決意
3日後、正孝は屋上にいた
目の前には葵があぐらをかきながら座っていた
正孝は今重大な決断を迫られていた
ことの発端は30分前に遡る...
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正孝は葵との約束通り屋上に向かっていた
屋上の扉のノブを握り開けると暖かい風が正孝に吹き付けた
長い前髪が正孝の目に侵入しようとし、思わず目を瞑る
視界がはっきりとし正面を見ると葵がいた
葵は名取が屋上の扉を閉じたことを確認すると口を開いた
「この3日間で得た情報を伝える前にお前に聞こう」
「お前、生徒会長選挙に出てみないか?」
正孝は葵の問いに唖然呆然とし「え?」と答えた
「この3日間でやつらのやることが大体把握できた。やつらのトップ橋下ナツミを生徒会長にし、この十紋次学園の全権を握るつもりだ。」
「橋下ナツミが生徒会長になったらそれこそ終わりだ。やつらは真っ先に俺達を退学処分にするよう教師、そして生徒に訴えかけるだろう。そして確実に俺達は退学処分になる」
葵がここまで断言するには理由がある
私立十紋次学園は主に生徒の自主性を強く主張する傾向がある。それは特に生徒会という組織に特に顕著に現れやすい。実際その力を活かし例年生徒会は無茶とも言えるような企画やイベントを提案し実行してきた。
しかもその生徒会のトップである生徒会長には教師以上とも言われる絶対的権限を与えらるとも言われている。
「橋下ナツミの両親は資産家でな、多額の寄付金を学園に寄付しているらしい。橋下が教師から特別扱いを受けている理由がそれだ。あいつが生徒会長になれば誰もが逆らえないようなことになるだろう。文字通り暴君だな。」
葵は少し笑いを含めた言い方をした
正直笑い事ではない
「それを止めるため、というのもあるが俺達が退学処分にならないためには誰かがあいつの代わりに生徒会長にならなければならない」
そう言って葵は正孝に目線を向け真っ直ぐ見つめる
「俺が...やる意味はないはすだ...」
「バーカ、お前がやらなくちゃいけないことだ
そうすればお前は昔のお前を取り戻せる」
葵は少し口調を強めて正孝に言う
「だから...俺は。」
煮え切らない態度に苛つきを覚えた葵は正孝に詰め寄り胸ぐらを掴んだ
「いい加減にしろよ...お前が話さなくてもお前が昔どんな野郎だったかはお前の親友から聞いてんだよ、そいつに対して悪いとすら思わねえのかてめぇは!」
正孝はじっと目を向ける葵から目を背ける
「お前がやらなかったらお前以外だけじゃねぇ、他のやつらにまで迷惑がかかることくらいわかっているだろうが...」
葵は尚胸ぐらを掴む手の力を強め静かではあるが怒りのこもった口調で正孝に向けて話した
正孝はどうすることもできなかった
正孝は事件が起こりクラスから相手にされなくなって以来人からの視線が怖かった
そのため正孝はなるべく目立たないように今日まで過ごしてきた
周りが自分を相手にしないように自分も空気をよんで過ごしてきた
空気をよむことを今日でやめ、それを空気をよまず空気と戦えと言われているのだ
空気に逆らい空気と戦う、というのは果てのないものである
空気に勝つには、今流れている空気を変えなければいけないから。そんな馬鹿げたことを目の前にいる葵は提案しているのだ。
正孝は怖かった
「あの事件の時なにがあったのか、お前を支えてくれた親友に対して報いる気持ちくらいあるだろうが。」
その言葉を聞いて頭に浮かぶのは終の顔だった
終はクラスで相手にされてない自分に唯一接してくれた人物
それを自分のせいで退学処分に巻き込みたくはないと強く思った
「...やる」
「あ?聞こえねぇなぁ!」
葵は正孝の胸ぐらを掴む手を話し強く押した
「やってやる、絶対にやつらの思い通りにはさせない。だから協力してくれ」
その言葉を聞いた葵は歯を見せニヤリと笑った
屋上の扉越しに聞いていた終は誰にも気付かれずに屋上から立ち去った。その目には涙をうっすらと浮かべていた。