空気
俺の周囲には人が集まり笑顔が溢れていた
俺自信は無自覚ながら皆が笑顔いれる空間が好きで好きでたまらなかった
自分が皆を笑顔にしているのかもしれない、そう考えるだけで幸せだった
しかしその幸せは長くは続かなかった
高1の9月正孝がコンビニで万引きをしている動画が何者かによって学年中にばらまかれ俺の幸せは幕を閉じた
俺は無実を主張したが証拠が揃っている状況に教師陣はこれを否定、俺に2週間の休学を余儀なくされた
事件は明るみに出ることはなく解決するが俺の築いていた地位は崩れどん底に叩き落とされることになった。俺の周りからは人がどんどん離れ、1人になっていくのを感じた
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それから約半年2年生になった
俺はクラスの中心人物から一変、最底辺に落ちていた
思えば自分の周囲に人が集まりそれを見て楽しんでいたあの時、俺は無自覚ながら心の中で自分が下の者を笑っていたのかもしれない
周りのことを考えず空気を読まずに独善的にふるまっていたのかもしれない、それを考えると虫唾が走った
俺はあの時決めたのだ、自分で空気を作り周りを引っ張るんじゃない、それは空気の読めてない行動だと悟ったのだ。
俺は…
俺は…
もう空気を作ったりしない
空気を読んで生きてやる、とその日心に誓ったのだ
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あれから俺は空気を読んで生きていくため自分を変えることにした
髪型はスポーツ刈りから髪を伸ばし前髪が目にかかるほど伸ばした、眼鏡をかけ、マスクをつけて顔を隠すようにした
マスクをするとなんとなく自分が守られているような気がした
人と目を合わせることはなくなり人前で笑顔を見せることはなくなった、性格は意識していなかったが親友いわく壁を作るようになったらしい
そして他人のことに興味を持たなくなったと言われた、だがそれの方が自分が守られている気がして安心するのだと親友に言ったらそれ以上はなにも言わなかった
そんな俺は今も教科書を開き顔を隠している
時間は昼休み
周囲から聞こえる笑い声、正直耳障りだ
額に汗が浮かぶ。
汗は額だけでなく背中にまで出てきた
体が汗のせいで冷たくなっていく、冷や汗だ
周りから聞こえる笑い声がまるで正孝を笑っているのではないかと考えてしまう
自意識過剰と言われればそれで終わりだが、正孝には経験があった
それは休学を終えいつも通り学校に登校した日
教室に入ると明らかに空気がおかしかった
自分をチラチラ見ながら笑う周りの生徒達
クスクスと周りから聞こえ、悪口も聞こえてきていた
俺は味わったことのない感覚に襲われ、気付いたら逃げるように教室を飛び出していた
あれ以来正孝は他人の視線や笑い声に過敏に反応するようになってしまった
あの笑い声が視線が怖いのだ
今も感じる、明らかに正孝を指差し笑う周りのクラスメイト達、次第に周りからは悪口が聞こえてきた
「名取ってあいついつも・・・」「あいつ万引きしてた・・・」
怖い...怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
心の中が1つの感情で埋まった時、誰かが正孝の肩を叩いた
それは親友坂井終だった
「大丈夫か、正孝」
終は優しく正孝に話しかけ右手で肩を揺らす
正孝はコクッと小さく首を縦に振った
「昼休みだ、飯にしよう」
そう言って終は正孝の腕を掴み強引に引っ張って正孝を教室の外に連れ出したのだった
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心地いい風が正孝と終に当たる
終は正孝を屋上に連れてきていた
正孝の冷えた体に風が当たり汗が徐々に渇く感じがした
「お前大丈夫か、さっき辛そうだったぞ」
終はコンクリートでできた屋上の地面に座り込み正孝に訪ねる
「いや、なんでもないんだ。ただ…」
親友とはいえ終にはまだ伝えてないこともある
それが今起こったことだ
あの事件以来俺は人の視線に過敏に反応してしまうことを終には話していない
「ただ…助かった」
「そうか…なら良かった」
終は屋上から見える景色を眺めながら優しく微笑んだ
「そういえば、だな。またお前の書き込みが増えていた」
終は先ほどと違い少し厳しい顔をして口を開いた
書き込み、というのは正孝が万引き事件を起こしたことがとあるサイトに書き込まれたことだ
事件事態は学校内と万引きをした店だけで止めたので正孝が起こしたといわれている万引き事件のことが外に漏れることはないはずだった
しかしそのサイトには万引きをした状況、日にち、時間、万引きした商品など詳細に書かれていた
挙げ句の果てには、正孝の本名、生年月日、住所など個人情報が書かれ、事件事態が明るみに出てしまった
幸い学校側から見て大ごとにならずに済んだが正孝の個人情報がネット内で拡散されてしまったのだ
今回の書き込みは実に最後の更新日から5か月もたっていた
書き込み内容は正孝が万引きをしたと思われる店舗住所、そして以前削除されていた万引き動画だった
「これがもしまた学校側にバレでもしたら今度こそお前が退学にされるぞ」
「あぁ」
「今になってこの事件のことを書き込んだのかはわからん、ただこれ以上黙っていたらお前は…」
「わかってる、わかってるさ」
正孝の心臓の鼓動が早くなる
焦っているのが丸わかりだった
「俺はこれ以上黙って見ていられない。一緒に2人でお前がやってないことを証明するべきだ!」
終は強い口調で正孝に訴える
しかし正孝は口を閉じて俯いたままだった
正孝は怖いのだ、またあんな風に視線を向けられて陰口を言われるのが。
「これ以上黙っていたらお前は本当に終わってしまうかもしれない、俺もそれは嫌だ、だから一緒に解決しよう?な?」
終は正孝の肩を両手で揺らしながら問いかける
その時正孝の中で閉じ込めていた感情が一気に溢れ出してきた
「(そうだ、あいつらを、俺を陥れたやつらを見返すんだ)」
正孝はゆっくりと立ちあがり口を開いた
「やろう、やつらを見返すんだ、そして…」
「潰すんだ」
その日正孝は空気をよむことを、やめた