1話 月影しずく
一目惚れしたのは4月の高校入学の春
月影しずくさんは長い黒髪が美しく、上品で優雅でスタイルも良く絵に描いたような素敵な人だった。
どん底だった僕速川大地の人生に小さな光が差したようだった。
それから数ヶ月‥たった。
なんの接点もないまま過ぎた数ヶ月だった。
あるわけが無いのだ。
僕はというと弱気で臆病な人間なのだ。
一方彼女は明るく
今日も教室で友達と楽しげに会話している。
僕は自分の席でチラチラとそんな様子を眺めているだけだ。
ただ月影さんは毎朝挨拶をしてくるそれだけが幸せだった。
そんなある日偶然月影さんと電車が一緒になった。月影さんは僕より少し離れた席で本を読んでいた。
もちろん僕はそんな状況でも話しかける事すら出来ない‥。
きっとずっとこのままなのだろう‥そう感じていた矢先事件が起きた。
「今日こそころしてやる‥」
そんな恐ろしい言葉が静かな電車の中でささやかれ僕は驚いてその声の主を探した。
「嘘‥‥」
主は少し離れた所へとたっていた間違いないと確信したのは手に刃物を持っていたからだ。
正直あまりの恐怖で身体が震えてしまった。
動けない‥。
しかしもっと驚いたのはここからだった。
男は月影さんに向かっていったのだ。
「なんで‥!止めなきゃ」
その言葉と身体が動くのは同時だった。
あんなに怖かったはずなのに。
でも‥月影さんが傷つく方がもっと怖い‥。
もう誰かを失うのは嫌だ。
「なんだおまえ」
僕は震える手で男の手を掴み刃物をおとさせることが出来た。
すると周囲の人は悲鳴をあげ男がいる場所から逃げていく
月影さんをのぞいて。月影さんは怖くて動けなかったのだろう。
「月影さんも安全な場所に逃げてください‥!」
「う、うん」
僕が促すと月影さんは安全な場所へと避難する。
やがて電車は緊急停止され駅員がかけつけてきた。それから男は無事に警察に連行され
駅のホームで事情を一通り説明し事を終えた。
「速川君‥」
唐突に呼ばれた声に振り向くと月影さんの姿があった。
かけよってくるその姿も可憐で美しく素敵で無事で良かったという思いが込み上げてくる。
「助けてくれてありがとう」
「あ、いえ‥」
笑顔で僕の手を握る物だから
照れてしまい思わず声につまる。
「速川君、怪我してる」
「あ‥さっき刃物に当たったかもしれません」
擦り傷程度の傷がついていた。
全く気づかなかったが。
「ちょっと待ってて」
絆創膏をくれるのだろうかと考えていたが
月影さんは胸元に手を入れ月形のネックレスを取り出す。
そして再び僕の傷のある方の手を握りネックレスをかざした。
「もうこれで大丈夫。今日はありがとう。今度御礼させてね」
「えっ‥傷が直ってる」
傷が直っている理由も聞く間もなくしずくさんは颯爽といってしまった。
月影さんは一体‥。