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なろう主人公の孫  作者: 叫べチーズ
0章
2/42

-2- 幼馴染に騙された

「暇だ」


ライドはドアの修理をしながらぼやく。


「勢いに任せてセレスにはパーティーを組むような雰囲気になっちまったが…

あれ以来全く連絡がこない。アイツやっぱり酔った勢いで暴走しただけか…?」


三日前の一件以来、全く音沙汰ない幼馴染。

結局根負けし「一回だけお試しでいってやる!」と、上から目線の返答に対して彼女は

子供のように目を輝かせ喜んだ。

パーティメンバーに報告するから!と息巻いていたが結局のところどうなったのだろうか。


ライドは部屋の写真たてを起こす。

白髪に整えられた髭。とても冒険者とは思えない初老の男と、筋骨隆々の大男に挟まれ

満面の笑みを浮かべている子供。


伝説的な強さを誇った父と祖父。

祖父は異世界から召喚された使者だと言い、父はそんな祖父に憧れ鍛錬に励んだ。

祖父は個として圧倒的な強さ。

父は軍の長として。

多くの民に慕われ、勇者と謳われライドの誇りであった。


魔族の進行の要である最難のダンジョンと言われる「カオティックゲート」に踏み込み

次々に魔族を後退させ、人類軍の勝利と思われた矢先の戦死。

ライドが10歳の時であった。

当然自分も勇者を目指すと決めていたライドの心は意図もたやすく折れてしまった。


その日以来ライドは怠惰に、自堕落に過ごしはじめた。

人々も落胆し、それでも尚魔族に反逆する勢力としてギルドが抵抗をし数年が経過。

現在セレス率いるパーティー“ウィクトーリア”が40階まで人類軍を侵攻させることに成功。

攻防も一進一退を繰り返した。


「勇者の孫…ね」


祖父と父の残した手記には各階層の魔族の対策や攻略方法が記されている。


「ライド!」


バギャア!と鈍い音。

写真たてを眺めていたライドの背中に粉々になったドアの木片が突き刺さる。


「ぎゃあああああああああ!!」

「ライド!客だ!」

「お・ま・え・は~~~!!!」


リンをラリアットではったおし、サソリ固め。


「いちいちドアを壊すな~~~~~!!!!」

「あびゃあああああああああああああああ!!!」


「で、何の用だ」

「客だ、ライド。勇者だ」

「ん?ああ、遂に来たか」


破壊されたドアの木片をまとめ終わり、入口へと向かう。


「ライド」


後ろからリンの声がし、振り返る。


「なんだ」

「ダンジョンにいくのか?」


泣きそうなその顔を見て頭をかきながら


「ちげーよ。デェトだ。デェエト」

「なぬ!」


とキメ顔。

硬直したリンを笑いながら玄関へと速足で向かった。


「何がデートですか」

「聞こえてたのかよ…」


不機嫌そうなセレスが玄関で待ち構えていた。


「ちゃんとエスコートしてくれる気があるのなら私はデートでも構いませんけどぉ?」


ニヤニヤとからかうように彼女は言う。


「ほほぅ?じゃあエスコートしてやろう」

「ほえ!?」


ライドは彼女の手を引く。


「まずは賭場だろ?一儲けしてから風俗に…いや、風俗はまずいか」

「………」


セレスは白い目でライドを見つめ


「相変わらずですね…ライドは。少しでも期待した私が馬鹿でした。はぁ」

「なんだと?この俺様が女性を気遣えるとでも思ったのか。女性の気を使わないことに関しては

勇者レベルな自身があるね。はっはっは」

「私が勇者です」


不毛な会話を繰り返し歓楽街を抜ける。


「それで、どこに向かってるんだ」

「ギルドです。あなたを正式なパーティーメンバーにする手続きをします」

「うげ、ギルドか」

「どうせ借金してる冒険者でもたまってるのでしょう」

「そそそそんなことないし」

「はいはい」


手を引かれながら街を歩いていると

「勇者様だ」「男を連れているぞ」「男…なんだあれ、犬の散歩か?」などと

あらぬ噂話が広まる。

せめて恋人だとでも誤解してくれよとライドは悲しむ。


何故こんな冷たい目線が集まるのかと考えたが、ギルドへ行くのを嫌がった挙句首根っこを

引っ張られながら移動している様を客観的に見るに仕方がないかと思い涙を流した。


「ついたわよ」

「ライドオオオオオオオオオオォォォ!!!」

「うげ」


ギルドの二階からライドを視認するや否や窓から飛び降りライドの前に降りかかる影。


「お前の言ってた馬全っ然ダメじゃないっすかぁああ!!何が占い師だこの!!」


胸倉に掴まれ何度も何度も揺さぶられる。


「今は、俺は、探偵って、ことにおぼぼぼぼ」

「お前が!!絶対勝てる硬い勝負などと抜かすから!!よくも!!僕の!!前に!!!

……っておや、セレス様ではありませんか。ごきげんよう、どうしてこんな小汚いギルドなんかに?」

「え、ええ。ごきげんよう。ギルドはあなたのものではないような・・・それより離してあげたら…?」

「いいんですこんなヤツ!今月の有り金全てはたいたのに!!」

「俺はいっつも勝率七割って言ってるだろ!いっつもいっつも全額賭けるお前が悪い!

そんな賭け方いつか負けるだろ!」


取っ組み合いの喧嘩に発展し、30分が経過する。


「ハァ…ハァ…無駄にタフな奴め…いくぞ」

「よいのですか…?あの方ピクリとも動かなくなりましたが」

「魔術師のくせに取っ組み合いなんてするからだ。アホはほっとけ」

「ところであの方はいったいどなただったのでしょう・・・?」

「え、お前顔見知りじゃなかったの?」


ライドに衝撃が走る。


「何度かお会いした気はするのですが・・・

近頃勇者なんて肩書きが付いてから関わる人が多くて・・・」

「そ、そうか・・・アイツはシルバータグの魔術師、ライトニングだよ」


ついでにセレス一筋二十云年生きてそれなりにアプローチもしているはずだったのだが

一切認知されていないようなのでそっとその情報を心の引き出しにしまいなおした。


「強く生きろよ・・・」


ギルドに入ると、やはりセレスに視線が集まる。


「勇者だ」「セレス様・・・今日も麗しい」「なんだあの小汚い男は」「ライド死ね」

「オイ!誰だ今名指しで俺をディスったやつ!表でろ!」

「いいから、早く来なさい」


襟首をつかまれギルド受付前の椅子に無理やり座らされる。


「あら、ライドじゃない。ついに姫に絆されたのね」

「見ろ、この手を。俺が望んでここにいると思うか?」

「ふふ、ノーコメントで」

「リリーナ、いいからパーティー申請書を頂戴」

「はいはい」


リリーナとよばれた眼鏡をかけた小人族の女性がせわしなく

動き回るほかの職員の波をかきわけながら書類を取りに行く。


「小人族だからよけい忙しそうに見えるな」

「人種差別ですよ、それ」


小人族は大柄であっても145センチ程であった、その中でもリリーナは平均的な身長の

120センチほど、何も知らないものが見ると子供が事務所の邪魔をしているようにしか見えない。


「パーティーに入ると入ったが俺冒険者登録なんてしてないぞ」

「ふふん、代理の申請はもう済ませてありますから」


数秒の沈黙。


「はぁ!?俺印もなにも押してないぞ!」

「あんな盗ってくださいと言わんばかりの家・・・おっと」

「お前!勝手に持ち出したな!いやまて、ヤバイ契約とか結ばれてないだろうな・・・」

「失礼ですね変な心配しなくて結構です。パーティー参加に必要な契約回りだけですよ」

「どうりで三日うちに来ないわけだ・・・」


セレスの用意周到さに絶句。

リリーナがニコニコ満面の笑みを浮かべ目の前の席へと着く。


「はい、パーティー参加申請書のサインお願いしまーす!」


諦めながらライドはサインをすると手首に青い光が走る。


「ようこそ、パーティー“ウィクトーリア”へ!」


三日前のような満面の笑みのセレスにライドはげんなりとした表情で

無事パーティーへの参加処理が済んでしまった。


「さて、契約おめでとうございます。ライドさんにはお渡しするものが

た~くさんございまして」


酒場で会うときなどでは想像ができない形式上の敬語になった

リリーナに違和感を覚えながら話を聞く。

先ほど契約書の隣にドッチャリと置いた書類をそのまま渡してくる。


「えーっとダンジョン攻略含め、クエストでの誓約書は・・・ああ、サインもう頂いてるので

基本頂いた書類の返還ですね」

「オイ!まて、誓約書って俺が死んでもギルド恨みませんとかの書類だよね!

バッチリ恨む自信あんぞコラ!」

「ライド、うるさいですよ」

「ええええ!?いや、お前が元凶でしょ!」


二人のの非常識さに脱帽。


「ああ、これですね。まずライドさんにブロンズタグをお渡ししますね。

これは説明しなくても多分お分かりですよね」

「ええ・・・そこ無視するんですか、お前ら・・・少なくともリリーナは役人だろ・・・。」

「じゃあお馬鹿なライドさんのために説明してあげますね」

「俺の話聞いてる?」


二人の非常さに絶望。


「タグにはブロンズ、シルバー、ゴールドの三種類があります。あ、ゴールドといっても本物の

金でできてるわけじゃないですからね。だからライドさんはくれぐれも質に入れないようおねがいします」

「大丈夫です。そんなことしたら私が斬りますから」


ニコっ!と笑みを浮かべ鯉口を鳴らす。


「コイツら怖いよ・・・帰りてえよお・・・」

「クエストやダンジョン攻略をするごとにギルド側で評価点を管理しているのでそれに応じた

レベルの更新とタグの更新をしてあげます!なので依頼やダンジョン攻略が終わったらレポートと

タグを毎回持ってきてくださいね」

「めんどくさっ・・・冒険者ってそんなことしてたのかよ・・・それに、ギルドが管理してるって

ギルドにゴマする案件ばっかこなしてる奴のほうが評価いいんじゃねーの?」


リリーナが小さく顔をそらす。


「確かにそういう側面もありますけど、プータローのライドさんが気にすることじゃないです」

「俺は探て・・・もういいや。さいですか・・・」

「はい、ブロンズタグレベル1のライドさん」


リリーナの小さな手のひらに乗るタグを受け取る。


「ちゃんと首からかけておいてくださいね。それ見せないとダンジョン入れないので」

「へいへい」

「こら、言ってるそばからポケットにしまうじゃありません」


セレスに腕をつかまれる。


「俺金属肌に合わなくてさ・・・」

「じゃあその指輪は何ですか」


言い訳も当然一蹴。

首からタグをかけ


「もう行っていいか?」

「ダメです!うちのパーティーに紹介するんですから!」

「ふふ、ライドさん。ブロンズレベル1の冒険者がいきなり最上位パーティーに参画なんて大出世ですね。

昨日までのプータローが嘘のよう・・・ぷぷ」

「オイこら公僕、俺をプータローと呼ぶのを今すぐやめろ。逆卍固めしてやろうか」

「いいから、いきますよライド」


またもや首根っこをつかまれずりずりと引きずられる。


「覚えてろよ!リリー・・・ナー・・・!」


遠くからこだまするライドの声を聞きながらリリーナは仕事に戻った。


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