする?」
月影さんはメニューを表を見ながら僕に訪ねてくる。僕もメニュー表を開くが‥
見事な横文字ばかりで頭がくらくらになりそうだった。
「え〜と‥月影さんと同じので」
「じゃあコーヒーとケーキでいいかな?」
「はい」
月影さんが僕の分も店員にオーダーを終えてから
いよいよ本題にはいる。
「そういえば話したいことって何でしたか?」
月影さんは一息置く。そしてなるべく周囲に聞こえないような声で僕に打ち明けた。
「‥私がはやかわ君の怪我を治したこと内緒にしてほしいの」
「大丈夫です。誰にも言いません」
「ありがとう。良かった‥」
「でも大丈夫ですか‥あんな人に狙われるなんて‥どうして」
月影さんに言いかけたところでオーダーしたものが運ばれてくる。
「そうだね。実はたまにあるんだよね」
月影さんはコーヒーを一口飲んでから何処か不安げだけれども仕方ないと言った感じな表情を浮かべた。
「警察とかに相談した方が」
「‥警察には話せない事情がちょっとね」
いったいどうしてなのだろうか。
アクセサリーの事も含めて謎が深まっていく。
深追いはしない。僕には話せない何かがあるのだ。でも‥。
僕はコーヒーを飲んで意を決する。
「僕が力になれることはありますか?」
応えはわかってる。だけど思いは伝えたかった。
月影さんを助けたい力になりたい気持ちを。
「そうだね、昨日見たいに速川君が助けてくれたら安心するけど。無理はさせたくないし、それに‥」
「僕で良ければ助けます!」
自分でもこんなに熱い気持ちになったのは初めてで内心驚いていた。
‥僕は臆病なはずなのに。
「ありがとう。じゃあ明日から一緒に行動してくれるかな?放課後一緒に帰ったりとか」
月影さんは笑顔だった。
「は、はい」
こうして僕は月影さんのボディーガードになった。