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オレはとうとう処刑台の前に立っていた。

あぁ......オレはこの疑問を抱えたまま、ここで死ぬ事になるのか......

牢屋の番人が処刑台にあるギロチンにオレを繋ぎ、処刑台の前にある壇を見る。

壇の上には、王と宰相が立っていた。

宰相は声高らかに

宰相「罪人カルナシスよ!

   お前は我が国と我が王を裏切り、我が国の乗っ取りを企てた罪により、

   ここで処刑される事となった!」

と宣言した。

宰相「罪人カルナシスよ、最後に言い残す事はないか?」

宰相はオレにそう聞いてきた。

オレは、王の顔を見て、一言だけ、最後の力を振り絞り、掠れた声で

オレ「我が王......と......我が国......の......未来......永劫の.......

   繁栄を......」

と答えた。

王と宰相は驚き、そして処刑台の周りに居た人々はどよめきの声を上げる。

 王「......カルナシス......」

王はオレの方に力なく手を伸ばし、一歩処刑台の方へと歩み出たが、宰相に抑えられる。

宰相「王よ......」

 王「......」

王は手を下げ、肩を落して下を向く。

宰相は王を一瞥した後、再び

宰相「王よ!」

と促した。

王は、処刑台のオレを悲しそうな目を向け、

 王「やるがよい......」

と答えた。

宰相「やれ!」

宰相の言葉で、ギロチンの歯がオレの首に向かって降ろされる。

オレは目を閉じて最後の時を待った。

......と、そこで処刑台の周りに突風が吹き、強い光に包まれた。

宰相「なっ......何事だ! 一体何が起きている?!」

宰相が声を上げるも誰も答える事ができず、呆然と目の前の光景を見る事

しかできなかった。


光の中、オレはいつかの夢で見た女性に会う。

女性「ああ、あなた......私のあなた......」

オレは女性に目を向ける。

女性はオレに両手を差し伸べ、

女性「ああ、あなた......私のあなた......

   今こそ.......私の元へ......」

と呟き、オレに慈しみの優しい目を向けた。

オレは、全ての痛みも苦しみも無かったかのように、

穏やかな気持ちで彼女を見つめていた。


光の近くに居た牢屋の番人と処刑の執行人、そしてそれを守る衛兵達は不思議な光景を見た。

光の中に一人の美しい女性が現れ、そしてカルナシスへと手を差し伸べると、

カルナシスを拘束していたものからカルナシスがすり抜け、女性へと吸い寄せられる。

そして、カルナシスは少しずつ若返り、赤子へと変化してゆく。

その状態を全ての者が固唾を飲んで見ている事しかできなかった。

彼等には目の前の光景を見ながらも、何が起こっているのかを理解する事ができなかったのだ。


強い光が収まると、そこには一人の女性が赤子を抱えて立っていた。

女性は、赤子へと慈しみの目を向けて微笑む。

ギロチンに繋がれていた筈のカルナシスの姿はそこには無い。

しかし、誰もがその赤子がカルナシスである事を直感で理解する。

そして、これから何が起こるのかも......

宰相「王よ! お逃げください!」

咄嗟に宰相は王の前に立ち、王へそう進言するが、王は目の前の女性と赤子

に釘付けとなり全く動く事ができない。

 王「あ......あぁ......」

王は震えなが呻き声を上げる。

宰相「誰か! 王を安全な場所へ!」

宰相の声に呆けていた兵達が反応し、王を避難させようとするが、

王はその場に座りこんで女性と赤子を見て震えている為に、

自力で立つ事のできない王を避難させる事がなかなかできずにいた。



ふと、女性は赤子を抱えて上へ上へと少しずつ上がっていく。

そして、慈しみの目で見ながら、子守唄でも歌うかのように静かに歌い始める。


  ー おぉ ナーシサス おぉ ナーシサス ー


この世のものとも思えない美しい歌声.......

女性の胸に飾られていた花が香る。


  ー おぉ ナーシサス おぉ ナーシサス ー


その場に居る全ての者が静まり、その歌声に聞き入る。

何処からともなく水仙の花びらが広場に舞い降り、香りが充満していく。


  ー 香れよ 胸の水仙 尽きる命をなだめて ー


人々はただ立ち尽くし、その歌声に聞き惚れる。

そして、大地が揺れ始める。

大地は割れて人々は裂けた大地に飲み込まれ、建物は崩れて人々に降り注ぐ。


  ー 吹けよ町に 一陣の風 眠る我が子が癒えるまで ー


更に、竜巻が現れ、あらゆる建物と人々を巻き上げ、破壊していく。

しかし、誰一人として逃げようとはしない。

全ての者が終わりの時を待つかのように、ただただ立ち尽くしていた。


王も宰相も、ただその場に立ち尽くしていた。

そして、赤ん坊を抱えている美しい女性に見惚れたように見続ける。

いつしか、王も宰相も、竜巻と地震に飲み込まれていた。


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