-2- ミスト VS マーリン 仁義なき戦い
マーリン、ミストは圧倒的な力でトーナメントを勝ち進む。
「オイオイ、アレ本当にブロンズタグか・・・?俺達夢でもみてるんじゃ・・・」
観客が動揺し、噂が一気に町中に広がり、様々な冒険者が、ただの新体育館に
集まる。
ライドの心中は鼻高々であった。
「ルーザーズ準決勝、ライド君。」
「はいはいっと」
その後、ライドは順調に勝ち星を拾い続けた。
「あれ?俺ソレントと当たるはずじゃ」
「彼女は辞退したよ、5位以上が決まってるからね」
「なんか釈然としないな」
「ええと、だから、君はウィナーズ決勝の負けた方とルーザーズ決勝をして・・・
勝っても負けてもシルバータグだ。おめでとう」
ソレントは気まずいのだろうか、結局顔も合わせていない。
ウィナーズ決勝を体育館のわきで見守る。
「では、ウィナーズ決勝戦、マーリン 対 ミスト・ブラックロープ・・・開始!」
開始の合図を無視、二人は動かない。
「前から聞きたかったんだけど・・・マーリン。お前はライドとどういう関係なんだ」
ミストが誰に聞かれようとも構わない、と大声で尋ねる。
「なんだ、藪から棒に」
「いいから!」
「ふふ、ふふふ」
マーリンが不気味に笑い始める。
「秘密だ」
「このっ!!」
ミストが矢を放つ。
その矢の軌道は、マーリンを追尾する。
「なんだあれ!?」
観客が驚き、どよめく。
そりゃそうだ。普通はさっきのソレント戦のように矢はまっすぐにしか飛ばない。
たとえ魔術の力を借りようともあそこまでしつこく追いかけるような軌道を描かない。
マーリンは転移魔術を繰り返し矢を壁へと誘う。
「ズルい!」
「結構疲れるんだがな」
マーリンの魔道書が鈍く光り。
五属性様々な下級魔術で矢を落としミストを狙う。
「邪魔だっ!」
ミストはローブを広げるとナイフが飛び出し魔術と相殺。
物理的なリソースの差を感じたのかミストはいきなり賭けの一手にでる。
「避けないでよね!」
空に一筋の光の矢を放つ。
その矢はどんとん複数の矢に分裂してゆく。
ミストの周りに停滞する。
「妖精よ、力を!」
先ほどの追尾矢とは異なりマーリンの動きを制限する意思を持ったかのように
絶え間なく付きまとい、動きを制限する。
「ふむ」
流石のマーリンも呪文を詠唱する隙もなく回避を強要される。
「これは・・・ルール的に有りなのかはわからないが・・・
ダメだったらダメだったときだ」
動きを止めると矢全てが彼女を捕らえ、襲う。
「やった!」
ミストが小さくガッツポーズをするも
しかし高速の呪文が聞こえる。
「ふせいでやがるぞ!」
「ま、そうだよね!」
観客の誰かが言った。
彼女は、周りに魔方陣が展開され、迫る矢を全て打ち落としていた。
しかし、ミストは、元より防がれる前提だったのだろう。
その遅れた一手の間に詠唱を始めている。
「【エンチャント】ウル・ウル・ウル」
詠唱を重ねるごとに彼女の周りに蔦が、草が、花が生え。
唱えるたびにミストの周りに突風が吹き荒れる。
「Ω最優の騎士」
マーリンの目の前に鎧騎士が立ち盾を構える。
圧倒的な暴風。
観客達は何かに捕まり、吹き飛ばされてゆく者も現れる。
「穿て!ウルズの矢!」
その目にも留まらぬ矢。
地面を抉り一撃必殺の威力を持ったその矢は真っ直ぐに放たれる。
「いっけえーーー!!」
何かが弾かれる音。
その音の正体は、矢をいともたやすく鎧騎士が弾き飛ばした音だった。
盾が着色料まみれになる。
「ウソぉ!」
まさかこの攻撃が通用しないと想定していなかったミストは
思い切り隙を晒し目を瞑る。
「-----------」
マーリンが何か呟いているが聞き取れない。
おそらく次の一手の呪文であろう。
「ミスト!無理するな!」
声をかけるも、届いていない。
「勝者、ミスト・ブラックロープ!」
沈黙。
そして、観客から大ブーイングが飛ぶ。
「何でだよ審判!」「無能!」「もっと見せろ!」
好き勝手騒ぎ始めた観客に審判は
「本人辞退により試合終了です」
と説明。
ライドはマーリンに走り寄る。
「どうしたんだ?」
「ちょっと・・・はしゃぎすぎたな」
マーリンはふらついたかと思えばライドにむかって倒れる。
「おい!大丈夫か・・・オイ!」
彼女はすぅすぅと寝息を立てていた。
「寝てる・・・」
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「いやぁ!皆シルバータグになっちゃって!めでたいめでたい!いでででででえ!!!」
ライトニングの顔面を握り締める。
マーリンをあの後寝かしつけ、辞退扱いとなったが、順位としては二位or三位の保留状態。
本来であればルーザーズ決勝をライドと行うべきなのだがシルバータグ昇格試験という
性質上五位以上が決定すれば良いので、その試合は中止となった。
よって、無事チーム“フェニクス”のメンバーは皆
シルバータグとなった。
「ところで、ライドさ。全員シルバータグにはなったけどこの後どうすんのさ」
「そうだなぁ・・・」
この一ヶ月で戦闘能力は最低限パーティーとして機能するようになった。
「とはいっても“カオティックゲート”にはまだ早いな」
「意外といけちゃうんじゃないの?ミストもマーリンさんもすげえ強いんだしさ」
「確かに低階層であれば何とかなるかもしれない。けど、最前線まで行こうとなれば
話はべつだ」
外から戻ってきたミストも話に加わり説明をする。
「“ウィクトーリア”の連中がどうやって40階層まで攻略を進めているか知っているか?」
「いや・・・?」
「まず40階層ってのは、到達するののに長けりゃ一カ月はかかる。」
「マジかよっ!そんなかかってたんだ・・・全然意識してなかった」
「そりゃそうだろ。あんな、たっかい塔に敵が目白押しなんだ。」
ライドが肩をすくめる。
「飯とかどうすんだよ」
「そのための補給部隊だ。あいつらは前線パーティー8~10名と雑魚敵排除に20~30名、補給部隊や
サポート部隊含めて合計100名以上で侵攻してるんだ。
各十階層ごとにいる強敵が一~三ヶ月に一度復活するから、その戦線を維持するのに毎月一度
くらいは侵攻している。それだけの体力・・・この場合金も体力のうちだが、それが必須なんだ」
「じゃあ僕達じゃ到底無理じゃねえか!」
ライトニングが絶望する。
ライドも当然同じ結論である。
「たとえ最前線に俺達がたどり着いたとして、補給を分けてもらえると思うか」
「僕なら絶対分けないね、攻略に困ってでもない限り」
「ああ、その通りだ。大金叩いても肉の一片すらわけてくれないだろうな」
「じゃあどうするんだよ、僕達も今からサポート部隊作るのか?」
「そんなことしてたら、何時までたっても攻略できないって。俺達が取る方法は・・・これだ」
ライドは一枚の紙を皆に見せた。