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第二話 アスーラ

「で? あなたは何者なのよ、龍牙。なぜあの場にいたのよ」


 レッドリーがイラつきを抑えた様子で俺に問う。


「知らない。目を覚ましたら森の中だ」

「では、あなたの住んでいた場所は?」

「東京の下町だ」

「東京……」


 彼女が考え込み始めた。その間に店内を見回す。

 石造りの店内にはカウンター席とテーブル席があって、俺達は窓際のテーブル席に座っている。

 店内のあらゆる器具は古臭いものだった。カウンターの中にはマッチ箱と思われる箱が置いてあったり、アルコールランプが置いてある。

 代わりに現代的なものは一切無かった。照明は昔の家庭にあるような趣のある物だったが、同時にそれは効率的だとは思えなかった。

 非効率的なのはこの店に限った話ではなかった。この街──ツド国ニュルブと外壁の通行口に書いてあった──全体が石造りで、現代的な建物は一切なかった。

 この街の外壁を通った瞬間からまるで別の世界に入り込んだ感覚に襲われ続けていた。


「東京……知らないわ」


 レッドリーが信じられないことを言った。


「知らないって……嘘だろ。流暢な日本語を使っているじゃないか」

「日本語って……これはツド語だけれど?」

「冗談じゃない」


 それではまさに異世界ではないか。

 ふと脳裏に一つの質問が浮かんだ。これの返答次第で答えが出るだろう。


「じゃあ、アメリカは?」

「知らない。聞いたこともないわ」

「じゃあ、ロシアは?」

「見当もつかないわ」


 間違いない。


「俺はおそらく別の世界から来たんだと思う。ツドなんて国を聞いたことも無いからな」

「それこそあり得ないわ。ツドは最も大きな国なのよ」

「だからだよ。俺は日本という国がある世界から来て、この世界はツドという国がある世界。だからツドなんて知らないし、逆に君も日本やアメリカを知らないって訳だ」

「成る程ね……前例がないわけではないし、おかしくないわね」

「前例?」

「ツドに伝わる伝説があるのよ。まあ、時間がある時に話すわ」


 レッドリーが数秒考え込む。


「だったら、とりあえず人助けしながら元の世界に戻る方法を探すっていうのはどう?」

「元の世界……か」

「どうしたの?」

「いや、あんまりあっちにいい思い出がないものでな。あっちは奴隷だらけだ」


 自傷気味に小さく笑う。そう、俺も奴隷に近いものだった。


「けど、人助けは好きだ」

「そう。なら話は早いわ。ニュルブ騎士団本部に行くわよ」


 レッドリーは立ち上がって店を出る。俺も慌てて立ち上がり、追いかけた。






 街の中央に大きな城のような建物があった。


「すっげぇ。なんだここ」

「ニュルブの戦士を管理する施設と、併設されている集会所よ」


 へぇーと返事しながら見回す。

 その建物の一階には賑やかな酒場のような場所があって、手前には椅子と机が、奥には木製のカウンターがあった。

 その中には制服姿の若い女性が立っていて、何かの書類を整理している。


「あれは?」


 俺はその後ろの壁にある大きな石像を指差して問う。

 パワードスーツのように見えるそれは右腕にアームキャノンを装着している。


「この国に変化を与えた英雄らしいわ。言語、文化、技術、そういったものを伝えたらしいわ」


 レッドリーが返事をする。ふーん、と返しながら考える。

 少なくともあれはこの世界のものではないだろう。だが、大きな影響を与えたことも間違いない。

 別の世界からの来訪者、それも恐らく日本語のある世界から来た風来坊。

 俺以外に来た人がいる。少なくとも前例がある訳だ。時間がある時に調べよう。


「こっちよ」


 レッドリーの言葉で現実に戻る。彼女は像の下、カウンターの前で待っていた。

 慌ててそこに向かう。横断してみてわかったが、思ったより広い。


「彼の登録を頼めるかしら」

「はい。名前とクラスをお願いします」


 カウンターの中の女性──受付と書かれたプレートが胸についている──にレッドリーが話しかけると、受付嬢は俺に聞いてきた。


「千川龍牙、クラスは……」

「ドラゴンナイト、契約龍は私よ」


 レッドリーの助け舟。クラスがわからなかったため助かったのだが、彼女がドラゴンナイトの名を出した途端に酒場内の視線が俺に集中した気がした。

 いや、実際視線が集まっている。嫉妬が混じった目もちらほらと見受けられた。受付嬢も驚きの表情を浮かべていた。


「ドラゴンナイトってそんなに凄いのか?」

「ああ、知らないわよね。説明お願いできるかしら」


 レッドリーが受付嬢に視線を投げる。


「かしこまりました。端的に言ってしまえばドラゴンナイトとは選ばれし者、龍の力を借りた戦士です」

「戦士とはなんだ?」

「戦士は通常このカウンターで任務を受け、遂行します。実績を積めばより高報酬の任務が受けられますが、その代わり命の危険が増します。最も、ドラゴンナイトであるあなたには無用の心配かもしれませんが」


 言われた言葉を頭の中で反復する。戦士、任務、報酬。任意で戦場に出る兵士のようなものか。任務とは恐らく街の防衛などになるのだろう。


「なるほど、わかった。今の俺が受けれる任務はどれになるんだ?」

「あなたの場合だと……キノコ狩りになります」

「ええー! キノコ狩りなんてもったいないよー!」


 後ろから声が聞こえた。高い、少女のような声。振り向くと薄い鎧を身に纏い、青いメッシュをショートヘアに入れた少女が居た。背中に弓を背負っている。


「ねぇ、お兄さん達ドラゴンナイトなんでしょ。あたしの任務に付き合ってよ。ね、それなら問題ないでしょ?」

「確かにそれはそうですが……」

「じゃあ決まり! お兄さんもそれでいいでしょ?」


 少女は勢いのまま俺に問う。


「ちょっと待って。俺はなにもわからないんだ」

「だったらちょうどいいよ! 色々教えてあげる!」

「いや、でも……」


 意見を求めるようにレッドリーを見やる。


「いいと思うわ。実践こそ一番の授業って言うし」

「んな言葉聞いたこともないけどな……レッドリーがそう言うなら頼みたい」


 言って少女に右手を差し出す。


「俺は千川龍牙。龍牙って呼んでくれ」

「あたしはアスーラ。セイリュウと契約しているドラゴンナイトだよ。龍牙の契約龍は?」

「私、コウリュウのレッドリーよ」

「レッドリー!? あの英雄テイラーの契約龍の!?」


 アスーラが目を見開く。驚きの表情と共に。


「昔の話よ。彼は歳で亡くなったわ」

「ちょ、ちょっと待ってくれ」


 話に割って入る。


「セイリュウだとかテイラーだとか、訳がわからない」

「そこから説明しないとダメなの?面倒くさいなぁ」


 アスーラが大袈裟に腕を動かして言う。


「まあいいや。この世界にはね、四種類の龍がいるの。紅の炎を宿す龍、紅龍。青き水流を流す龍、青龍。黒に染まった黒龍と銀に光る銀龍」


 頭の中で龍の名前が漢字に変換される。紅、青、黒、銀。やはり彼らの使っている言語は日本語に限りなく近い。


「その内の紅龍、青龍、黒龍は人間と共存しているんだ」

「でも銀龍だけは敵対している、と。何故?」


 脳裏によぎるのはつい先ほど斬り合った一人の剣士。彼は銀龍と呼ばれていた。


「わからないの。古い本には人類の罪に関する事が書かれていたけど、難しくて理解できなかった!」


 何故か自慢げにアスーラが言う。僕は肩をすくめながら、


「自慢するようなことではないと思うけど……」

「むっ、いいのよそんなことは。それよりも龍牙、あなたどんな武器を使うの?」

「それが武器を持ってなくてさ」

「だったらあたしの行きつけのお店を紹介するよ!」


 彼女が俺の手を引っ張って出口に向かう。


「私は登録を進めておくわ。ごゆっくりどうぞ」


 それを見送るレッドリー。心なしか呆れているようにも思える。

 そんな彼女を見ているうちに外に引きずり出された。


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