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二話 無理です

悪魔の下へ飛んでいく。前方で飛ぶ天使が後方の俺に目をやり、笑って言う。

「もー。大丈夫、大丈夫。心配しなくても君はすごく強いから、君がバシって叩けば一瞬で終わるよ」

「あ、あー。ちょっと震え止まんねーわ。ホント大丈夫だよな」

「大丈夫、大丈夫。はいストップ!」

天使は急停止し、横に手を伸ばし俺にブレーキの合図をする。緊張が走る。今から俺は誰か殺さないといけないんだろ。どこにいんだ? 俺は周りを見渡す。天使は俺に近づき小声で言う。

「ほら、見て見て、あそこ、あの建物の壁。いるでしょ、あの黒いのが悪魔。あれが生きた人間達の魂を食べて卵を植え付ける悪いやつ。ほら、今建物の中を覗いてるんだ。君はばれないようにそっと後ろから近付いてえいってやっちゃって」

 天使の指さす方向を見る。すると、200mほど前方の下の方に、一軒家の窓にへばりつく黒い怪物がいた。体格3mはある。頭部が馬で体はゴリラ、全身真っ黒のガチムチ野郎。俺は声を震わせながら言う。

「あー、ちょっと俺無理っぽい、いや、無理だわ」

俺は恐怖で動けなかった。悪魔のあの姿、俺の本能があいつはヤバいと警告してくる。

ドクッ ドクッ ドクッ

息も荒くなり、自分の心臓の音が耳に聞こえてくる。天使は俺の真っ青な顔をじろっと見る。俺のあまりのチキリ具合にイライラした様子で

「ちょっとビビりすぎ。だからー、君はものすっごく強いんだって。すぐ倒せるよ」

と言う。

間髪入れずに俺は言い返す。

「いや、マジで無理です。いや、ホント無理です。な、なんか殴る以外に方法ない?俺怖くて絶対近づけないわ」

「もー、ビビり。うーんと、他のドリーマーは神通力で武器を出したり、衝撃波とか出して戦ってる人もいるよ。でもそれはいろいろ慣れて使いこなせるようになってからの話しだし。あれは本当に弱い悪魔だから。ほら、早く行って!」

天使は俺を急かす。俺は少々パニック状態に陥りながらも答える。

「はい、衝撃波ね。衝撃波を撃てれば倒せるんだよね。こんな感じで手をかざせば出たりする。こんな感じでいい?」

天使はハアとため息をつき、あきれた顔で俺を見る。おいっ!なんだその目は。俺の命がかかってんだぞ。あいつらの命なんか知るか。

 俺はふと、地面に着地できた時のことを思い出す。たしかあの時心の中で念じたのがきっかけで触れるようになったんだ。この応用で衝撃波がれるかもしれない。悪魔の方向に手をかざし、目をつむりひたすら念じる。

いでよ波動、いでよ波動、いでよ波動

手が恐怖で震える。ダメだ、全然でねー。ひたすら困惑しながら、手を振ってみたり、押してみたりと色々試す。

そして俺は手刀ように手を上から振りかざす。

いでよ波動、いでよ波動、いでよ波動

 すると、俺の手の振りかざした範囲から斬撃の衝撃波が放たれた。その衝撃波はカーブしながら悪魔の方向に向かっていく。衝撃波が悪魔の背中に触れた瞬間、悪魔の上半身が破裂した。

ウガアアアアアア!!!

悪魔の上半身はまだつながっており、痛みで空中をのたうち回る。

死なねえじゃねえか! 俺は襲ってきたと思い、すぐさま後方へ猛スピードで逃げる。

「おおお!なんかすごいのでたね。ビュンビュンって」

 天使は予想外の出来事に興奮しながら言う。俺が遠くにいるからもあってめちゃくちゃ声が大きい。おい、頼むから静かにしろよ。バレたらどうすんだよ。

 しかし、悪魔はその声に気づきこちらに目をやる。ばっちりと目が合った。

あああ、殺される。咄嗟に俺はぺこぺこと謝った。

「ニンゲン。ニンゲン、ユルサン、ユルサン」

悪魔は唸り声を上げ、歯茎むき出しで俺を睨みつけ、向かってきた。あの顔は動物の本気の威嚇だ。小学生のとき犬にされたことがある。俺がびびってその場で慌てふためいていると、突然何かに気づいたのか、急に方向転換し逃げ出した。その様子を見て、天使が叫ぶ。

「ああああ、逃げちゃう。逃げちゃう。早く倒して!」

「えっ、あっ」

「早く!!」

俺は慌てて手刀を何度も振りかざす。頼むでてくれ。すると願いが通じたのか、また斬撃の衝撃波が放たれた。今度は三発。その衝撃波は周りの建物を全て無視し、悪魔だけを追従する。悪魔は後方の俺の攻撃に気づき、躱す素振りを見せる。

「あああああああ!よけられ、おおおおし!!」

と天使が言う。衝撃波は悪魔の急な横移動にも反応し、全て直撃した。肉片がはじき飛び、今度は原型を留めていない。周りに飛び散った肉片は空間を漂いながら蒸発して消えた。

「おお、一時はどうなるかと思ったよ。でも、あんな風に悪魔は逃げようとするのもいるから気を付けてね。異空間に逃げられたらさすがに追いかけられないよ」

 緊張感が解かれ、どっと疲れがやってきた。自分の右手を見る。まだ震えが止まらない。そうだ、あの技は…

「手刀空波…」

「え、なんて?」

「手刀空波だ。さっきの技の名前」

「う、うん。あれすごかったね。あの技って、ん、おっ、きたきたきたきた!!」

 急に天使の様子がおかしくなり、どこかの未接触部族の踊りのようなものが始まる。

「うひょおおおおお!!」

あのテンションから見るに、喜びを全身で表現しているようだ。喜びの舞いとでもしておこう。はっと正気に戻った天使は気を取り直して俺に言う。

「すごい量の徳がたまったよ。やっぱり悪魔退治は違うね、君のせいで減った分ももう取り返したよ」

「徳ってなに?お前は徳を積んだらどうなんの?」

「フフフ、この地にいる天使は皆上界に行くことを目指してる。私もそう。この徳をもっとたくさん貯めると上界にいけるようになるの。君もそれまで手伝ってもらうよ。フフフ、なんか今調子いいからできるかも。何か願いを言ってみて。それが今回の報酬」

「願いってどんな?」

「なんでもあるでしょ。天使は人の人生のシナリオを書き換える力が本来備わってるの。君の夢をなんでもいいから教えて」

まじで叶うのか。なんでもいいのか。ふと例を挙げようと考えたが中々出てこない。まあ、毎回悪魔倒すたびに願いが叶うなら何でもいいのか。もしかして、俺ってものすごく勝ち組なんじゃないか。

「あ、俺金持ちになりたいわ。宝くじ10億当たらせて。できる?」

「わかった。やってみる」

あっさり承諾された。まじで。えっ!? やっぱり俺勝ち組だ。おしゃあああああ!!ごめんな。今の今までお前のことをクソガキとしか思ってなかったよ。

「おう、俺とお前は最高のパートナーだよ。何が何でもお前を上界とやらに連れてってやる。」

「フフフ、ありがとう。で、この後どうする?まだ戦いたい?それとももう休む?」

そうだなぁ。俺はどうしようか考える。まずは天使の力とやらを見て見たいな。

「今日はいいわ。疲れたし。どうやって元の体に戻んの?」

「自分の肉体に触れば元に戻るはず。じゃあ帰ろー」

 俺たちは家のアパートまで飛んで帰宅する。それにしても空中移動は便利だ。疲れないし、車より速えーぞ。

 帰宅途中、天使は俺に話しかける。

「私も運がいいよ。フフフ。私ずっと他の天使達の言いなりだったんだ。だから私皆のいない間、こっそり強い人探してたんだけど、昼寝してる人ってなかなかいないんだよ。もうどうしよーって時に君が現れたんだ。私も神に見放されてなかったってその時強く思ったよ。君の神通力は他のドリーマーの何倍もあるからね。ある程度なれたら夜にも戦おうよ。他の天使とかドリーマーもたくさんいるからさ。皆やっつけちゃってよ」

「えー、俺、あんまり知らない奴と会いたくねえな。気まずいし」

そして、アパートにつき、部屋に透けて入る。客観的にみると、俺の部屋めちゃくちゃ汚い。天使がどんな顔をしてるか気になり、ふと後ろに付いて来ている天使を見る。いつも通りの顔だ。そのまま寝室に入る。

グゴオオオ、ズゴオオオ

すごいいびきをしながらベッドで寝ている俺の姿があった。すっげえブサイクだ。こりゃモテねえわと思わず笑みがこぼれる。

「こいつに触ればいいんだっけ」

「うん。また朝の十時頃にここに来るよ。私がいなくても幽体になれるかも知れないけど絶対に動かないでね、危ないから」

「あー、分かった。じゃ、お休み、今日起きたらすぐ宝くじ買うから忘れんなよ」

「うん、大丈夫。任せといて!また明日!」

天使はニコニコしながら俺に手を振る。こいつよく見たらかわいい顔してんじゃねえか。俺は寝ているデブの顔に触れ、デブに吸い込まれていく。


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