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トガノカミ  作者: 新山流泉
1/1

第一閃:鳥籠

ようやくインターネット上に、自分の書いた作品をあげることができました!1話なのに長いのは、反応を見るために若干要素を詰め込む必要があったからです。ただ、それでも読みやすいように、漫画でいうネームのような軽い感じに仕上げたので、時間の無い方もスラスラ読めると思います。

トガノカミをどうぞお楽しみください!!

 この世界は正しい。神人(カンビト)によって正しい導きを受けているから。人間は自分たちだけでは生きていけない。神人あって初めて繁栄することができる。神人は人間なんかには出来ないことを平気で成し遂げる。まさしく"神"に近いから神人と呼ばれるようになったと施設の先生に聞いたことがある。 

 しかし、この世界にはテロリストが多く存在する。神人に従っていれば、幸せな生活が待っているというのに。神人に逆らう者たち。

 神人に逆らう…まさしく罪だ。そう…"咎"だ。 

 僕たちは神人のために戦わなければならない。自分たちで解決しないといけない。

 同じ人間として。責任を取らなければならないのだ。

 人類がこの先生きるためにも、自分の幸せのためにも汚点を排除しなければならない。神人に見捨てられないためにも。強くある必要があるのだ。

 今日はセレモニーの日。ここイムサユフ連サアオオ市にある僕たちの通う軍事高校にイムサユフ連管轄最高責任者のイレル・グラッセが来ている。僕はその警護班にいる。警護班といっても、それは所詮学校が用意したもので、イレル・グラッセの周りには当然SPだの何だのと、プロの警護が付いてるし、会場にしたってもちろんプロの警護集団がいた。軍隊の人たちもいる。あとは、賑わう観客。この会場は神人と人間で会場が埋め尽くされていた。

 「あっちいなあ」

 そう言いながら隣で大欠伸をするのは、僕の親友である瀬古(せこ)竜樹(たつき)だ。

 「セレモニー中だよ?欠伸なんか先生に見られたら罰食らうよ」

 僕はズレた眼鏡の位置を指で直し、辺りを見回した。

 「まあまあ、こんなに人がいるんだぜ?見られない見られない」

 あまりのお気楽に溜息を吐いてしまう。しかし、この気楽さこそ龍樹のいいところでもあるのだが。

 「それにしても…すごいよなあ」

 「何が?」

 龍樹はそんなの言わなくてもわかるだろと言いたげな表情で返す。

 「この熱狂的なセレモニーのことに決まってんだろ!さすがイレル様」

 神人の中でもさらに偉い管轄メンバーの神人。この国のトップに各連を任された47人。しかし、知っているのは人数だけで、他の連管轄最高責任者のことを僕らは知らない。人間は自分の住む連から出てはいけないという法があるからだ。子供の頃は皆、どうしてなのか?と疑問を抱く。好奇心というもののせいか。しかし、大人はその問いには必ずこう返す。"神人に従っていれば幸せになれるのだから気にするな"と。僕は疑問を口に出すことこそ無くなったが、未だにその疑問をしてることができない。なぜこうも管理されているのか、という疑問を。

 「イレル様はいつ見ても偉大だよな……お守りするためにも、ガンガン修練しないとな!」

 龍樹がやる気に満ち溢れた表情でそういうので、僕はそうだねと作り笑顔を浮かべて返した。

 そんな中、事件は起きる。

 「おいコラガキ!!どこ見て歩いてんだクソが!!!」

 賑やかだったセレモニーの中で、観客たちがガヤガヤと戸惑いの音を見せ始める。

 「なんだなんだ?」

 怒鳴り声のした方に目を向けると、そこには泣いている子供と犬の顔をした神人がいた。

 ガヤガヤとしたのも束の間、原因を理解すると観客たちは元通り賑やかなセレモニーに溶け込んでいった。

 原因。

 "神人に子供がぶつかった"

 神人にぶつかり怒らせたならこうなっても当然だと言わんばかりに、この世界は非情でできている。

 「ごめんなさい!ごめんなさい!!」

 多くの観客たちが意識をセレモニーに戻す中、僕の意識はまだそちらに向いていた。

 子供は必死に謝っていた。許してもらえなければ、どうなるか知っていたからだろうか。

 「おいガキィ!これはなんだ?神人様に対する反逆かぁ??んん?咎人(トガビト)送りにしてやろうか?ああ!?」

 "咎人送り" 

 この世界では罪を。咎を犯すと咎人送りにされる。咎を犯した人間は咎人という化物に変えられ、テロリストとの戦いなどで各々の国や連の軍事力として使われるのだ。一生。死ぬまで。

 授業で咎人をまじかで見たことがあるが、本当に気持ち悪いという印象しか残らなかった。血肉が浮き出ていて、理性もなく、ただの生きた屍。まるで映画の中に出てくるゾンビみたいな感じだ。そんな咎人にならないよう、僕らは罪を犯さないよう、咎を背負わないように正しく生きる必要があった。

 「ごめんなざいごめんなっざい!ごめんなさえ!!」

 呂律(ろれつ)もろくに回らないぐらい必死に、泣きながら謝る子供に犬面の神人は容赦なかった。こんな状況がすぐ近くにあるというのに、誰も助けないどころか目もくれない。まるで今起こってることが当たり前のことのように。これが普通なのだろうか。この世界はどこかおかしい。といっても、僕自身何かができるわけではないが。

 「ごめんなさいしか言えねえのかよ!このクソガキがっ!!」

 ヒュッ!!

 神人がなく子供を殴ろうとしたその刹那。

 パンッっという乾いた音が響く。

 神人の拳が子供に届くことはなかった。神人の拳を抑える掌。

 「やめてくださいよ!この子、謝ってるじゃないですか!?」

 泣いている子供の前に立ち塞がり、目の前の犬面の神人を睨みつける少女。彼女は僕と同じクラスの満葉(みちば)カレンだ。

 起こり得ないはずのアクシデントに再び会場がざわつき始め、観客たちの視線はカレンに集まる。

 「なんだその目は?そしてなんだお前は?これは反逆だよなぁ…?邪魔してんじゃねえぞ!!!」

 やばい。これ以上の騒ぎになると、おそらく彼女は本当に反逆罪として咎人送りにされてしまう。

 そう思った僕の体は、意図せずに動き始めた。

 「すみません!」

 「誰だお前は?」

 気が付くと僕はいつの間にか彼女と子供を庇うような形で神人の前に立ち塞がってしまっていた。

 どうしようどうしようどうしよう!!!

 「お前も邪魔すんのか?あぁ?」

 必死に何かを話そうとするも、何も頭に浮かばない。考えるという脳の部分が鎖で縛られているような感じだ。

 汗で眼鏡がズレる。

 「あっ、あっ、あ、あ」

 んんんんんんんんんんんんんっ!!!何か言え僕!!!!

 「あの!!この度は、僕のクラスメイトがこのような大それた行動を取ってしまい本当に申し訳ございません!!!以後、このような事を決してさせないよう私から注意しておきます!!本当にすみませんでした!!!!!!!!!」 

 そう叫び、カレンの手を取りダッシュでその場から逃げる。 

 「ちょっ!ちょっと!!」

 「はっ!はぁっ!」

 僕たちは会場に言い知れぬ何かを残し、その場から姿を消した。 

 「…………」

 観客の一人が僕らのことを見つめていたことに僕らは気が付いていなかった。この後、この人物と僕がこの世界で大きなことをしでかすことになるだなんて、この時の僕に言っても信じやしなかっただろう。



 会場から遠ざかり、教室まで辿り着いた僕はようやく足を止める。

 「はぁっ、はぁ、はぁ」

 「はっ、はっ、はぁっ…何すんのよ!」

 カレンは僕を睨みつける。

 だから僕も強く言い返した。

 「こっちのセリフだよ!!何してんだよ!!神人に盾突くなんて!しかもこんなセレモニーの最中に!!咎人送りになったらどうすんだ!!!!」

 「そんなのどうでもいい!あなただって見たでしょ!あの子供!!泣いてた!あのままだったら殺されてたかもしれない!!もっと酷い目にあったかもしれない!!そんなの間違ってる!!」

 僕は言葉に詰まった。確かにその通りなのだ。あの子は殺されたとしてもおかしくなかった。

 神人が咎人送りにされることはない。彼らは罪を、咎を背負うことはないのだ。例え何をしても。例外はあるが、それは神人同士の話。しかし、例えば神人が神人を殺しても、牢屋に入れられるだけで終わる。そういうものなのだ。普段神人が人間を殺したりしないのは、そんな事を繰り返せば神人が人間にとっての神のような存在ではならなくなるからだろう。

 「でも…」

 やっと出た言葉が"でも…"。

 これ以上の言葉はもう出なかった。

 そんな情けない僕を見て彼女は言う。

 「ごめんね…わかってるのよ……あなたが私のことを心配してくれてるのは…それはありがとう」

 視線を斜めに下げ続ける彼女を僕は見つめる。

 「それでも私はあの子を助けずにいられなかったの…今となっては…助けられたかどうかもわからないけど……」

 …………僕は最低かな?それでも…君が無事で良かった。

 と、その時だった。教室の扉を勢いよく開ける音。

 「コラー!!!満葉カレン!!そして、斗柄(とがら)(れん)!貴様ら、さっきのあれはなんだ!?」

 入ってきたのは俺達の学年の軍事教官である踏標(ふみしべ)だ。

 「神人に逆らうような真似して!!なんのつもりだ!?」

 「あ、あれは…」

 言葉に詰まる僕を押しのけるようにカレンは答える。

 「あれは子供を助けるためです」

 「!?」

 言っていいのか…??神人より人間を優先することなんてありえないこの世界で、子供のためだなんて……!!

 「こどもぉ…?」

 「はい、あの場で助けなければ殺されていた可能性もありますよね」

 「ふざけるなぁ!!そんなの殺される子供が悪いだろうが!!!!とにかく罰としてお前は停学2週間!それから今日は武器庫の掃除だ!斗柄!!お前も武器庫の掃除だ!!」

   


 今日は厄日か…?でもまあとりあえずでも、カレンが助かってよかったと少しホッとしている自分がいた。

 僕たちは踏標教官に言われた通り、武器庫の掃除をしている。

 「…………」

 「…………」

 お互い静寂を守り、ただただ掃除をしていた。

 き、気まずい……。

 そんな中、静寂を打ち破ったのはカレン。

 「ねえ…斗柄くんは…今の世界の状況が間違っていると思わない…?」

 世界の状況…?

 「神人と人間…どうして差別があるんだろう?そりゃあ、神人が人間を導いてきたのは知っているけど……でも……これじゃまるで奴隷(どれい)だよ……籠の中の鳥みたい……ううん、籠の中の鳥の方が傷つけられない分マシだよ………」

 奴隷……。確かに、そう思うことはある。導いてくれたというのは、確かなんだ。歴史が証明している。しかし、それにしても格差が凄すぎる。神人が関わる問題には、人権なんてものはないに等しくなる。でも……逆らってしまったら…………。いや。そもそも神人を、人類を導いてくれた存在を崇めるのは当然だし、今が普通で、正しいんじゃないか?いや、でも……。

 「……僕も…そう…思う……」

 「……!………そっか…よかったよ」

 「よかった?って??」

 「今の世の中、みんなが当たり前のように神人のために生きてるじゃない?私はそれが嫌なの」

 衝撃発言だ。そんなの誰かに聞かれたら、真っ先にテロリスト思考を疑われて、咎人送りにされてもおかしくない程に。

 「私ね?いつか必ず、人間も自由に生きられる社会を作りたい」

 「人間も自由な社会…?」

 「そう!神人のためだけでなくてさ、自分のしたいこと…例えば……ケーキを作ったり、バイクでレースしたり、スポーツを訓練のためじゃなくて…なんだろ、大会みたいな感じでやったりさ?自分のしたいことができる社会にしたい!仕事も遊びも含めて全部!!!」

 「平等ってこと?」

 「うーん、まあそうなるかな」

 平等…人間と神人の平等なんて、できるわけない。

 「確かにさ、できるわけないことなんだよ」 

 「!?」

 心の中を読まれたのかと一瞬驚いてしまった。

 「どうしたの?」 

 「なんでもない…続けて」

 「どんなに難しくて傷つくイバラの道も、切り開いていけるのは自分だけ……ハサミはいろいろなことができて、人を傷つけたりもできるけど……私は、ハサミをイバラを切り進むために使いたい」

 "イバラの道"なんて生半可なものではない。それぐらい、人間と神人の平等は難しいのだ。まず、人間は神人無しでは生きられないわけだし…。

 「……すごいね…カレンさんは」

 「……そんなことないよ…結局今日だって助けられたかわからないし」

 「それでもすごいよ…きっと…カレンさんなら成し遂げられると思うな」

 あれ?僕何言ってるんだろ…こんなこと、誰かに聞かれでもしたらまずいし何よりそんなこと成し遂げられるわけ……?

 カレンは驚いたように目を丸くしている。

 「……ありがと…びっくりしたよ」 

 「なんで?」

 「斗柄くんにそんなこと言われるなんて思わなかった……神人絶対主義に逆らえないと思ってた」

 なんか…ひどいこと言われてるような気がする。

 「それに…」

 「…?」

 「それに斗柄くんって中に自分を隠してそうだなって思っていたから」

 「僕…そんなふうに見える?」

 「うん…見える」

 うう…見えるんかい

 僕が口元を突き出し、少しいじける素振りを見せると、カレンがフフッと笑う。

 釣られて気が抜けたのか、僕も肩の力が抜けて笑った。

 カレンの笑った顔…久しぶりに見たような気がする。笑うとエクボができて、すごいかわいいんだよね……。

 「少しトイレ行ってくるね」

 恥ずかしそうな顔をしてそう言い、カレンは武器庫を出た。

 ……あの顔もかわいい…。僕は一人でニヤニヤして、鼻歌なんかを歌いながら手に握っている箒をさっそうと掃く。

 幸せは手に入れるのは難しいのに、なくなるのは一瞬だ。

 僕たちの時間は終わりを告げた。一瞬で。

 武器庫のドアを開ける音。振り向いた先に現れたのは…。

 「おい、銃あるか?」

 ボロボロの子供を引きずっているワニ顔の神人だった。

 


 テロリストとの戦いや、病気や事故などで怪我をして神人の役に立てなくなった人間は"役立たず"と呼ばれた。

 役立たずの人間、またその家族がその役立たずになった人以外に神人のために動いている、動ける人間がいない場合、その家族も役立たずとして扱われる。

 役立たずは基本的に神人の道具として扱われた。うさを晴らしたいときなどに殴られたり、ひどいときは殺されたりした。

 「こいつはもう飽きたから殺す…最後は銃で脳みそを弾けさせたいから銃をよこせ」

 だらりとして、少しの動きも見せない子供。体の至るところから血がにじみ、抉れた傷もちらほら見ることができた。

 僕はその光景を見て、息を呑んだ。

 「おい?早くよこせ」

 「あ、はっ、はい……」

 冷や汗が背中をたらりと落ちる。

 ど、どうすれば…こんなの……。こんなの…仕方ないよね。僕が殺され…。

 目に入る子供の姿。思考が止まる。

 唯一、一瞬でも頭に浮かんだのは、先程のカレンの言葉だった。

 「イバラ…」

 「あ?何言ってんださっさとしろよ」

 僕は何もできず突っ立っているだけだった。それしかできなかった。

 「早くしろよ…咎人送りにされたいか?」 

 「!!」

 その一言でビクッと全身が震え、視線が銃にいく。

 「よこせ」

 ……仕方ない仕方ない仕方ない…。

 "仕方ない"そう言い聞かせ、銃に手を伸ばそうとしたときだ。

 「た…助けて」

 「!?」

 意識が戻ったのか、もともと意識は残っていたのか定かではないが、聞こえたのだ。聞こえてしまったのだ。子供の助けを求める精一杯の声が。

 「おい!うるせえぞガキ!!」

 ドンッという鈍い音が響く。ワニ顔の神人が子供を思い切り蹴ったのだ。

 ドクンドクンドクン…。

 心臓の音がこれでもかと言うほど耳に入ってくる。

 どうする渡せやめろ助けろどうする仕方ない逃げろどうする渡せ早くどうすればやめろやめろ助けて逃げないでどうしたらいいんだ!!!!!!!!!!

 「やめてください!」

 「!!」

 その時神人の後ろ側から聞こえたのはカレンの声だった。

 「その子をここに置いていってはいただけないでしょうか?」

 流れる時間。時の静寂。ワニ顔の神人は何かを考えているようだ。

 「お願いします……その子をここに置いていってください…!!」

 いけると思ったのか声のトーンを抑え、でも声に力を残しもう一度頼み込むカレン。

 いけるのか?この子を殺そうとしてた神人が…?

 「お前か…」

 「はい?」

 「??」

 お前?なんのことだろう…?

 「お前だろ?セレモニーで神人に盾突いた人間って」

 そう言い終わった瞬間だ。

 「!?」

 バンっという音と共にワニ顔の神人はカレンを押し倒した。

 側に掛けてあった銃が、衝撃で床に落ちる。

 「はぁはぁ…なら人間への示しとか関係ないよな…?」

 そう言いながらカレンの履いているズボンを脱がそうとするワニ顔の神人。

 「やめっ…!!」

 ああ…まただ…。

 放り投げられ、倒れている子供。ワニ顔の神人に犯されそうになっているカレン。そして、悪魔のような神人。

 「……やめっ……って!!!」

 「はぁはぁ」

 必死の抵抗も虚しく、ズボンを脱がされてしまう。

 「いやぁっ!!!」

 僕は……なにやって…。助けなきゃ………。でも…仕方ないよね…………。

 "どんなに難しくて傷つくイバラの道も、切り開いていけるのは自分だけ……ハサミはいろいろなことができて、人を傷つけたりもできるけど……私は、ハサミをイバラを切り進むために使いたい"

 イバラの…道……。

 気がつくと僕はワニ顔の神人をカレンから引き剥がそうとしていた。

 「!?」

 あれっ!??

 「やめろっ!クソガキ!!!!!」 

 「ぐうっ!!」

 ぶん殴られ、吹き飛んでしまう。奇跡的に眼鏡は顔から離れないでくれた。

 その一瞬が、生死を分けたと言ってもいいだろう。

 ゴンッという鈍い音が武器庫に響く。

 「ごああぁぁ!!」

 ワニ顔の神人が頭を抑えて仰け反っている。

 どうやらカレンが側に落ちていた銃を使ってワニ顔の神人の頭を殴りつけたみたいだ。だが…。

 「クソが…ぶっ殺してやる!!」

 頭を殴りつけただけでは…その時しのぎにしかならない。

 「殺してやる殺してやる殺してやる!!!!!」

 頭から血を流しながらカレンの元に向かい始めたワニ顔の神人。

 「止まって!!」

 銃口を向けるも、ワニ顔の神人の足は止まらない。

 どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?どうする!?

 「あ……はっ……はぁっ………う、撃てええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!」

 今叫んだの誰だ?

 ドンッ。

 今のは…銃声か?

 目の前に広がるのはただ一色"白"がある世界。

 ここは…?一体何が…??

 キーーーーーンという音ともに、頭に強烈な痛みが走る。

 う……ううっ!!!!!

 「はっ!!」

 知らない間に倒れていたようだ。

 一体何があっ………。

 視界の端に映った赤い"それ"。

 眼鏡がいつの間にか落ちたのか、視界がぼやけてよく見えない。

 「眼鏡…眼鏡……」

 すぐ後ろにあった眼鏡をかけ、もう1度赤い"それ"を見る。

 それは…血だった。

 !!!!?

 うっ…頭が痛い……そうだ…カレンは…??あのワニ顔の神人は?子供は?どうなった??何があった??

 頭の痛みを堪え、立ち上がった目前に広がった世界は……

 "残酷"だった。

 血だらけのカレンが立ち尽くし、その前に転がっていたのは…もはや生物の形をしておらず、それは肉片と呼ぶに相応しかった。

 「……カレン……??」

 呼び掛けても、答えはない。それどころか僅かな反応すらなかった。

 体を揺すると、やっとカレンはハッとして、反応を見せる。

 「え……?私…何をし……」

 言いかけて彼女は気付く。自身の目の前の光景に。

 「あっ…あっ…え……あ、あ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」

 カレンは悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちる。

 かける言葉が見つからなかった。

 「誰だ!?何してる!?」 

 銃声を聞きつけたのか、先生と数人の生徒が武器庫に入ってきた。

 


 【3週間後】

 僕は宿舎のベッドに包まっている。

 3週間前、風蔵(かざくら)先生に発見され、カレンと僕は生徒指導室に連れて行かれた。

 そこでカレンは僕を一切無関係だと言い切り、僕は何も言えずそのまま彼女に助けられる形で僕は無関係扱いとなった。僕だって撃てと叫んだりしたのに…。

 そして、彼女はその後警察の取り調べを受け、咎人送りにされてしまった。

 もうそれから10日が経つ…。

 咎人送りは1ヶ月に一度、イムサユフ連の一番栄えている都市、マヤルマ市で行われると聞いたことがある。行われるのは4週目の日曜日。だとすると…残りはあと10日といったところだろうか。

 僕のせいだ。僕が…あの時撃てと言わなければ…彼女は撃たなかったのではないか?撃てなかったのではないだろうか。

 撃つにしても、何もないところを撃てば先生方が駆けつけてきて、咎人送りにはならなかったんじゃないか?

 それに…僕は決して無関係なんかじゃないのに……。

 僕のせいだ………。

 助けに行くか?どうやって?

 万が一、その方法があったとしても行くのか?助けに?

 それをしてバレたときには間違いなく僕も咎人送りにされてしまうだろう。

 いいのか?嫌だ。嫌だ。嫌だよ。怖い。

 せっかく彼女が庇ってくれたんだ。このまま黙っていよう。

 第一…施設のみんなはどうなるんだ?

 でも…助けなくていいのか?彼女…咎人にされるんだぞ?

 けれどいいのか?助けに行っていいのか?全てを捨てる覚悟なんてあるのか?(お前)に。

 どうすれば……。

 何気なく腕についている携帯の電源を入れ、テレビアプリを開く。

 「本日未明、イムサユフ連マヤルマ市でA級テロリスト団体"鳥籠"のメンバーが2人確認されました。男、女各1名で、目的は不明。見かけた場合は即警察にご連絡ください。それでは、次の〜」

 やっていたのはテロリストに侵入されたという内容のニュースだった。

 咎人送りが執行される場所がある町。僕の住むサアオオ市からもそう遠いところではない。

 もしかしたら…この人たちに頼めば…僕のことはバレずに助けられるんじゃないか?

 A級テロリスト団体"鳥籠"。確か少数精鋭のテロリスト団体だったか。

 いや、でも…信用できるか?

 しかし、カレンはこの先助かったとしても、この世界で生きていくには…テロリスト団体に入る…しかない。

 そうだとするのならば…彼らに頼む価値はある。

 僕がこのまま生きていける、かつカレンも助かる唯一の方法だった。

 その時、

 「おーい、飯行こうぜ!また食わないつもりだろ?」

 声のした方に顔を向ける。

 そこにいたのは思った通り龍樹だ。

 「いいよ…行かない……行きたくない……」

 「……まあまあ、でもな?食わないと体に悪いぜ?」

 「………食欲ない…」

 「あの現場にいたんだもんな、そりゃ仕方ないよ…でも、お前ここんとこ何も食べてないだろ」

 「………」

 その通りだった。僕はここ数日何も口にしていない。とうに限界を迎えていてもおかしくはなかったが、それでも何かを口に入れようという気にはとてもなれなかった。

 「……わかった………」

 やっと諦めたか。そう思ったんだが。

 ベッドの上にあがってきて、体に見合わない腕力で、あろうことか僕をお姫様抱っこなんてして。

 「行くぞ!友よ!!いざ!!食堂へ!!!」

 「おいっ!ちょっ、ちょっと!!」

 結局僕は食堂へ連れて行かれた。



 「あのな」

 僕の目の前にはうどん定食。と、説教モードに入っている龍樹がいた。

 「ご飯はエネルギーの元なんだぞ!?食わないと死んじゃうんだぞ!?」

 出た。龍樹の"だぞ!?"攻撃。

 「まったく蓮ときたらこれだもんな…何かあるんだろ?思い詰めてることがさ」

 「…!!」

 龍樹は昔からこういうところは誰よりも鋭かった。

 「俺たち親友だろ?俺ならいつでも相談乗るからさ、いつでも言えるときに来いよな…」

 そう言って笑顔をみせる龍樹。龍樹は説教モードの後、必ず優しくしてくれた。アメとムチってやつだろうか?ううん、冗談だ。

 「ありがとう」

 僕も作り笑顔を浮かべて返す。

 「……おうよ」 

 一瞬龍樹の笑顔が寂しげに映ったが、僕の気のせいだろうな。

 「最近は妹のやつといい、お前んとこの施設の子供もメールで俺に相談してくる始末でよ……どうやら俺の相談の乗り方が天才的らしい……」

 施設か…懐かしいな。寮が空いてない夏休みと冬休みしか帰れないけど、家族が物心つく前に既に死んでいる僕にとっては施設の人たちが家族みたいなものだった。

 早く帰りたいな…みんなどうしてるかな……。

 と、そこで龍樹が僕の肩を叩く。

 「何…?」

 「俺の天才トークを無視したから飯代、蓮の奢りな」

 「なんで!!」

 笑う龍樹に釣られてか、僕の口からもふふっという音が溢れた。

 ありがとう。龍樹。

 もしかしたらもう戻れないかもしれない。死ぬかもしれない。

 けれど…覚悟が決まった。助けに行く覚悟が。命を……賭ける覚悟が。

  


 【8日後】 

 「はぁ…」

 ホテルのベッドで寝転がり溜息をつく。

 もう外は暗くなっていた。

 学校に欠席届けを出して彷徨うこと8日。収穫は0だった。

 テロリストが泊まっても大丈夫そうな人気のない場所にあるホテルを選び、8日間歩いて歩いて歩き回った。

 しかし…わかっているのは男と女が1人づついるということだけ。

 最初からこの計画には無理があったのだ。

 もしかしたらまだいるかもしれない。が、しかしもう既にこの街にいないかもしれない。

 未だに何の痕跡も見つかっていない。

 焦りや不安が込み上げてくる。

 あと2日………。カレン……。

 カレン。

 ……………探そう。

 そう決意し、部屋を出たその瞬間だった。

 ドンッ。 

 「ぐふっ!!」

 何かにぶつかり、室内に吹き飛ばされ、尻餅をついてしまう。

 「痛てててててて…なんだよ……?」

 「ごめんね!大丈夫?」

 そう言いながら手を差し伸ばしてきたのは、優男感溢れる眼鏡をかけてスーツを着ている長身の…髪がボサボサな男だった。

 「ありがとうございます……こちらこそすみません」

 「怪我はない?」

 「はい…大丈夫です」

 こんなところに…僕以外に人がいたなんて知らなかった。 

 よくよく見ると、彼の後ろには女の子が1人立っていた。

 「じゃあ…そろそろ行くね」

 そう言い、僕の横を過ぎ去っていく。が、女の子が僕の横を通り過ぎようとした時、こちらを見ながら大きく目を見開いたのだ。

 「あ!あの時の!!………あ」

 女の子は言い終わってすぐやっちまったといった顔をした。

 男の人もやれやれといった仕草をしている。

 "あの時の?"

 「え?なんですか…?あの時のって…」

 「あ、あー…何でもない気のせい気のせい♪」

 誤魔化そうとしているのか口笛を吹き始める少女。

 全然誤魔化せてない…。

 「あの…あの時のって僕たちどこかでお会いしましたか?」

 「……」

 「……」

 2人はしばらく顔を見合わせ、やがてうんと頷いた。

 「少し部屋に戻ろうか」



 彼らが泊まっていた部屋のソファに座り、差し出された缶コーヒーを飲む。

 「あ、あー。僕たちはね…あの…実は……」

 「君たちでいうとこのテロリストってやつだよ」

 「!?」

 テロリスト…!?ということはもしかして…?

 「鳥籠…?」

 「やっぱり知ってるか…ニュースにもなってたもんね」

 やった…!!見つけたぞ!!鳥籠のメンバーを!!!

 「あのセレモニーにも潜入しててさ…それで見たことあるなって……」

 なるほど…。だけど今は。

 「あの!お願いしたいことがあるんです!!」

 「……?」

 「用件が何かはわからないけど、嫌だよ私は」

 「おいおい、話だけでも聞いてあげようよ」

 男の方はまだ話が通じる相手っぽいな…。女の子の方に関しては聞く耳持たずって感じだ。

 「お願いします…!!」

 僕は大きな声でそう言い、頭を下げた。

 「………勝手にして」

 女の子はそう言ってベットに潜り込みそのまま動かなくなった。

 「で…お願いっていうのは?」

 よかった。この人はきちんと聞いてくれるみたいだ。

 「あの…あ、名前……僕は斗柄蓮っていいます」

 「蓮くんか……僕の名前は言えないけど、ごめんね?」

 「いえ、いいんです……それで、ですね……咎人送りにされてしまったある女の子を助けてほしいんです」

 僕がそう口にすると、彼の顔つきが一瞬変わった気がした。

 「女の子…?」

 「……僕のせいで…僕を庇って咎人送りにされてしまったんです」

 「君を庇って?なるほど…その時点で虚偽の咎を背負ってるから咎人送りにされる前の検査も通ってしまったのか……何もしてない人は咎人送りにされることは絶対にないからね」

 「あ…いえ、そうではなくて…話せば長いんですが……」

 僕はあったことを洗いざらい話した。何があったのか。どうしてこうなったのか。どうして助けたいのか。

 「なるほどね…それでカレンさんを助けたいんだね?僕らだったら助けたあとのサポートもできると考えたわけだ」

 「はい……彼女はここで咎人なんかにされちゃだめな人間なんです!でも…僕には……何もできないし……」

 「うーんとね…まずそれは」

 彼の言葉を遮って女の子が口を挟む。

 「はっきり言ってやったら?」

 僕と彼の視線がベッドの女の子に向く。

 「無理だって……ううん、助けないって」

 え?

 僕は彼を見る。

 彼は困ったような顔をしていた。 

 「…そんな言い方……」

 「なら私が言うよ」

 女の子は僕の前に立ち、座っている僕を見下げる。

 「おい…」

 男の人は心配そうな顔をして僕と女の子を見つめる。

 「……私たちは私達の目的があって集まっているの……人助けなんてしてないし、するつもりもない……その子は何か特殊な能力や使えるものを持っていたりする?荷物はいらないの」

 荷物……。そんな……。

 「おい!そんな言い方…」

 「うるさい!黙ってて」

 彼女にそう言われ、男の人は口を閉じてしまう。

 「それに、戦えないでしょ?まあ、今の時代だからこそだけど…格闘術ぐらいはやってると思う……だけど、それが何?こっちは命のやり取りを神人とやってるの……ただの子供を鳥籠は必要としてないの」

 僕は何も言い返せなかった。確かにそうなのだ。テロリストなんだから…"使えない人間は必要ない"。

 僕らみたいな子供に何ができる?まあ、目の前にいるこの女の子は15歳ぐらいだろうか?子供にしか見えないが。

 「じゃあもう行こう」

 女の子が部屋のドアへと足を運ぶ。

 「あ、ああ…」

 男の人がこちらに申し訳なさそうな顔をするも、同じように部屋のドアへと向かおうとした。

 「待ってください!!」

 「?」

 女の子が僕の割と大きな声を聞いたのか、部屋に戻ってくる。

 「なに?まだ何かあるの?」

 「どうして神人に逆らうんだ?」

 これが聞きたかったんだ。どうして戦うのか。どうして抗うのか。カレンのこと以外に、彼らを探していた理由の1つだ。

 僕の最近の思いを断ち切ってほしかった。神人が間違っているんじゃないか、この世界が間違っているんじゃないか…という思想を…その思想の根を刈り取ってほしかったんだ。

 テロリストらしい残虐な答えが返ってくると思っていたからだ。

 しかし、返ってきた回答は予想を遥かに上回った。

 「君は今勉強している歴史が真実だと思ってるかい?」

 は…?歴史??

 「そういう反応になるのも仕方ない……よく聞いてね?まず427年前に神人が地球にやってきたんだ」

 「!?」

 神人が地球にやってきた!?どういうことだ…?神人は元から地球にいたはずだろ????

 「そこから人類を支配した」

 男の人は僕の反応なんか無視で、スラスラと説明を続ける。

 「2019年のことだそうだ……彼らは空からやってきた……そして、人類を兵器を使い圧倒していったんだ……この兵器こそ、人間を咎人に変える薬なんだよ」

 咎人を使って…??

 「犯罪を犯したことのある人間はたくさんいたし、咎人は普通の武器じゃ傷をつけてもすぐ再生しちゃうからね…兵器としてはとても有能だったんだよ」

 確かに咎人に"普通"の武器や兵器は効かない。特殊な材料で作った武器でないとだめだという話を聞いたことがある。ただ、その材料が貴重らしく、それで作られた武器を僕は見たことがない。

 そんなの……信じられるわけ……は?意味がわからない。嘘だ。きっと嘘だ。

 「そこで、だよ…僕らの目的はね……トガノ」

 「ちょっと!!!そこまで話していいの!!?」

 男の人が何かの名前?を言おうとしたところを女の子が止める。何か重要なものなんだろうか?

 男の人は女の子を数秒見つめた後、話を続けた。

 「"トガノカミ"」

 「トガノ…カミ?」

 「そう…トガノカミというものがあれば…何でも願いを1つだけ叶えることができるんだ」

 願いを…?いや、待てそんなことよりも…。

 「待ってください!歴史とかトガノカミだとか…そんなのどこで知ったんですか?それに……確証はあるんですか?」

 「……神人も放棄することをやめた荒れた地帯には、文献やビデオが残っていてね…それはもうたくさんあって……そこにはある1つのビデオがあった」

 「………」

 「君たちも教科書で習ったと思うけど…神人の中でも英雄、神と呼ばれたマンセル・ドメアがトガノカミを神人の手で死守せよと

言っているビデオを見たんだ」

 「マンセル・ドメア!!?」

 知ってるも何もマンセル・ドメアは僕らにとっても神に等しい存在だ。

 「まあ…神人の管轄だとか何とかで君たちは自分の住んでいる場所以外のことを知らないよね……少しこれを見てもらいたい」

 そう言って渡されたチップを腕に付けている携帯にセットし、動画を流す。

 そこは地獄だった。人間は裸で鎖をはめられ、犬や猫のように歩かされ、気に食わないからと銃で撃たれ…犯され……。

 冷や汗が流れる。思わず生唾を飲んでしまう。

 「うっ………」

 「歴史に関しては文献を信じるしかないけど、神人の支配から逃げたした人間が書いたものだ……僕は信じる……そして」

 そして。で、彼は1度言葉を区切って僕を見つめた。

 「この動画が戦う理由だ……!!これは違う地区のものだが、君たちがどれほど幸せな生活をしているかわかるかい?僕らはこの世界を人間が神人との差なく、幸せな、平等な世界をトガノカミで作る」

 そしてとどめだった。

 「君は知っているか?君の住むこの連の以前の名前を…今いるこの場所の本来の名前を…!!」

 「!?」

 「ここは北海道……そして今いるこの場所は札幌という街だったんだ!!」

 そんな!!!!??嘘だ!!そんなことあわけ……?

 「神人が連として管轄を決めるのは…情報の漏洩を恐れているから……そして…各々がトップに立つために咎人送りで自分の連の軍事力を高め、それを自分だけで保持するためだ……僕らをテロリストテロリスト言うのは情報の漏洩への恐怖とトガノカミが原因だろう」 

 「……そんなの……」

 「信じる信じないは君次第だ……このことは他言しないこと!……じゃあまたね」

 僕に手を振り、彼らはこの場所からいなくなった。

 後に残されたのは、膝から倒れている僕1人だった。


 

 「本当に良かったの…?あんなに話して……」

 ホテルから出た男と少女はこの街での目的を果たすため、行動を開始し始めようとしていた。

 「……似てたんだ…」

 男が顔を下に向ける。

 「は?」

 「あいつに…似てたんだ……彼とはまたいずれどこか出会う気がする」

 


 ホテルの部屋のベッドに横たわりながらぼけっとしていた。

 信じられないことが多すぎた。もし本当だとするなら、神人は……。

 いや。今はそれはいい。カレンだ。どうすればいいんだ…?

 断られたときのことを全く考えていなかった。馬鹿だった。迂闊(うかつ)だった。

 自分1人で助けに行くしかない…のか。

 行けるのか?それ以前に行くのか?

 助けに行けば、まず間違いなく僕の存在もバレる。それは、ここでの生活を放棄することを意味していた。

 それでいいのか?助けられるかもわからないのに。いや、助けられるわけない。そこまで甘いはずがない。だったら僕が犠牲になるだけ無駄だよきっと。行かなくていい。行かなくていいんだ。仕方ないよ。ね? 

 ……………。

 こんな時に頭をよぎったのは……カレンのあの言葉だった。

 「くそっ……」

 


 外の暗い闇に紛れて、僕は警備員を気絶させることに成功した。

 僕は今、咎人送りが行わられる建物に来ている。

 ぶっちゃけて言ってしまえば、奇跡だった。たまたまなのか偶然なのか…警備員は1人しかいなかった。とりあえず、ラッキーというやつだ。進もう。僕は気絶させた警備員の服に着替える。

 ここにカレンがいるはずだ…。警備員の持っていたキーカードを使い、建物の中に入る。

 じめじめしていて暗いイメージがあったが、その通りの場所だった。

 カンカンカンカン。

 注意しないと足音が響いてしまう。

 建物内にはいくつかの扉があったが、全て南京錠のようなもので閉じられていた。

 歩いていくと、扉が3つある部屋に辿り着く。

 「扉が3つ……」

 左の扉には赤く、真ん中の部屋には"食料庫"。そして右の部屋には"立入禁止区域"と書いてあった。南京錠はかけられていなかった。

 真ん中はないだろう…。左と右のどちらかが収容所に繋がっているんじゃないか…?いや、食料庫の奥が収容所になっている可能性だってある。

 しかし…下手に扉を開けるわけにはいかなかった。

 この建物に入ってここまで来るまでに、なぜか警備員やこの建物で仕事をしている人間に遭遇していないとは言え、この3つのどれかの扉を開けた先にそれらの人たちがいない保証はどこにもない。

 ドクンドクン。   

 立入禁止区域…は恐らく何か危険なものを管理している場所…じゃないか?いや、そう考えよう…。

 ドクンドクンドクン。

 額から汗がつうっと流れる。

 だとすると…ここは…左だ!!

 ドクンドクンドクンドクン。

 扉に手を伸ばす。

 ドクンドクンドクンドクンドクン。

 背中を伝う汗が冷たくて気持ちよかった。

 ドクンドクンドクンドクンドクンドクン。

 鍵がかかっているかもしれないじゃないか。落ち着け。落ち着け。

 ドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクン。

 ガチャリ。

 開いた。

 静かに、そして手早く深呼吸をした。

 「ふう…」

 落ち着け…落ち着け。

 扉を開け、意味がないかも知れないがそうっと中を除く。

 そこには、今の僕と同じ格好をしている人間が5人いた。

 


 「捕らえろおおお!!!!!」

 見つかってしまった。

 突如サイレンが鳴り始め、辺り一体に警報音が響き渡る。

 まずいっ!逃げなきゃっ!!

 僕は一瞬来た道を戻るか別の扉に入るか迷った、が。その時、立入禁止区域の扉から知った顔が出てきたので足を止めてしまう。

 「あ」

 「あ」

 お互い指を指し唖然と…してる場合ではない。

 立入禁止区域の扉の中へ駆け込む。

 「なんで君がっ!!!」

 「今は逃げましょう!!!」

 立入禁止区域の扉の内側は、螺旋階段がある大きな円柱のビルの中にいるような感じを彷彿とさせた。

 階段は上にも下にも通じている。

 「どっちに行きましょう!!?」

 「下だ!」

 躊躇もなく彼は下を選んだ。

 パンッ!!

 「!!?」

 響いたのは銃声だ。

 今走り抜けた箇所は弾丸が当たったため、煙のようなものが上がっていた。

 「とうとう撃ってきたね、どうする?龍尾(たつび)!!」

 「おいっ!こんなことで実名出すな!!」

 龍尾と呼ばれた男は、いくつかある扉の内の1つを選び、扉を開ける。

 「早く入って!!」

 僕らは銃による追撃から逃げるように扉の中へと駆け込む。

 僕が入り終わると同時に、扉の側にあったありったけの重いものでバリケードを作る。

 「ふぅ…」

 「これからどうします?」

 僕は部屋の中を歩きながら、ここから脱出する方法を考えていた。龍尾と呼ばれる男と女の子は座っている。

 そういえば、立入禁止区域から先にある扉には、見た限りは南京錠はかかっていなかったな…。

 どこかに出口とかあるなら、そこから抜け出せるはずだ…!

 しかし。

 「よしっ!休憩終了!!」

 ……え?

 龍尾はそう言い、部屋の奥にあった大きな箱をずらす。

 「あ…!」

 そこには下へと繋がる階段が隠されていた。

 龍尾は振り返り目を細めて笑顔を見せる。

 「行くよ」

 


 僕らが階段を降りた先は、広い廊下に繋がっていた。

 左右どちらにも行けたが、彼らは迷わず左を選んだ。僕もそれに従うことにした。この人たちといたほうが安全だから。

 でも…。

 「どうして知ってたんですか?」

 「ん?ああ、あの隠し階段のこと?それなら、ここの情報を少しだけ知ってるからかな」

 情報…?よくわからないが、やっぱりテロリストにはテロリストの情報収集源があるのだろうか。

 ガチャリ。ガチャリ。ガチャリ。ガチャリ。

 僕らより前にあった扉が一斉に開く。

 出てきたのは、

 「咎人…!」

 「ひいぃっ!」

 生で見るのは久しぶりだった。そのため、あまりの醜悪さに小さな悲鳴をあげてしまう。

 グルルルル…と唸り声を上げ、ジュタジュタとこちらへ歩いてくる。

 グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!

 たくさんいる中の1体が奇声を発すると、他の咎人もそれに感化されたのか奇声をあげ、こちらへ走ってきた。

 僕はとにかく走って逃げようとした。

 なのに、彼らは立ち止まっている。

 「はあっ、何してるんですか!!早く逃げましょう!!!」

 「龍尾、ここ私殺るから先行ってて」

 「籠女(かごめ)…任せたよ」

 「……名前」

 そう吐き捨てると、驚くことに籠女と呼ばれた女の子は咎人たちのいる方向へ走り出したではないか。

 籠女は懐から小さなボールのようなものを出すと、それを自身の目の前に投げる。

 ボールは2振の刀に変わり、籠女は鮮やかにそれを掌に収め、まるで可憐なダンスのように、その2振の刀を咎人の首元へ突き刺し、掻っ切っていく。

 僕はつい立ち止まり、魅入ってしまった。

 鮮血が飛び散り、咎人を斬る時に嫌な音もしているのに。

 なんて綺麗なんだ…。

 「おい!!蓮くん行くよ!!何してんの!!!」

 はっ。

 「すみませんっ!!」

 僕らは後方へと駆け出した。



 どれほど走っただろうか。

 目の前には大きな扉が1つあった。 

 「はぁっ…はぁ…」

 龍尾は流石テロリストといったところだろうか。息切れ1つしていなかった。

 「いいんですか…?あの子だけ置いてきて……」

 「いいのいいの、現に僕らの元に咎人は1体も来ていないでしょう?」

 本当だ…。確かにここまで逃げている間に、咎人は"1体も見ていない"。

 「変じゃないですか?後方にも扉はあったのになんで咎人は前方からしか現れなかったんでしょうか」

 本当におかしいのだ。まるで何者かに誘導でもされているみたいだった。

 しかし、龍尾はこの問にも間髪入れずに答える。

 「恐らく…やつかな……」

 "やつ"?

 僕は"やつ"について聞こうとしたが、それは叶わなかった。いいや、叶えなかった。

 「ほら、早く進むよ」

 龍尾が扉を開けた先は、大きな部屋になっていた。

 大きなシャッターのが2つあり、中央には大きな円形のエレベーターがあった。

 そしてそのエレベーターの前には…鎖に縛られ、椅子に座っている女の子が1人いた。

 カレンだった。



 「カレンッ!!」

 僕は駆け、カレンの元へと急ぐ。

 が。

 パンッ……。

 「!!」

 乾いた銃声。

 弾丸は僕の足元に当たっていた。

 いつの間にそこにいたのか、カレンの後ろから現れた1人の男。

 「初めまして蓮くん…」

 「!!」

 なんで……名前を…?

 「そして…久しぶりだね…堂園(どうえん)龍尾くん……」

 「……K…!!」

 Kは笑顔を浮かべながら、カレンの頭に手を乗せる。

 「ここまでご苦労様…用があるのは管理庫かい?」

 管理庫…?

 「残念だけど、"トガノカミ"の情報はここにはないよ」

 「そうかい…!!」

 龍尾は拳銃を取り出し、銃口をKに向ける。

 Kは両手をあげつつも、笑みを消すことはなかった。

 「お前を捕らえる…K!!」

 穏やかなだった龍尾の口調は荒々しくなっていた。

 「まあ待てよ…私はそこの蓮くんに話があって来たんだ」

 「…僕に?」

 龍尾は目線を一瞬僕に向けた。

 なぜ…??もう既に名前などの個人情報がバレていたとしても、僕は今日反逆を起こしているんだ。話があって来るなんて、できるはずがない。

 「満葉カレン…この子が君をかばった…君が撃てと言ったからこの子は撃ってしまったのに……」

 「!?」

 なんでそんなことまで???どうして??なんで?????

 「どうしてそれを知ってるんだ!?」

 「君は咎を免れた…いわば特別な存在なんだよ……」

 特別……?

 「何言っ」

 「K!!」

 龍尾の声が僕の言葉を遮る。 

 「……ああ、そうだ…既にこの子以外の咎人送りは終わってるから……」

 「何!?」

 「咎人送りは明日じゃ…?」

 「……咎人送りはさ…ある薬を注射するんだけどね…それはそれはいい表情をしたよ彼ら」

 残虐な笑みというのは、こういう顔のことを言うんだろうかというほど、その言葉がお似合いなほど、Kは恍惚とした表情を浮かべていた。

 「It's showtime」

 Kが指をパチンと鳴らすと、2つあったシャッターがどちらも開く。

 中からは大量の咎人。

 50体はいるだろうか。

 「僕はこの子と先に行ってるね…蓮くん」

 そう言い残すと、Kはカレンが縛られている椅子を軽々と片手で持ち上げエレベーターの中へと入っていく。

 「待って!!」

 僕はエレベーターへ急ごうとするも、既に咎人がすぐそこまで迫っていた。

 「先に行け…蓮くん!!」

 龍尾は迫り来る咎人の前に立ち塞がり、咎人に拳銃を向ける。

 「でも…!!」

 「彼女を!助けに来たんだろう!?」

 「!!」

 そうだ。僕は…カレンを助けに来たんだ…!!

 僕はエレベーターへと走った。



 エレベーターは僕が乗ると、ボタンを押していないのにもかかわらず、動き始めた。

 カレン…!絶対助けてみせる!!

 ピンポーンと言う音が鳴り、扉が開く。

 目の前に広がる光景は、あまりにもシンプルだった。

 椅子に縛られているカレンとその後ろに(たたず)むK。それと大きなシャッターが1つ。そして、扉が1つ。

 「やあ…来てくれてありがとう」

 「K…!!」

 「おやおや、名前を覚えてくれたのか…嬉しいよ蓮くん」

 「カレンを開放してくれ!!もともとは僕の咎だ!!!」

 「そう急ぐなよ…」

 Kは注射器をカレンの首に当てる。

 「!」

 「注射しちゃうよ〜?」

 「やめろ!!」

 「じゃあ話そっか…」

 僕は従うしかなく、黙って話を聞くことにした。

 「……」

 「いい子だ」

 そう言うとKは注射器をカレンの首元から離した。

 「……君も知っているよね…神人の殺傷が1番の咎だということをさ…」

 「知っています…でもそれが一体何なんですか…?」

 「敬語じゃなくていいよ、固いし…まあそれはいいとしてさ………本来は君が殺していたかもしれないんだよ」

 何が言いたいんだ…?

 「そうでなかったとしても…君のせいでこの子はあの神人を殺したんだ」

 ………。心に響く。刺さる。

 「だから」

 「なんだ、かい?」

 僕の周りの人はどうやら人の言葉を遮るのが好きな奴らが多いらしい。

 「先程言ったように君は咎を"免れた"んだよ……わかるかい?本来は君が咎を背負っていたんだ」

 そんな…!

 「そんなの…わからないじゃないですか…!」

 「いいや、そうだよ……これは君の咎なんだよ」

 違う!!僕のせいじゃ…!!!

 「君は特別なんだ…だから……」

 突然Kは注射器を再びカレンに突きつける。

 「ちょっ!!何を!!」

 「だから刺すから」

 は??

 「はーい、注入」

 僕はその言葉を聞くと同時にカレンの元へ走り出していた。

 体が脳より先に反応した、というやつだ。

 「カレンッ!!!」

 だが。

 Kはニヤリと笑い。

 ザッ。

 "注射器は僕に刺さっていた"。

 「え…?は…?」

 「"特別"になれたらまた会おうね!蓮くん!!」

 Kはカレンを連れて、扉へと歩き去る。

 「ぁっ…ひぇ…?」

 声が出ない。体が熱い。

 熱い。熱い。熱い。熱い。熱い。

 「お!そうだ…!!」

 Kはリモコンのようなものをシャッターに向けるとピッとボタンを押した。

 「本当に死なないでね?待ってるよ」

 Kはそう言い残すと、また扉へと足先を向けた。

 体が言うことを聞かず、僕はその場に倒れ込んでしまう。

 待っ……って…………!!!!

 ガコン。

 ガガガガガガガガ。

 シャッターから出てきたのは、とても大きな化け物と呼ぶにふさわしい怪物だった。

 ジュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ。

 体からは蒸気が出ている。

 目が見開かれる。

 熱い。熱い。痛い。熱い。痛い。熱い。痛い。篤い。アツい。遺体。居たい。イタイ。板い。アツイ。熱い。圧い。龍井。イタい。痛い。イタ胃。タスケテ。

 「ゔうああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!」

 化け物はその大きな尻尾を。

 叫ぶ僕へ叩きつけた。



 ドゴオォォォォン!!!!!!!

 凄まじい破壊音が鳴り響く。

 僕の体は吹き飛び、壁に激突した。

 砂煙が舞い、辺りには静寂が訪れる。

 ……。

 …………。

 ……………………………………………………………………。

 静寂を破ったのは、僕が立つ音だった。

 スタン。

 スタスタスタ…。

 足音がする。

 誰の?

 僕のだ。

 僕は化け物の方へと歩く。

 僕は生きているのか?

 なんだ…変だな。痛かったのに…もう大丈夫だ。

 あれ?

 口が開かない。

 息がしづらい。

 僕は一体…?

 砂煙が晴れる。

 口元には大きな仮面のようなものが付き、右腕は見るからに硬そうな…まるで鋼鉄のような大きな甲殻に覆われ、肥大化していた。そして、その先の爪は異常なほど伸びている。

 なんだ…これ……。

 考えている暇はなかった。

 化け物は僕を視界に入れるなり、今度はその細長い巨大な腕の大振りを放ってきた。

 "見える"。

 僕は体を落としそれを躱す。

 次はまたもや尻尾だ。

 飛べる気がした。だから飛んだ。

 飛べこそはしなかったが、4メートルは跳んだだろうか。

 その一撃もやり過ごす。

 眼鏡なんてどこかにいったのに…見える。全部見える。

 これなら…こいつを……

 "殺せる"。

 化け物の腕と尻尾による乱打を全て避け、躱す。

 そして着実に化け物に近づく。

 殺れる!殺せ!!殺せ!!!

 "殺せ!!!!!!"

 「フシュウウゥゥゥゥゥ!!!」

 口元から溢れる叫びと同時に、僕は大きな腕を一閃した。

 僕の爪先で化け物の頭を吹き飛ばしてやった。

 ざまあみろ。ははは。

 はははははははは…は?

 あれ?僕…一体何を……?

 「っぐ、ふぐっ」

 息ができない。

 苦しい。

 苦しい。苦しい。

 「後ろ向け馬鹿!!」

 「っ!?」

 振り向くと化物はまだ生きていて、僕に向けて腕を叩きつけようとしているところだった。

 が、それは僕には届かなかった。

 ジュシュッ!!

 籠女がその腕を斬り落とし、そして。

 化け物の首元に光る何かを突き刺した。

 彼女は鮮やかに着地し、こちらへ歩いてくる。

 倒れた化け物が起き上がることはなかった。

 「こいつら殺す時は首元狙わないとだめだから」

 「……あ…はっ………」

 シュウウゥゥゥゥゥゥゥゥという音と共に、僕の口についていた仮面のようなものが消え、腕を覆う甲殻もまた消失した。

 「……咎神(トガガミ)になったんだ…」

 「はぁ…はぁっ……はぁ……」

 息が整いようやく問う。

 「咎神……?」

 「咎の神の咎神……人間と咎人の真ん中…半端者だよ」

 「……」

 「たぶんだけど…口元を塞ぐような姿になったのはアンタが自分で行動せず、カレンって子に行動を委ねたからだと思う…腕は自分自身で行動しろってことじゃない??咎神の姿は自分の咎から形成されるから」

 「自分で………はっ!そうだカレンは」

 どこに!?と言いかけたが僕の言葉は途中で止まってしまった。

 視界に血だらけで倒れている龍尾の姿を捉えたからだ。

 「……え」

 彼女は僕の視線が伸びるものに気がついたのか、こう吐き捨てた。

 「ああ…死んだよ」

 ………は?

 「……死んだよって…なんで?」 

 「なんで?そんなの弱いからに決まってるじゃん」

 違う!!

 「そうじゃない!仲間だろ!!なんでそんな簡単に口に出せるんだよ!!?」

 彼女はなぜ僕が怒っているのか。怒鳴っているのか。そのこと全ての訳がわからないという表情を浮かべた。

 「……なんで怒ってるのかわかんないけど…龍尾が死んだのは弱いからだよ……殺されるのも、傷つけられるのも全部自分がそれを対処できなかったから」 

 「そんな……」

 "そんなことない"と言いたかった。だけど…言えなかった。

 きっと彼女はそういう世界で育ってきたんだろうと考えてしまったからだ。

 「………」

 「…とりあえず目的達成しなくちゃ…行くよ」

 立ちすくむ僕にそう言い放ち、彼女は扉を開ける。

 その先にあったのは、管理庫だった。

 外部と連絡を取るための機械や、映像が流れているテレビなどで部屋全体が埋まっていた。

 気になったのは出口がこの扉以外見当たらないのに、ここに入って行ったKとカレンの姿がないことだ。

 隠し扉はこの後探したが、とうとう見つけることはできなかった。

 籠女は資料を漁っている。

 "トガノカミ"の情報を探しているんだろう。 

 「ここには………、……」

 テレビに映っていた映像が目に入る。

 映っていたのは…人間とたくさんの咎人と化け物が戦っている光景だった。

 


 その後、結局Kに関しての情報も得られず、僕たちはこの建物を脱出した。

 地面を掘り終わる。

 「どうするの…?」

 「いいから」

 籠女は龍尾の遺体をその中に静かに置くと、手を合わせる。

 「………」

 僕も彼女に倣い、手を合わせた。

 彼の埋葬を終えると、籠女は僕の方を見つめ、ある1つの質問をしてきた。

 「これからどうするの?アンタは……」

 これから………。その答えは既に決めていた。

 「カレンを探す……だから鳥籠に入れてほしい」

 彼女はニヤリと笑い、こう答えた。

 「鳥籠へようこそ」

お目を通していただき、誠に感謝申し上げます。

どうでしたか?感想を是非教えてください!

未来なのにあまり科学や文明が発展していないのは、神人が人類の成長を防いでいるからですね。

それと、籠女が使っている刀や龍尾が使っている銃は作中にも出てくる特殊な素材というやつで作られたものです。

それと、蓮が施設の人のことをあまり考えていないのは、自分のことばかり考えていることを強調したかったからです。

2話目を書く元気や発想に繋がるので、もしよければ感想よろしくお願いいたします!!

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