修行者
私は看板だ。
乾いた大地に一本だけ刺さっている。
ボロボロの木の杭にペンキのはがれた三つの矢印が錆びたくぎで打ち付けられていて、三つの道を示している。
もうずっと、地平線まで続く道を見ている。
私が示す矢印が、いったいどこを指しているのか
私はそれを、通る人々に聞いてみることにした。
「修行者」
一人の人間が私という分岐点に立った。
頭髪がなく、この気候にはおそらく適していないであろう宗教服を着ていた。
「あなたはどこへ行くのですか」
「私はこの砂漠を越え、その向こうの聖地へ向かい、自分の教会に戻りまた聖地へ向かいます」
「どうしてそんなことをしているのですか」
「私は修行者ですので、この聖地巡礼を17回往復することで晴れて一人前になれるのです」
「なぜ一人前になろうとするのですか」
「私はかつて人を騙し、時には殺し、金銭を奪う盗賊でした。 そこから足を洗って、今まで悪いことをしてしまった人たちにせめてもの報いのため、こうして自分を滅して償いをしているのです。」
「かつてから何かが変わりましたか」
「はい、あの頃の私は悪意に取りつかれていました。 騙し 殺すことに快楽を覚え、罪悪感など感じたこともありませんでした。 今は殺してきた人たちの痛みがよくわかります。」
「食料や水を持っていないようですが」
「修行中は飲食は禁止されています。ものを食べることは同時にそれを奪う事であるので、修行の間にものを奪うことは教えに反します。」
「私からも質問していいですか」
「はい」
「あなたは反省した人間を許すことができますか」
「私がそれを話すには、人とのかかわりが少なすぎます。」
「そうですか。では私はもう行きます」
修行者はそういって歩き出した。
修行者が地平線の先で見えなくなったころ、警服を着た男数名が息を切らして私という分岐点に止まった。
「あなたはどこに行くのですか」
「今ここに盗賊が通らなかったか!」
警服を着た男が尋問するようにに聞いた
「いえ、それに近い人間は確認していません」
「宗教服を着た盗賊なんだが、前の村で5人殺して食料と金を奪っていたんだ。
そいつは昔から騙す殺すってことに執着している。」
「宗教服ですか」
「ああ、今は修行者を名乗ることで人々に近づいてるらしい。 本当に許せない...」
そういうと警官隊はまた走り出した。
私の中で修行者の問いの答えが
「人は自分のしたことに反省などしない」と変わった。




