Love Communication
シーズ・ソー・×××「アバウト・ア・ガール(14)」の(1)と(2)の間のお話。(厳密に言うと、(1)→ムーンに投稿した幕間→今話→(2)です)
本編未読の方はスルーでお願いします。
前半は苦く、後半は砂糖吐く感じの意味なし、オチなし掌編です。
『なぁー、ギターの練習なんてこの辺にしてさぁー』
たどたどしいストロークを繰り返す右手を、隣で見ていた彼が突然掴んできた。アコースティックギターを抱えたまま、見上げた彼の笑顔はどこか歪んでいた。
本能的な恐怖を感じ、掴まれた手を振り解こうとするも更に力を込められる。さりげなく彼から一歩後ずさるが、後ずさった分だけ距離を詰められる。それに、二人掛けのソファーでは後ずさるにも限界がある。
『お前だってさー、男の部屋に上がり込むってことはさぁ、ちょっとは期待してたんだろぉー??』
『ち、ちが……』
『だって、オレ達付き合ってるし、別に問題ないじゃーん??』
付き合ってる、と言っても、まだたったの二週間だし――、そう言い逃れようとしたが、できなかった。
ローテーブルに散乱したものを床へ払いのけた時も、エイミーの腕からギターを奪い、その机上へ置いた時も、逃げようと思えば逃げられたのに。身動き一つできなかったし、我に返った時には、すでにソファーに押し倒されていた。
抵抗どころか声一つ上げられなかった。身体に触れられる度、恐怖と気持ち悪さが増す一方。どんなに触れても、声も身体も反応しないことに彼は酷く苛立っていた。只々、怖くて不快で痛いばかりの苦痛の一時。
『お前の身体さぁ、どっかおかしいんじゃねーのー??いくら初めてだからって、ここまでなんも感じないなんてさぁー。痛がるばっかでつまんねー』
確かに好きだった筈なのに、怖い、嫌だと感じる自分はおかしいのだろうか。
気持ちいい筈のことを苦痛にしか感じられない自分はおかしいのだろうか。
この先、誰が相手でも自分はこんな風に失望させてしまうのか。
相手を失望させたくない。自分も傷つきたくない。
肌を重ねて触れ合うなんて一生したくない。
別に、そんなことしなくたって充分生きていけるんだから――
「――って、思ってたんだけどな……」
「なんか言ったか??」
「んーん、ひとりごと。気にしないで」
隣で枕代わりに頭を支えてくれる、一見細いけれど固い腕、寝乱れて皺だらけのシーツの白さが薄闇にぼんやりと浮かんでいる。何か言いたげな薄い唇が開く前に、唇を重ねて言葉を塞ぐ。たったそれだけのことなのに、落ち着いた筈の熱が再び身体に宿っていく。
「……ね、もいっかい、して??」
「ダメだ」
「……やっぱり、私じゃ物足りない??」
「違う、そうじゃない。むしろ充分すぎるくらい充分だった」
「じゃあ、なんで……って、ぶっ!」
今度はエイミーが言葉を塞がれる番だった。
ただし、エイミーがしたようにではなく、抑え込まれるように胸に掻き抱かれたのだが。弾みで胸に鼻先をぶつけてしまい、さすっていると、聞こえるか聞こえないかの声で囁かれる。
「最初から飛ばして嫌われても困る」
「……アルフレッドになら何されても嫌わないよ」
「だから……!もういい……」
頭上から漏れたため息がエイミーの前髪を微かに揺らす。少し煙草の匂いがする。これもアルフレッドの一部だと思えば、ちっとも嫌じゃない。むしろ愛おしいとすら思えてくる。
もぞもぞと身じろぎして彼の腕が緩んだ隙に、もう一度唇を重ねる。今度は先程よりも長く深く。エイミーの肌同様、髪や背中を撫でる彼の掌も熱を帯びている気がする。
彼なら怖くなんてない。むしろ、初めて知った触れ合う悦びに身も心も溶けそうだ。
「ね、ダメ??」
「ダ・メ・だ」
殊更強調すると、アルフレッドは遂にベッドから起き上がって下着をさっさと穿いてしまった。
ちょっとしつこかった??と、ベッドから半身を起こして反省していると、パンツのボタンをかけながらアルフレッドは不敵に言い放った。
「慣れてきたら覚悟しとけよ」
「んなっ……」
あんまりにも自信満々な笑みを向けられたものだから、返す言葉に困ってただただ口をパクパク動かすしかなかった。
「あんなに人を煽っておいて顔が赤いぞ」
「そんなの言わなくてもいいよ!」
指摘された途端、一気に羞恥が込み上げてきた。アルフレッドがにやにや笑うのも恥ずかしくて。エイミーは、シーツを頭から被って何もかもを誤魔化すことにしたのだった。